「民主主義」を謳うも「権威主義」に染まった歴史修正映画「ハマのドン」(1)
*これまで歴史修正主義を批判してきた立場の著名人10名以上が一転して歴史修正主義に加担した事態を重く見て、通常と異なり全体の9割以上を公開直後から無料公開します。
*映画内容への言及を含む点はご注意ください
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*ニュースレターの重点テーマ、特に反響が大きかった過去のコンテンツはリンクを参照ください
この記事を書いた理由
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いわゆる「リベラル」「良識派」とされる人物やメディアであっても、全てにおいて完璧な人物など存在しない
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とはいえ、一般的にはイメージが良い人物やメディアが称賛しているからとって批判をためらってしまうと、その問題は放置され、さらには報道関係者やメディアの質のさらなる低下を招く恐れすらある
この記事で理解できること
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ドキュメンタリー映画「ハマのドン」は不都合な現実を一切映さないことによって、虚構の筋書きを成立させていること
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表向きは「民主主義」の重要性を説く同映画が、実際は対極の「権威主義」に依存しており、もはや「歴史修正主義」の域に達していること
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これまで「権威主義」「歴史修正主義」を批判してきたはずのメディア・有識者が揃ってこの映画を称賛し、歴史修正主義に加担する背景
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映画を制作したテレビ朝日 松原文枝監督と江口英明プロデューサーの認識
プロパガンダ映画の教材「ハマのドン」
5月5日、テレビ朝日制作のドキュメンタリー映画「ハマのドン」 が公開されました。公式ウェブサイトの「カジノ誘致阻止に向けて決戦の場となった横浜市長選。”ハマのドン”こと藤木幸夫が人生最後の闘いに打って出る!」「主権在民」等のキャッチコピーや予告編が示す通り、2021年8月の横浜市長選挙を通して藤木氏がカジノ誘致を止めたという筋書きになっています。
しかし、筆者はかねてよりこうした筋書きの妥当性に疑義を抱いていました。
ちなみに同映画は約1年前にテレビ朝日が放映した番組の拡大版。筆者が継続的に参加している横浜市長記者会見でのテレビ朝日の妙な動きと合わせて、当時から内容に疑義はありましたが、筆者は基本的に日本のテレビは全く見ないため、当時は番組を視聴せずにスルーしていました。
*1年前から確認できたテレビ朝日の不自然な動きについては筆者の連続ツイート参照
とはいえ、さすがに今回の映画化にあたっては影響が大きいために看過できず、公開初日(5月5日)に映画館で鑑賞。

筆者が映画を鑑賞した映画館の公開初日の外観(2023年5月5日 渋谷ユーロスペース)撮影:犬飼淳

上映後の舞台挨拶に登壇した松原文枝監督(2023年5月5日 渋谷ユーロスペース)撮影:犬飼淳

舞台挨拶には武内絵美アナウンサー、江口英明プロデューサーも参加(2023年5月5日 渋谷ユーロスペース)撮影:犬飼淳 *武内氏は2021年8月の市長選挙報道の時点からテレビ朝日の不自然な動きに関与していた人物
結果、懸念した通り このドキュメンタリー映画が描く世界と現実には大きな隔たりがあると確信。
今回のニュースレターでは、そのギャップを具体的なエビデンスに基づいてお伝えします。
筆者と横浜市政との関わり
ご存知の方は読み飛ばして構いませんが、筆者を知らない方のために念のため補足しておきます。
筆者はこの映画で描かれている2019年夏のカジノ誘致発表から現在に至るまで、横浜市政に関する記事をのべ60本以上公開しています。
(内訳:note 15本、ハーバー・ビジネス・オンライン 11本、theletter 38本)
映画で大きな焦点が当たるターニングポイントは特に重点的に対応。
2019年8月の林文子市長の突然のカジノ誘致発表から翌9月の市議会での攻防:約10本
2022年7月〜8月の横浜市長選挙:約10本
さらに、新市長就任翌月の2021年9月から現在まで継続して横浜市長記者会見に自ら参加しており、参加回数はすでに15回以上。
*実際の映像はYoutube参照
手前味噌ですが、4年間にわたって自ら見聞きした事実や蓄積した知見に基づいて、映画「ハマのドン」の問題点を具体的に指摘できると自負しています。
映画の中の虚構
松原文枝監督も筆者と同様、約4年前(2019年頃)から横浜のカジノ誘致や市長選を自ら取材してきたと当日の舞台挨拶で公言していましたが、映画で描かれた世界は私の知る実態とは大きくかけ離れたものでした。
筆者が映画「ハマのドン」の鑑賞中に頭に浮かんでいたのは、この風刺画でした。

これは、テレビカメラが映している出来事(左側の人物が右側の人物を襲う)と実際の出来事(右側の人物が左側の人物を襲う)が真逆であり、メディアは時としてこのような存在になることを表現しています。
映画「ハマのドン」はこの風刺画とよく似ています。

©️2023 Jun Inukai
約100分の上映時間中、「映画の中の虚構」では一貫して「賭博反対の大物で人格者の藤木幸夫氏がカジノ誘致を阻止できる候補者を市長に当選させ、横浜市民を博打から救った」という筋書きに沿った内容だけが映し出されます。その一方、「映画の外の現実」に存在する、筋書きに反する内容は一切映さずに隠す。さらに、映画全体の根幹に関わる重大な誤りも複数確認できます。映っている内容すら間違っているのですから、風刺画より悪質です。
結果、横浜市政の予備知識が少ない観客の場合、この偽りの筋書きにあっさりと騙されて、映画で描かれた通りに現実の横浜市もハッピーエンドを迎えたと思い込むこみます。
この偽りの筋書きは、大別すると8点(①〜⑧)から構成されていると筆者は感じました。
例えば「①藤木氏は大物である」では、映画の序盤、有名政治家(菅義偉、二階俊博、麻生太郎、竹下登 等)とのツーショット写真や繋がりが示されたり、NY在住のカジノ設計者からコンタクトがあってカジノの実態を伝える、などなど藤木氏が大物であると印象付けるエピソードが次々に示されていきます。
「②藤木氏は人格者である」では、同級生や恩師が空襲で亡くなる等の戦争体験を経て、戦後の復興期に野球チームを創設することで荒れていた少年たちを更生させた、事業においては港湾労働者の福利厚生(社員寮、食堂)の向上にも尽力したエピソードなどが挙げられていきます。
このように、冒頭の1時間弱ほどを目一杯つかって、とにかく藤木氏は大物で人格者であると観客に印象付けるわけです。この①②は真偽を確かめようがないし興味も無いので言及しませんが、こうした見せ方には疑問があります。筆者はのべ20年以上も横浜市に住んでいますが、藤木幸夫氏のことは2019年にカジノ誘致が本格化する以前は、ほとんど知りませんでした。大半の横浜市民は名前も知らないでしょう。あくまでも地元の有力者に過ぎないのです。
虚構と現実のギャップ
「映画の中の虚構」で描かれている世界で③〜⑧は、「完全な誤り」(赤字)や「誤りとは言い切れないものの問題がある」(黄字)内容が多く含まれます。それらに関連する「映画の外の現実」を明らかにしたのが、以下のスライドです。

©️2023 Jun Inukai
③〜⑧を順にご紹介します。
③藤木氏は博打に絶対反対
③は映画の根幹に関わりますが、完全な誤りです。
藤木氏は横浜市長選挙を目前に控えた2021年8月3日、外国特派員協会で記者会見を開催。市長選の候補者に関連してカジノに話題が及んだ際、次のように明言しています。 *太字は筆者判断
カジノの問題なんか小さな問題なんです。ただ、マスコミの皆さんがやっぱりカジノを中心にリポートされてるから、これだけのことになってる。私、カジノはやっていいんですよ。横浜港以外ならどこでもやってくださいよ。だって国がやると言ってるんだから。
*映像はYoutube (48分33秒〜)で視聴可能
この発言が示す通り、藤木氏は従来よりカジノを容認する言動を繰り返していました。しかし、利益を得るのは自分たち(藤木企業、横浜港運協会)ではなく海外のIR事業者(メルコリゾーツ、サンズ等)であると分かったために反対に転じたのです。つまり、藤木氏は「カジノに反対」なのではなく、「自らの利権に繋がらない形でのカジノに反対」していたに過ぎません。
この発言は非常にインパクトがあったため各社が以下のように見出しで報じたほどなので見落とすはずはないのですが、「映画の中の虚構」の世界では無かったことにされました。

同会見を報じるPAGEの見出し
その一方、映画では同日の記者会見で藤木氏の港への愛着、大物政治家とのパイプをアピールできる以下の場面はしっかりと映像として使われていました。
港の話しかできませんから港の話をするんです。大好きなんです。なぜ大好きか。港ぐらい間違って世間から見られてる世界はない。鳩山由紀夫が内閣をつくったのが2009でした。国土交通大臣になった前原さんが私の部屋へ来ました。横浜へ。そのときに彼がちょっと2人きりでお話をしたいと言うんで、1日いたわけですけど、2人きりで話をした。それは何かというと、こういうしぐさをしましたよ。港で働く人と、こういう人とは、藤木さん、どういう関係ですかというね。その質問をする前にもじもじして、なんか聞いても怒りませんかって言うんだ。怒りませんよと。聞いてください。あなたは大臣になったんだから港のことは全部知ってなきゃいけない。本当に怒らないですかと。怒らない。つまり港とやくざとはどういう関係だということを私に、ストレートに聞きたかったんですね。
*筆者はメモをとれない状況で鑑賞していため、正確な引用箇所はズレていたり他にも使われた場面が存在する可能性はあり
このように、たとえ同日の記者会見であっても筋書きに合致する内容は採用し、筋書きと矛盾する内容は存在自体を無視するという制作者の姿勢は他でも随所に見られます。
「この1回の会見の発言だけで③を誤りと指摘するのは根拠が弱い」と感じる読者もいらっしゃると思うので、さらに直接的な発言もご紹介します。まだ自民党(菅義偉氏、二階俊博氏)との関係が良好だった2017年、FLASHのインタビュー記事で藤木氏は以下のような発言をしています。 *太字は筆者判断
「去年、『菅さん、俺もカジノやるからね』と言いましたよ。それに二階さんはいつも俺に『(カジノは)横浜と和歌山で』と言うんだ」
「横浜港の体質をこれまでの物流中心から観光へと変えるのがカジノ・IR。これからは港だけでは稼げなくなる。」
「我々港運協会は、横浜のカジノ・IRをすべて仕切る『ディフェンス役』なんだ」
「俺が『カジノは横浜でやる』って言った記事が出ることで、藤木って野郎がふんぞり返っているということが周囲にわかれば、俺にとっては成功です」
「映画の中の虚構」と真逆の内容なので混乱された方もいるでしょうが、リンク先の記事もお読み頂ければ分かる通り、これらは全て藤木氏の発言です。この当時は海外のIR事業者ではなく自らにカジノ利権を得られる状況だったため、藤木氏は諸手を挙げてカジノに賛成していたのです。
上記は6年以上も前の発言でしたが、わずか半年前に明らかになったエビデンスもあります。2022年11月(カジノ反対を掲げた新市長就任の1年3ヶ月後)、横浜市が公表した山下ふ頭再開発の事業者提案資料ではスライド7枚にわたってスポーツベッティングが詳細に提案されています。
「スポーツベッティング」という横文字で実態を曖昧にしていますが、これらの説明を読めば分かる通り実態は博打そのものです。特に気掛かりなのは「330兆円市場」「税収増に直結」などのアピールが、2021年に撤回したはずのカジノIR誘致時のアピールポイントと酷似していることです。後ほど⑧でも説明しますが、カジノIR誘致の反省が現在の市政にほとんど活かされていない実態を象徴しています。
この博打(スポーツベッティング)を含む計画の提案事業者にご注目ください。
ご覧の通り、提案事業者に横浜港ハーバーリゾート協会も加わっています。
そして、同協会の会長がご存じ、ハマのドンこと藤木幸夫氏です。
つまり、「博打に絶対反対」のはずの藤木氏が会長を務める横浜港ハーバーリゾート協会が、博打を含む再開発計画を提案しているのです。もしくは、仮に直接の提案事業者ではないにしても、同協会の位置付け(山下ふ頭再開発の提案を目的に設立し、240社以上の港湾事業者が参加)や公表半年が経過しても反対の意見表明は一切していないことを踏まえると、博打を含む再開発計画を容認していると考えられます。
ご本人の言葉を借りれば、自らの利権に繋がるのであれば「やっていいんです」し、「どこでもやってくださいよ」というのが藤木氏の本心そのものではないでしょうか。
*2023年5月10日更新:現時点の横浜市公開情報では横浜港ハーバーリゾート協会がスポーツベッティングの直接の提案事業者であることは否定も断定もできないため記載を見直し。詳細は井上さくら市議の連続ツイート参照。
④カジノ誘致を阻止できる候補者を藤木氏が支援
④は誤りと言い切れないものの、問題があります。
まず、2021年8月の横浜市長選挙に最終的に立候補した8名のうち、カジノ推進を明言していたのはわずか2名(林文子氏、福田峰之氏)で、残り6名は全員カジノ反対(もしくは見直し)という状況でした。
というのも、2020年に始まったコロナ禍の影響もあり、誘致の大前提であったカジノ事業者はすでに撤退し始めており、カジノ誘致という国策自体がすでに180度の方針転換をしていたからです。事実上、カジノ誘致の撤回は横浜市長選挙の結果を待たずして既定路線だったわけです。誘致を強行されるわずかな可能性としては、政府にハシゴを外された林文子氏が再当選して意固地になって誘致を進める、従来はカジノを推進してきた自民党の小此木八郎氏が公約反故して誘致に再転換する、などのシナリオが思いつく程度です。
現に、藤木氏は先ほども紹介した2021年8月3日の記者会見で、山中竹春氏のパワハラ・アカハラ報道を受けて候補者としての適格性を質問された際、次のように発言しています。 *太字は筆者判断
山中さんのことは、私は何も知りません。とにかく誰か出さなきゃいけないっていうことだけは、あのとき分かってましたね。(中略)江田に任したの。もう誰でもいいよ。林以外なら誰でもいい。(中略)それでいろいろ、掘り出しゃいろいろなことが出てきて、もう、これまたスキャンダルが山ほどあるから、もうそんなことを、横浜の恥だから嫌だ、俺はもうノータッチだ。その代わり、江田くんがこの人がいいよと言ったら、俺はそれでいいよと、もう俺は顔を出さないと。
*映像はYoutube (38分45秒〜)で視聴可能
*「江田」とは、立憲民主党 神奈川県連 最高顧問(当時)の江田憲司 衆議院議員
要は、「山中竹春氏のことは何も知らない」けど、「候補者は林文子氏以外であれば誰でも良いから一任した」という趣旨を述べています。「誰でも良い」は、横浜市長選挙の本質を的確に表す重要な言葉でしたが、この場面も映画では使われませんでした。筋書きと矛盾する内容は存在自体を無視するという制作者の姿勢がここでも現れたわけです。
*映画では市長選挙前に候補者選びをテーマに藤木氏と江田氏を含む関係者が会議をする場面はあり
ちなみに、カジノは争点ではないという実態を踏まえて選挙活動を戦った候補者もいました。
「今回はカジノとコロナが選挙の争点だ」って言うような人たちがいるけど、違うと思うんですよね。カジノはもう解決済み
しかし、こうした実態を完全無視して、大半のメディア、候補者、有識者たちはあたかもカジノ誘致が横浜市長選挙の最大の争点であると喧伝し続け、本来の争点(旧市庁舎売却、中学校給食、上瀬谷通信施設跡地の活用 等)は覆い隠されたまま市長選挙は終了。結果、これら重要テーマの全てが新市長就任後に市民ではなく利権を優先する形で進められ、現在進行形で市民が多大な不利益を被っています。
当時、筆者は微力ながら同選挙の問題点について集中的に取り上げて、市長選前後の2ヶ月間で10本以上の記事を公開していましたが、それでも本来の争点がなかなか注目されないこと、2ヶ月後に迫っていた衆院選挙の前哨戦と位置付ける意見が多く、なかなか認知が広まりませんでした。

問題人物の市長が誕生したら不利益を被るのは横浜市民。
あなた方が批判した、国民そっちのけで五輪開催を望んだアスリートのエゴとなんら変わらない。

国政選挙とは仕組みも構図も違う。
*投開票前日の筆者の率直な所感はtheletter「【横浜市長選挙2021】これまでの経緯(カオス)を振り返りつつ、今後の展望を考える」(2021年8月21日) 参照
⑤藤木氏の力で無名候補者のハンデを克服
映画では全編を通して、「大物」の藤木氏が支援したことで無名候補というハンデを背負う山中竹春氏が当選できたという筋書きになっており、これ自体は誤りではないと筆者も感じます。しかし、そもそも個人の一存で候補者だけでなく当選者まで実質的に決定できるのであれば、それは「民主主義」ではなく「権威主義」です。
また、山中陣営が無名候補というハンデを克服して当選できた最大の要因が映画では隠されています。それは、藤木氏の支援で得た豊富なリソース(人・モノ・金)を活かして脱法的な選挙活動(「コロナの専門家」という嘘、告示日を1ヶ月以上フライング、シルエットと連想ワードのサブリミナル街宣、住民投票署名の不正流用)を展開したことです。

©️2021 Jun Inukai
*脱法的な選挙活動の詳細は筆者のtheletter「立憲は横浜で何をしたのか(市長選挙の候補者擁立 編)」(2021年12月5日)のNo5〜8参照
横浜市の特性(政令指定都市ダントツの人口377万人)と公選法の制約(法定ビラは7万枚)に関連して2週間の選挙期間で無名の新人候補が名前を浸透させることは不可能という状況で、特に大きな効果を発揮したのが「シルエットと連想ワードによるサブリミナル街宣」です。選挙期間中、横浜市内の至るところ(駅前、繁華街、など)で同時多発的に不思議な支援者たちが出現していました。

この支援者たちが使っている看板・チラシ・うちわは非常に巧妙なつくりになっています。「コロナの専門家」「医学部教授」「48歳」など、立候補した8名の中で明らかに山中氏を連想できるワードと、本人を彷彿とさせるシルエットを全面に打ち出していますが、「山中竹春」という名前は絶対に書かれていないのです。
このカラクリを理解する上で、公選法に立ち戻ります。
指定都市の選挙にあつては、長の選挙の場合には、候補者一人について、通常葉書 三万五千枚、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に届け出た二種類以内のビラ 七万枚、議会の議員の選挙の場合には、候補者一人について、通常葉書 四千枚、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に届け出た二種類以内のビラ 八千枚
つまり、横浜市は人口が377万人もいるにもかかわらず、首長選挙では法定ビラを7万枚(=人口の1.9%相当)しか配布できないので圧倒的に数が足りない。特に無名の新人候補である山中陣営は「法定ビラ」以外の方法で山中氏の名前を市民に浸透させる必要があったわけです。
しかし、この142条の抜け穴を防ぐために公選法にはこのようにも書かれています。
何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない。
つまり、法定ビラが7万枚しか配布できないからといって、その他に候補者名が書かれたチラシなどを配布することも禁じるということです。そこで、山中陣営はシルエットと連想ワードのみの看板・チラシ・うちわで市民にアピールするという抜け道を編み出して、組織的に実行したのです。

この不思議な集団の違和感については、以下ツイートのスレッドによくまとまっているので、ご一読いただければと思います。

ちなみに、法定ビラ7万枚の範囲外であるシルエットと連想ワードのチラシ・うちわ・看板は立憲・共産の議員たちが山中氏本人が不在の場所でも街宣するにあたってフル活用しています。横浜市内を地盤とする国会議員・県会議員・市会議員を総動員して、連日にわたって市内各地で同時多発的に横浜市長選挙の選挙活動を行い、圧倒的な物量と人海戦術で山中竹春氏の浸透を図ったのです。本来であれば候補者本人がいない場所で名前の連呼はできませんが、立憲の一部の国会議員はそれすらも破っていたという目撃情報すらあります。
以下、そうした生々しい街宣のほんの一部を紹介します。
▼文面や写真から判断して、候補者不在の街宣(議員自らがシルエットのうちわを配布)

県連女性議員の仲間 #市川よし子 県議、#加藤ひでこ 市議も駆けつけて #長谷川えつこ 市議、#飯野まさたけ 県議と賑やかに。
コロナの専門家、山中竹春さんの応援よろしくお願いします!
▼写真から判断して、上段3枚の昼間の写真は候補者不在の街宣(シルエットのポスターを活用)

いよいよ明日は投票日。
政治が変わるか、
政治が動くか、
運命の日。
横浜市民の皆さま、是非投票にいきましょう。
そして皆さんの貴重な1票を
横浜新時代をつくる
山中竹春に。
どうか力をください。
さらに、このサブリミナル街宣については選挙カーと政策カーについても触れる必要があります。公選法でいわゆる選挙カー(選挙期間になると街中や住宅街に出没し、候補者の名前を連呼するので一般市民が「うるさいなー」と感じるアレ)は1台までと定められています。しかし、人口377万人の横浜市をたった1台の車で周るのは不可能です。そこで、山中陣営はここでも抜け道を使っています。選挙カー1台とは別に「政策カー」というシルエットや連想ワードによるサブリミナル効果を狙った車を1台導入して、2台体制で市内各地を周ったのです。

この政策カーのドアには藤木幸夫氏の名前が江田憲司議員とのツーショット写真と共にしっかりと刻まれていました。

きりがないので例はここまでにしますが、とにかく山中陣営の選挙活動の無法地帯ぶりは質・量ともに常軌を逸していたため、問題行為は他にも山ほどありました。

©️2021 Jun Inukai
全体像は筆者のtheletter「立憲は横浜で何をしたのか(市長選挙の候補者擁立 編)」(2021年12月5日)を参照ください。公選法自体が時代遅れという点を考慮したとしても、山中陣営がいかに民主主義とかけ離れた方法で当選を掠め取ったのかお分かり頂けるはずです。
ちなみに「山中陣営」というのは、選対の中心を担った立憲民主党神奈川県連と同義と捉えて頂いて構いません。さらにサブリミナル街宣の実働部隊として、横浜市内が選挙区の地方議員を中心に共産党 神奈川県委員会も加担しました。
一方、映画では当選の最大の要因であるシルエットと連想ワードのチラシ・うちわが一切登場しませんでした。強いて言えば、当選速報を受けた事務所の場面で後方の壁にシルエットのポスターが小さく映っていたのみです。筋書きと矛盾する内容は存在自体を無視するという制作者の姿勢がここでも現れたわけです。
⑥カジノ反対の住民投票署名も当選を後押し
当選を決定づけた脱法的選挙活動に一切触れず、映画では選挙活動をどのように描いたのかというと、カジノ反対の住民投票署名を集めた市民による地道で堅実なビラ配りを丹念に追っていました。
*ちなみに、配布していたビラはシルエットと連想ワードによる脱法的なチラシではなく、「山中竹春」という名前が明記された法定ビラ
こうした地道な活動も当選を後押しした一つの要因だったとは思いますが、そもそもこの住民投票署名は正当性に重大な矛盾を抱えています。多くの方が理解されていないので混乱されると思いますが、実はカジノに反対するために住民投票署名を集める必要は全くありませんでした。
順を追って説明すると、カジノの是非を問う住民投票実施のための条例案を制定するには、以下3つの方法があります。

©️2021 Jun Inukai
*住民投票制度の詳細は筆者のtheletter「【横浜市長選挙2021】カジノの是非を問う住民投票の実現可能性」(2021年8月8日)参照
「議員発議」は議員定数の12分の1以上(定数86名の横浜市議会では7.2人以上)の賛成で提出できるので、16名を擁する立憲民主党、9名を擁する共産党は政党単独で要件を満たしていたのです。それにもかかわらず、約6万筆(人口377万人を誇る横浜市の有権者の50分の1以上)もの署名が必要となる「住民発議」をあえて選んで立憲・共産を中心に市民を巻き込んだ署名集めが強行されたのです。
必要署名数は集まったものの、当初から十分に予想された通り過半数の議席を占める自民・公明によって市議会であっさり否決されました。

©️2021 Jun Inukai
*否決された審議の詳細は筆者がハーバー・ビジネス・オンラインに寄稿した「カジノ住民投票を否決した、横浜市会と林市長の横暴」(2021年1月13日)参照
当時、筆者も微力ながらこの住民投票署名が抱える矛盾と問題を度々発信しましたが、力及ばず立憲・共産の暴走を止めるには至りませんでした。

つまり、「カジノの是非を決める住民投票」なんてものは、そもそも実施されない。
そして、この展開は住民投票の制度を調べれば誰でも容易に予想できたこと。

そろそろ説明する必要があると思う。

賛成51名:自民35、公明16
反対34名:立憲・無所属フォーラム20、共産9、他5
なぜか市長リコールではなく住民投票の署名集めに邁進した立憲・共産にも強い疑念を感じます。
自らの行為を正当化するため、立憲・共産は「たとえ議会で否決されると分かっていても、住民投票署名の多さで民意をアピールできる」等と主張。その主張は理解できなくもないですが、その曖昧な目的のためにあまりにも大きな弊害が生じました。
というのも、本来は市民の力でカジノを止める方法は市長リコール一択であることは誰の目にも明白だったからです。必要署名数さえ集めれば議会審議を要さずに確実にリコールを実施でき、カジノを推進する自民・公明に議会で否決される恐れが無いからです。
*住民投票とリコールの比較の詳細はnote「【横浜市長リコールへの道】一発リコールと二段階方式の比較」(2019年9月9日)参照。ただし、当時議論の対象になっていた二段階方式(住民投票後にリコール)に焦点が当たっているため、適宜読み替えが必要
こうした制度設計にもとづく事実を全て無視し、住民投票を強行した立憲・共産はわざわざ署名収集時期をリコールと重複させて、「住民投票」と「リコール」の署名を市民に混同させて実質的に妨害するという暴挙にまで出ていたのが実態です。

リコールの署名集めも今月から始まっている中、市民が混同するリスクの方が大きいのでは?

「カジノ署名活動」とは書いても、住民投票なのかリコールなのか本文に明記しないあたりにこの議員の姑息さがよくあらわれている。

なぜここまで住民投票の署名集めに拘ったのかと言えば、横浜市長選挙および衆議院選挙(市長選の2ヶ月後)に向けた党勢拡大に利用した面が強いです。その証拠に、カジノに反対して署名した市民の個人情報を立憲民主党が自らの選挙で不正流用するという民主主義の根幹を揺るがすスキャンダルまで2021年10月に発覚。関与した疑いが濃厚な篠原豪議員、同様の被害報告が選挙区であがっている青柳陽一郎議員、江田憲司議員らは今なお説明責任から逃げ続けています。
*詳細は筆者のtheletter「立憲は横浜で何をしたのか(市長選挙の候補者擁立 編)」(2021年12月5日)の「No8住民投票署名の不正流用疑惑」参照
映画ではこうした住民投票の重大な問題には一切触れず、「住民投票の署名集めに取り組んだ一般の市民が、その勢いで横浜市長選挙でカジノ反対の候補を当選させる原動力になった」という筋書きに当てはまる部分だけを映したのです。
⑦当選翌月に山中竹春市長がカジノ誘致を撤回
これは事実であり、山中竹春市長が当選翌月にあたる2021年9月10日に市議会でカジノIR誘致の撤回を宣言する数秒間の映像は映画のクライマックスでも象徴的に使われていました。
少し脱線しますが、実はこれが映画で山中竹春氏の肉声をはっきりと確認できる唯一の場面です。他は相槌などを打つ場面はあるもののセリフらしいセリフはほぼ皆無。そもそも山中竹春氏の姿が映画にハッキリと映るのは全編を通しても1分未満(筆者が鑑賞中に体内時計で感覚的に数えたところ40秒程度)です。他の政治家(小此木八郎、林文子、菅義偉 等)は頻繁に画面に登場し、当然ながら本人の肉声を通して当時の空気感を伝えていくので、2人目の主役であるはずの当選者の姿も声もほとんど確認できないのは、あまりに異様です。都合の悪い人物は存在自体を消すという制作者の姿勢がよく現れています。
話を戻すと、この誘致撤回についても映画で触れられていない重要な事実があります。山中市長は副市長の留任を決定できる立場にありながら、カジノ推進の中心人物でカジノIR事業者からの接待を報じられていた平原敏英副市長をお咎め無しで留任させたのです。
さらには、初登庁からわずか1週間後(2021年9月6日)には問題の平原副市長と共にIR推進を要求していた商工会議所と真っ先に面会。

市民によって完全に否定されたカジノIR推進を最も体現してきた平原副市長を横に並べて、
IR推進を改めて要求してくる商工会議所と話し合い。
カジノ事業者からの高額接待疑惑はどう聞き取りしたのか、何をもって納得したのかについても何ら説明無し。

自民党で林市長を支援した市議だけでなく
IR取りやめをが公約にした小此木氏を支援した市議も「IRは必要、選挙は選挙」と言い出している
IR推進を牽引してきた平原副市長留任が色々なサインとなっています
こうした状況を受けて市議会で無所属・井上さくら市議が本件を質問するも、山中市長は平原副市長を留任させることは明言した一方、問題の調査については曖昧な答弁に終始。 *太字は筆者判断
【井上さくら市議】繰り返し反対の民意が示されたにもかかわらずカジノが推進され、市民不在の市政が続いたことを思うと、市長交代だけで済むことではなく、民意を反映できなかった私たち市議会も行政組織も変わらなければなりません。そこでまず、行政のトップとして長年林市政を牽引し、特にカジノ推進に力を注いできた平原副市長について、一般職とは違う特別職としての責任があると思います。市長はどう認識しているのか、平原副市長を留任させるのか、伺います。平原副市長についてはIR事業者から繰り返し高額接待を受けたと報じられました。この問題で市長として聞き取りはしたのか、その説明に納得したのか、また、本人の言い分を認めて終了ではなく客観的な調査を行うべきですが、見解を伺います。
【山中竹春市長】平原副市長についてですが、今般のIRの誘致撤回を理由として副市長を退任させることは考えておりません。副市長への聞き取りについてですが、私が直接平原副市長と面談をし、記事に関するヒアリングを行いました。ヒアリングの内容についてですが、報道されている記事の内容並びに市からの抗議文書の内容について確認いたしました。私の就任前に出された抗議文書の作成経緯についても私自ら確認をいたしました。しかし、横浜市として十分な調査を行った上で報道対応を行ったとは言えないと考えています。調査を行うべきとの考えについてですが、今後何らかの形で検証をする必要があると考えています。
当日に井上市議は他の重要テーマ(旧市庁舎叩き売り、上瀬谷新交通等)の質問もあり、山中市長はそれらについても曖昧で中身のない答弁を連発したため、平原副市長の件をこれ以上深く追及することはできませんでした。
*映像は井上さくら市議のYoutubeで視聴可能。就任翌月ということを勘案しても、山中市長の原稿棒読みは議会運営に支障をきたすほど稚拙であることも確認できます
その後もこの問題についてまともな調査が行われることはなく、今現在もカジノを推進した張本人であり、菅義偉氏の腹心と呼ばれる平原副市長が横浜市役所で権力を保ち続けています。市長選挙を通して菅義偉氏に勝利したという映画の筋書きを完全否定するほど重大な矛盾ですが、当然ながら「映画の中の虚構」ではこうした事実は全て隠されています。
⑧当選1年後、市はカジノ誘致の過ちを認めた
⑦で紹介した山中市長によるカジノIR誘致の撤回宣言の後、映画では時間軸が一気に1年経過して、2022年9月に横浜市が公表したカジノIR誘致の総括資料を象徴的に紹介し、市が誘致の過ちを認めたと印象付けています。しかし、これは事実を無視したミスリードです。
まず映画では「経済効果の下振れリスク」の存在が明記されたことを紹介。 *下記ページの「2 経済的社会効果」の2点目に記載

横浜市「横浜IRの誘致に係る取組の振り返りについて(報告)」(2022年9月13日) P6「市におけるIR誘致の取組の振り返り」の要旨」
そして、上記のP6下部から下記のP7上部にかけて記載されている「5 横浜市において、IRはなぜ市民の理解をえられなかったのか」の中の文言の一部「IRへの反発や不信感を招き、結果として、市民の理解を得るには至らなかった」「市が施策や事業を進めるうえでは、市民の理解は欠かせず、それを得るためには、市民が求める適時・適切な情報発信・共有が重要である」を象徴的に紹介します。資料を画面一杯にアップで映し、ナレーター(リリー・フランキー)に文言を一字一句読ませ、さらにフレーズごとに数秒の無音の間を入れるという手の込んだ演出が加えられていました。
*筆者はメモをとれない状況で鑑賞していため、正確な読み上げ箇所はズレている可能性はあり

横浜市「横浜IRの誘致に係る取組の振り返りについて(報告)」(2022年9月13日)P7「市におけるIR誘致の取組の振り返り」の要旨」
この場面は映画全体の盛り上がりの最高潮に位置づけられており、これによって横浜市がカジノ誘致の過ちを認めたと観客に印象付けて、「映画の中の虚構」の世界ではハッピーエンドを迎えていきます。
しかし、象徴的に紹介された文言を含む「5 横浜市において、IRはなぜ市民の理解をえられなかったのか」(P6下部〜P7上部)の4項目を冷静に読んでみて下さい。「なぜ市民の理解を得られなかったのか」という見出しが象徴する通り、終始一貫してカジノIR誘致という政策自体の誤りから目を背け、市民が理解するように情報発信できなかったことが問題であるという姿勢なのです。本質的な問題である意思決定プロセスの不透明さや、横浜市としてのカジノIRに対する政策的評価(政策自体が誤りと認めるのか否か)には全く言及されていません。
*本来総括すべきであった意思決定プロセスの不透明さを始めとする問題の詳細は、筆者がハーバー・ビジネス・オンラインに寄稿した「問題だらけの横浜カジノ補正予算案。明るみになった12の事実」(2019年9月19日)参照
このような中途半端な総括ではカジノIRを追認することになりかねないため、「映画の外の現実」の世界では無所属・豊田有希市議が同月中(9月28日)に市議会で山中市長にこの問題を質問。

不十分なカジノIR総括について山中市長に質問する無所属 豊田有希市議(2022年9月28日 横浜市会 決算第一特別委員会) *出典:横浜市公式 中継映像
しかし、山中市長は耳を疑う答弁を行い、物議を醸します。 *太字は筆者判断 *後ほど引用するため発言順にNoを採番
【No1 豊田有希市議】今回出された(カジノIRの)最終報告と称されるもの、今私が正直に感じる形では、あれほどの大騒動の総括としては極めて消化不良な感が否めません。市長はこの最終報告で十分なものであると納得していると考えてよろしいでしょうか。
【No2 山中竹春市長】今回報告をしたものは、2月に公表した中間報告に対してさらに市民の皆様の御意見、さらに6者もの外部有識者の御意見を踏まえ、その上、市としての振り返りを加えたものです。市としては、様々な客観的な御意見も踏まえて最終報告として締めくくることができたと考えております。今回の振り返りを今後の市政に生かしていくことが重要であろうと考えております。
【No3 豊田有希市議】いろいろな市民あるいは有識者の意見は意見としての位置づけで、市としての総括としては結局、正確な情報が伝わっていなかったとか、タイミングが悪かったといった範疇にとどまっています。IRの意義自体は間違っていないということも追認してしまうことにもなりかねませんし、これは市長のこれまでの主張とも対立している気がします。そこで、政策的な観点からIRに関しての市長の評価を改めて伺います。
【No4 山中竹春市長】今回、市民の皆様や外部有識者の方々から、市が取り組んできたIR事業の進め方について大変厳しい御意見と御指摘をいただいたものと認識しております。これらの意見をしっかりと受け止めて今後の市政運営に生かしていくことが重要であろうと考えております。
【No5 豊田有希市議】IRの事業そのものについての政策的評価をいま一度お伺いします。
【No6 山中竹春市長】IRにつきましては、他都市が計画を国に申請し、国において審査中という状況でございます。ですので、私からの特段のコメントは差し控えさせていただきます。
【No7 豊田有希市議】そのようにおっしゃるのですけれども、文書に残っている市の見解に政策的な見解も入っていない状況です。これでは、むしろ今後誘致を再燃させる余地をあえて残しているようにも見えかねません。そして、あれだけの論争とそれに費やしてきたコストということを振り返りますと、自己振り返り、自己弁護といったようなことばかりで具体的な改善策が提示されていないというのも問題かと思います。そこで、市民及び第三者意見を踏まえた公正な立場から市政の具体的な改善計画を作成することがこのIR誘致を撤回した市長として最低限の責務であると考えますが、いかがでしょうか。
【No8 山中竹春市長】施策を進めるに当たりましては、政策決定のプロセスを踏まえて市民の皆様が求める適時かつ適切な情報発信、そして情報共有に努めて市民の御理解をいただきながら進めていきたいと考えております。具体的な方法につきましてはそれぞれの施策の性質や状況に応じて適切な対応を検討してまいります。
【No9 豊田有希市議】何をしようとしているのか、本当に残念なお答えです。やはり振り返ったからにはきちっと改善点を出していかなければ振り返った意味がないと思います。私がIR誘致の過程で特に指摘してきたことの一つに、議論や意思決定の密室化であったりとか、議事録の不作成や口頭決裁、情報公開の不徹底といった行政としてあるまじき手段が何度も取られてしまったことがあります。山中市政になってからも、まだ重要な事業での試算根拠が示されなかったり、大型事業についての意思決定過程が不透明であったり、全庁通知文書が突然取り消されたりなど、振り返りで指摘された問題と類似する客観的なデータの非開示、情報提供の申請、文書主義の不徹底を根とした騒動が生じています。
*映像は横浜市中継映像で視聴可能
総括が不十分であるという問題提起に対して山中市長は曖昧な答弁に終始しただけではなく、カジノIRの政策的評価を「国において審査中」という理由で「コメントを控える」と答弁。全くもって意味不明であり、カジノ反対を掲げて当選した市長として重大な背信行為であるため、事態を重く見た筆者は2日後(9月30日)の市長記者会見に自ら参加して真意を問い質しました。
*映像は筆者の上記Youtube (5分38秒〜)で視聴可能
【筆者(フリーランス 犬飼淳)】カジノIRについて質問します。一昨日の市議会での市長ご自身の答弁について。今月に横浜市が発表したカジノIR誘致の最終報告書では、根本問題の不透明な意思決定プロセスはほとんど言及されず、極めて不十分な内容でした。そのことを受けて、一昨日の市議会で無所属の豊田市議がIRの政策的評価を市長に質問しましたが、市長は「他都市のIR申請を国が審査中なのでコメントは控える」というふうに答弁されました。ご自身が市長を務めている横浜市のカジノIR誘致の政策的評価のコメントを拒む理由として、なぜ大阪などの他都市がIR審査中であることが影響するのか。理由を補足して頂きたいです。
【山中竹春市長】他都市に関するIRの取組について議員はご言及されていると受け取りましたので、その点については他都市のことですので言及を控えると申し上げた次第です。
【筆者(フリーランス 犬飼淳)】それは大変な認識違いです。豊田市議は明らかに横浜市のカジノ振り返りについて質問しました。ちなみに、当然他都市もカジノ申請をしていた最中の昨年8月、市長選の演説で山中氏ははっきりとカジノについて、IRの政策的評価を何度も何度も言及されてました。あくまで一例ですが、「カジノIR絶対反対です」と「IRに賛成だけれど、横浜ではカジノをやめる、そんな考えではありません」と。「IRの構想自体が間違っている」「三流の古臭いビジネスモデルである」と演説されています。わずか1年前、ここまで具体的にIRを全否定されたのに、なぜ今は政策的評価のコメントすらも拒むんでしょうか。
【山中竹春市長】これまでの議会答弁でも申し上げていますし、また、こちらの定例会見でも申し上げてきたことなんですが、IRのコンセプトには反対しております。ですので、横浜に今後、誘致をすることは私としてはあり得ないというふうに何度も申し上げてきております。
【筆者(フリーランス 犬飼淳)】分かりました。ただ、最終報告書でも、市長ご自身の議会や会見での説明でも、政策的評価すらもコメントを拒まれると、どうしても疑いの目として将来的な・・・(質問の途中で山中市長が発言を始める)
【山中竹春市長】(質問を遮って)何度も議会や定例会見等でも申し上げております。
*質問中に引用した市長選挙時の発言の全文は筆者のtheLetter「【横浜市長選挙2021】山中竹春候補 街頭演説 文字起こし(2021年8月13日 横浜駅西口)」(2021年8月18日) 参照
この質疑中に筆者が最も驚かされたのは、一昨日の議会で答弁拒否した理由について山中市長が「他都市について言及されたから」と回答した点。先ほど紹介した豊田市議と山中市長の質疑を読めば分かる通り、「他都市」という言葉を最初に発言したのは山中市長です。豊田市議が2回(No3、No5)にわたってIRの政策的評価を質問した後、「コメントを差し控える」という答弁(No6)の中で他都市が申請中である点に自ら言及したのです。つまり、筆者の質問に対する山中市長の「他都市について言及されたから」という回答は真っ赤な嘘です。会見中に山中市長が調べればすぐにバレる嘘をつくことは常態化しており筆者も慣れてしまっているものの、今回は議事録が残る議会でのわずか2日前の発言の嘘だったため、さすがに驚きました。
*山中市長の常習的な嘘の具体例の数々は、後ほど紹介する市長就任後に市民が被った被害の中でまとめて紹介
また、IRの政策的評価を拒む理由について質問を続けた結果、「IRのコンセプトには反対」という発言はようやく引き出しましたが、これは就任からわずか2ヶ月後の2021年10月頃から山中市長が議会や会見で多用している常套句です。

井上:やっぱりIR必要だとならないか?
市長:誘致を取りやめさせて頂きました
井上💦:将来に渡って行わないと言えるか?
市長:私自身はコンセプトに賛同をしておりません
カジノ絶対反対ならそう答える場面だよね?
コンセプトって何?

「IRのコンセプトに賛同はしておりませんのでIR誘致は行いません」
カジノは将来に渡って行わない、とはっきり答えて頂き良かったです。
先日の質疑でIRに関し私が聞いた際には「反対の立場でございました」「取りやめさせて頂きました」「IRのコンセプトに賛同しておりません」続
「なぜハッキリと市長選前のようにカジノIRに反対と言えないのか」と指摘を受けた後に、わざわざ「コンセプトには反対している」という条件を付けた答弁をロボットのように繰り返すわけです。つまり、「カジノIRに反対」と明言して当選した山中市長は、遅くとも当選2ヶ月後から現在に至るまで「カジノIRに反対」と明言できない状況にあると判断できます。
さらに、同日の市長記者会見は映画「ハマのドン」の本質を考える上で極めて重要な事実を示しています。
下記の写真で右端に映る黒いマスクをした女性(最後列3列目の奥から4人目に着席)に注目して下さい。この人物こそが、映画「ハマのドン」の監督を務めたテレビ朝日の松原文枝氏です。

2022年9月30日 横浜市長記者会見のテレビ朝日 松原文枝氏の質問場面(現地参加した筆者の360度カメラ映像より)
そう。
この会見に松原文枝監督は自ら記者として参加していたのです。
つまり、山中市長が答弁拒否や嘘、「コンセプトには反対」という詭弁を用いてまで「カジノIRに反対」と明言できない状況にあると露呈した筆者の質疑を松原文枝監督は目の前で聞いていたのです。それでもなお、「映画の中の虚構」の世界では、こうした事実を全て無かったことにしたのです。
*筆者の質疑中、熱心にタイピングしながら会見に参加する松原文枝氏の様子は、筆者の360度カメラ映像 (Youtubeの5分38秒〜)で確認可
少し話が逸れますが、五輪反対デモの参加者が日当を受け取ったというデマを流して大問題になったNHK「河瀬直美が見つめた東京五輪」(2021年12月放送)の検証で、NHKはスタッフの勉強不足や取材不足などを挙げていわゆる「バカのふり」をすることで事態の収拾を図りました。
今後、映画「ハマのドン」の現実との乖離が問題視された時、松原文枝氏も「知らなかった」「取材不足だった」等のバカのふりに徹する可能性がありますが、皮肉なことに同氏は4年前(2019年)のカジノ誘致表明から本人が熱心に取材を続けてきたと公言しており、実際に様々な現場に自ら同行していた様子が映画に映っています。従って、NHKと同じ手を使うのはかなり苦しい状況です。特に、「⑧当選1年後、市はカジノ誘致の過ちを認めた」という悪質な虚偽については、市長記者会見で松原文枝氏本人が「映画の外の現実」をしっかりと見聞きしたことが筆者の360度カメラ映像にも残っているので言い逃れできません。
ちなみに、同日の市長記者会見で松原文枝氏が質問した内容は実に示唆に富んでいます。先ほども紹介した、映画のクライマックスに手の込んだ演出と共に読み上げられたカジノIR誘致の検証報告の文言(増収効果の下振れリスク、市民の理解不足)とピッタリ一致するのです。
【テレビ朝日 松原文枝】今月、横浜市が出されたIRの検証報告について、お伺いしたいんですけど、第三者の試算が出てまして、最も重要だと思われた横浜市の増収効果が、当初800〜1200億円という数字が出てたんですけど、こちらの報告書では、第三者が試算されて300億円程度まで下振れするリスクがあるという数字が示されてました。こうした第三者の試算を出されたのがなぜなのかということと、あと300億円程度まで下振れするリスクというのはコロナの影響や依存症対策費も入っていないということで、更に下がった可能性があると思うんですけど、市長はどのように受け止めてますか。
【山中竹春市長】まずこういった試算は通常、条件を設定して行われます。例えば、来場者数とか、カジノに費やす1人当たりの単価とか、あるいは1人当たりの観光消費額とか、各種の条件を設定いたします。ただし、カジノを含むIRの誘致については、国内でも先行事例がありませんので、いくつかの現実的な設定のもとで、第三者の専門家に改めて試算を行ってもらったところ、経済効果に大きな揺れ幅があることが示されました。300億円から更に下がる可能性に関するご指摘ですけど、まずIRの誘致については正の経済効果だけではなくて負の効果も含めた上で差し引きどれくらいの効果があるかの数字が必要と考えてます。ご指摘いただいたように、コロナ感染症による影響、ギャンブル依存症対策にかかる費用、また周辺地域向けの費用なども発生すると思います。こういった負の効果も考慮した場合に、最終的な経済効果は300億円から更に大きく下振れする可能性があったというのが、第三者の試算結果でした。
【テレビ朝日 松原文枝】 そうしますと、当時、事業者の数字だけを出したということは、市民に正確な情報を出していなかったというお考えでしょうか。
【山中竹春市長】カジノを含むIRについては、国内でも先行事例や経験がありませんでしたので、その分、いくつかの現実的な設定を仮定して試算を行ってみることが必要だったと考えておりますし、また負の効果も適切に検討した上で差し引き、つまり最終的にどれくらいの経済効果があり得たのかに関する市民への情報提供が必要だったと考えてます。
【テレビ朝日 松原文枝】 すみません、最後ですけど、検証報告の最後の取りまとめにもあったんですが、結局、横浜市の対応が市民のIRに対する反発や不信感を招いて、IRへの理解を得るに至らなかったと総括されてたんですけど、このあいだ市長の方で市民との意見交換会などもやっておられましたけど、こういった市政を進める上で、市民との対話については今後どのように進めていくべきだとお考えでしょうか。
【山中竹春市長】今回、市民の皆様や外部有識者の方々からIR事業の進め方について、大変厳しいご意見を頂いたと承知しております。市における様々な事業を進めていく上で、市民の皆様のご理解が大切です。そのために今後、各政策を進めるに当たっては市民が求める適切な情報の発信を行い、情報の共有ができるよう市としても努めていく。そういう姿勢が重要だと考えております。それぞれの政策の性質や進捗状況等に応じて、最適な対応を検討してまいります。
*現地参加した筆者の360度カメラ映像はYoutube(21秒〜)で視聴可能
カジノIR誘致の総括を横浜市が発表したタイミングで、わざわざ監督がテレビカメラを引き連れて参加したわけですから、本来は映画で会見映像を使うことを想定していたはずです。しかし、この記者会見の場面は映画では一切出てきません。質疑内容を見れば分かる通り、山中市長の回答は想像以上に中身が無かったため、ボツにせざるを得なかったと筆者は想像しています。
結果、「⑧当選1年後、市はカジノ誘致の過ちを認めた」という偽りの筋書きを成立させるためのミスリードに利用した検証報告の文言(増収効果の下振れリスク、市民の理解不足)は、山中市長自らに説明させるのではなく、手の込んだ演出(画面一杯に文言をアップで映す、フレーズごとに区切って無音の間を入れる)と共にナレーターに読ませるという苦肉の策を採用したのでしょう。映画「ハマのドン」をプロパガンダ映画の教材として見た場合、こうしたテクニックは非常に参考になります。
ちなみに、松原文枝氏が横浜市長記者会見に参加したのは、この1回(2022年9月30日)のみでした。
*「ハマのドン」テレビ版の放送時期と前後して約1年前の時点でも、テレビ朝日は珍しくアナウンサーを市長記者会見に送り込むなど妙な動きは以前からあり。当時から感じていた筆者の違和感は連続ツイート参照
①〜⑧の詳細な説明は以上です。
カジノ誘致と横浜市長選挙をめぐる現実
こうした背景知識があれば「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップがいかに大きいかお分かり頂けるのではないでしょうか。

©️2023 Jun Inukai
しかし、「映画の外の現実」が見えていない(もしくは、知っていても無視している)観客の場合は、こうした虚構が現実であると錯覚してしまうのです。

©️2023 Jun Inukai
率直に言って、「自らの利権に繋がらない賭博に絶対反対の藤木幸夫氏が、自らの思惑に合致しただけの候補者を市長に当選させ、横浜市民に多大な不利益を与えた」というのが、カジノ誘致と市長選挙をめぐって実際に横浜で起きたことです。

©️2023 Jun Inukai
その結果、市政に無関心・無責任な市長が誕生し、就任直後から数えきれない被害を横浜市民は現在進行形で被り続けています。
以下、被害のごく一部を列挙します。
2021年9月:市民の財産である旧市庁舎の叩き売り(横浜版モリカケ)を強行
*市民に一切説明しないまま一方的に契約締結を発表した会見の詳細は、現地参加した筆者のtheLetter「【文字起こし】山中竹春 横浜市長記者会見 (2021年9月30日 旧市庁舎売却契約当日)」 参照
2021年9月~12月:市長選挙中に横浜市大(前勤務先)に市議2名を伴って不当圧力をかけた問題で議会を空転させる *後に刑事告発に発展
*山中市長が加害者の立場で議会説明を求められた当日の詳細は、筆者のtheLetter「【文字起こし】横浜市立大学への不当圧力 請願審査(2021年12月15日 横浜市会)」(2021年12月16日) 参照
2021年10月~2022年12月:市の本業である中期計画策定を電通に業務委託した上、癒着が疑われるほど不公正な随意契約を繰り返す
*筆者に届いた内部告発で明らかになった詳細は、筆者のtheLetter「【独自・内部告発】電通の東京五輪汚職再び。横浜市の税金も不当に搾取」(2023年3月22日)参照
2022年1月〜2月:学級閉鎖基準を根拠なく変更し、学校の感染リスクを引き上げる
*市長によるデータ改ざん(イカサマ)の手法の詳細は筆者のtheLetter「【独自】学級閉鎖を減らすために基準を変更した横浜市(2)」(2022年4月21日) 参照
2022年5月~6月:「桜並木を切らないで!花博計画の見直しを求め、海軍道路桜並木全伐採に反対する署名」3万5千筆と公開質問を完全無視
*筆者が市長記者会見で本件を3回連続で質問したことによって、市長は公開質問を読んですらいないと露呈した質疑映像は、筆者のYoutube参照
この他にも、経歴詐称による議会の空転、小学校教師いじめの組織的隠蔽を黙認 、目玉公約「いつでもどこでもPCR検査」を反故などキリがありません。さらに、それぞれのリンク先をご覧頂くと分かる通り、これらの全てにおいて山中市長は調べればすぐにバレる嘘を常習的に繰り返しており、市議会・記者会見を空転させ続けています。
市長選挙前から山中竹春氏の候補者としての適格性には筆者を含む多数の市民が疑問を投げかけれていましたが、その懸念を上回るレベルで市民にとって不利益な言動を繰り返しているのです。

もはや山中氏の最大の問題は、イソジン会見関与やパワハラではなく、その対応を通して、「その場しのぎの稚拙な言い訳で説明から逃げる人物」だと明らかになったこと。
#横浜市長選挙
*市長選挙前に明らかになっていた山中竹春氏の候補者としての適格性の問題は上記ツイートのスレッド参照。さらに詳しい詳細は、筆者のtheletter「立憲は横浜で何をしたのか(市長選挙の候補者擁立 編)」(2021年12月5日)のNo1〜4参照
メディアや有識者が歴史修正主義に加担する背景
率直に言って、映画「ハマのドン」は「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」に大きなギャップがあり、ドキュメンタリー映画とは呼べません。「民主主義」を謳いつつ「権威主義」と「歴史修正主義」に染まった最低最悪のプロパガンダ映画です。
テレビ朝日 松原文枝監督は映画公開直後の5月17日に「ハマのドン 横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録」と題した書籍の発売を予定しており、リンク先の目次からは映画で描いた偽りの筋書きに忠実に沿った内容であると推測されます。当然、書籍発売にも相当な準備期間を要することから、今回の映画は書籍もセットにした「歴史修正ビジネス」だったのでしょう。事実無根のデマ、似非科学、差別をビジネスにして稼いできた現政権に近しい人々と本質的に同じではないでしょうか?
しかし、奇妙なことに現政権の「権威主義」や「歴史修正主義」を厳しく批判してきたはずのいわゆる有識者たちから、この映画を称賛するコメントが相次いでいます。

映画「ハマのドン」 応援コメント(2023年5月7日時点)

映画「ハマのドン」 応援コメント(2023年5月7日時点)
他にもトークイベントに参加する有識者も複数確認できます。

・5月9日(火)横浜
松原文枝監督と
ノンフィクションライター 森功さん
①ブルク13 11時30分ー上映後
②シネマリン 14時ー上映後
・5月10日(水)渋谷
松原文枝監督と
東京新聞 望月衣塑子記者
ユーロスペース 10時30分ー上映後

確定次第、ご連絡します🙇♀️🙇
・5月12日(金)渋谷/横浜
日刊ゲンダイ 小塚かおる編集局長
・13日(土)渋谷
元朝日新聞特別編集委員 星浩さん
・14日(日)渋谷
評論家 佐高信さん
・14日(日)横浜
横浜高校野球部元監督 渡辺元智さん
書籍の帯文では著名な政治学者までもが絶賛しています。
さらには、これまで現政権の「権威主義」や「歴史修正主義」を厳しく批判してきたメディアも揃って肯定的に報じており、総崩れの様相です。
しんぶん赤旗(2023年5月2日) *「ひと」欄で松原文枝監督を紹介
一方、筆者が指摘したような「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップに言及した報道は現時点(5月7日)で一件も確認できません。
なぜこのような現象が起きるのか。当事者が横浜市政の前提知識を持っているのかどうかで事情は異なるので、2パターンに分けて筆者なりに考えてみました。
*本ニュースレターにおいて、ここまでは明確なエビデンスに基づいて説明してきましたが、これ以降は筆者の推測や主観に頼る割合が増える点はご了承ください。
パターン1:横浜市政の前提知識がゼロの場合
このパターンの場合、一般の観客と同様に偽りの筋書きにコロッと騙されてしまったということで悪意は無いのでしょう。しかし、たとえ前提知識ゼロのままで映画を鑑賞したとしても気付ける違和感は幾つもあったわけです。
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市長選挙に焦点が当たっているのに、2人目の主役のはずの当選者の存在が消されている(画面登場は40秒程度、肉声はカジノ誘致を撤回する1場面のみ)
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たった1人の地元有力者の一存で選挙の候補者にとどまらず当選者まで決定できるという考え方自体が民主主義に反しており、極めて「権威主義」である
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クライマックスで大々的な演出とともに紹介されたカジノIR誘致総括の文言は、市民の理解不足に責任転嫁しただけであり、意思決定プロセスの不透明さなどの本質的な問題に一切言及していない
こうした違和感を放置したまま映画を肯定・称賛するということは、率直に言って以下のような特徴を持つ人物であると想像されます。
-
自ら違和感に気付けないほどメディアリテラシーが低い
-
表向きは「民主主義」を掲げているが、実際は「権威主義」的な考え方に染まっている
総じて、有識者として扱うこと自体に疑問符がつく人物と言えます。
ただ、応援コメントを寄せたり取材したメディアはそもそも一般人ではなく、カジノ誘致や横浜市長選の経緯について最低限の知識は持っているはずですので、大半は次のパターン2に当てはまるはずです。
パターン2:横浜市政の最低限の前提知識はある場合
このパターン2はさらに深刻です。前提知識の質や量は個人差があるでしょうが、「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップに多少なりとも気付いた上で映画を肯定的に宣伝して歴史修正主義に加担したわけですから完全な確信犯です。
なぜこのような行動に出たのか。動機は人それぞれでしょうが、以下のツイートに見られるように、「政権批判」「権力批判」という大義名分を重要視した結果、多少の矛盾には目を瞑ってでも映画を肯定しているように思えます。

こうした考え方は、衆議院選挙(横浜市長選の2ヶ月後)で政権交代を成し遂げるため、山中竹春氏が問題のある候補者と事前に分かっていながらも「長い目で見れば山中一択である」と目を瞑った政治家(立憲民主党、共産党、社民党)や野党支持者の振る舞いと全く同じです。



上記のように地方選挙と国政選挙の区別もつけられずに民主主義を履き違えた考えがまかり通った結果、与党側は不人気な菅義偉総理の退陣と総裁選フィーバーで勢いを盛り返した一方、野党側は人口377万人を誇る横浜市を中心に求心力が低下。その「長い目」とやらで見れば政権交代をむしろ遠のかせたわけですから、完全に逆効果でした。
また、以下のような揶揄を選挙時に投稿しておきながら、山中竹春氏が当選後に招いた横浜市政の惨状について自らが「ステートメント」とやらを発信した様子を確認できない無責任な輩も散見されます。ブーメランそのものです。

*上記の人物は横浜市長選の前後、山中竹春候補を問題視する声を嘲笑したり、田中康夫候補の支持者を小馬鹿にする投稿を繰り返しており、この「横浜市長選挙で運動しているひと」とは、山中氏が市長に相応しくないという懸念に基づいて活動していた全ての市民を指すと判断せざるを得ない
話を映画に戻すと、「市長選挙敗北によって菅総理を退陣に追い込んだ」という一面を特に重視しているように見える意見も複数確認できます。

*上記は文面から判断して映画は未見と思われるので、その点は考慮する必要あり


菅義偉官房長官の圧力と最後まで戦い
2015年3月末に報ステから追放
だが松原氏は諦めなかった
菅氏が強引に進めた横浜のカジノを止めた市民の戦いを描くドキュメントは数々の賞に耀いた
そして、ついに映画化に漕ぎつけた
感動的映画です
私は日本のテレビは基本的に観ないので詳しくは知りませんが、古賀茂明氏が上記ツイートで指摘している通り、松原文枝監督は官房長官時代の菅義偉氏による圧力で報道現場を離れたと言われているそうです。他にも、映画を肯定している方々には同様に菅義偉氏を始めとする政権から圧力を受けたとされる人物の名前を確認できます。
人それぞれ事情は異なるでしょうが、そうした私怨に近い感情も絡んで「現職総理を敗北・退陣に追い込んだ」というストーリーに歓喜しているのであれば、自らが「権威主義」に染まっていることの表れではないかと感じます。どのような事情があるにせよ、もはや「歴史修正主義」の域に達している映画を無責任に称賛して良い理由にはならないと思います。
松原文枝監督 認識の確認結果
テレビ朝日 松原文枝監督が「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップをどのように認識しているのか。幸いなことに筆者は直接確認する機会に恵まれました。
公開初日の5月5日、監督本人の舞台挨拶が予定されていた渋谷ユーロスペースでの朝10時からの上映に足を運んだところ、上映開始前のロビーで松原文枝氏が観客を出迎えていたのです。昨年9月の市長記者会見に一緒に参加していたことも伝えて名刺交換を申し出たところ快く応じて頂き、ありがたいことに3分間ほど1対1で会話させて頂きました。
*他の観客の対応もある中、ほとんど面識のない筆者にも分け隔てなく対応して頂いた点は心より感謝しています
ただ、そうした確認の結果、残念ながら「勉強不足」や「取材不足」という万に一つの可能性は潰えて、テレビ朝日および松原文枝監督は映画が抱える矛盾を認識した上での確信犯であると筆者は判断しました。

上映後の舞台挨拶に登壇した江口英明プロデューサー、松原文枝監督(2023年5月5日 渋谷ユーロスペース)撮影:犬飼淳 *舞台挨拶で江口プロデューサーは「民主主義の大切さをしっかりと松原監督が表現できた」と自画自賛
その根拠となる会話内容、会話内容の認識を事後確認した際の印象的なやり取り、舞台挨拶での言葉を最後にご紹介します。
目次
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1対1での会話と事後確認で浮き彫りになった松原文枝監督の認識
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舞台挨拶で漏れ出た松原文枝監督と江口英明プロデューサーの本音
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