東京大学 冤罪処分撤回訴訟 ~要望書を渡そうとしたら2ヶ月停学~
*深刻性を踏まえ、前半は誰でも読めるように公開します。メールアドレス登録不要で概要は理解できるので、お気軽にお読み下さい。
この記事を書いた理由
各大学で近年相次ぐ学費値上げ問題では大学の自治侵害も次々と露呈している
一連の学費値上げの震源となった東京大学では、対話を求めただけの学生が根拠も無く停学処分される冤罪事案まで発生している
この記事で理解できること(前半)
本件の経緯
冤罪被害者である原告の主な主張
原告の支援方法
この記事で理解できること(後半)
第1回口頭弁論では原告への追い風と言える場面が複数あったこと
事後報告会で原告側が明かした訴訟への思い
本ニュースレターでは大学の学費値上げについて、東京大学で問題が表面化した2年前(2024年5月)から継続的に取り扱っており関連記事は10本超。その中で、いわゆる「大学の自治」侵害に当たる、目を疑うような事例を筆者は数多く目撃してきました。
(例)学生が値上げの必要性について説明や対話を求めても大学側は頑なに応じない、値上げに反対する学生をあえて貶めるような発表を繰り返して反対運動を事実上弾圧する、あえて学生側が気付きにくい形で値上げを周知して既成事実化する 等々
2年前までの筆者がそうであったように第2次安倍政権が始まる前に学生生活を終えてそのまま高等教育機関とは無縁の生活を送っていた方々の多くはご存知ないでしょうが、大前提として現代の国内大学のキャンパスには極めて「閉鎖的」かつ「弾圧的」な雰囲気が漂っています。現に、自らの学生時代には見たことも聞いたこともないような学生への弾圧事案がここ数年で次々と起きています。
そして、そうした不当な弾圧の是非を問う裁判が今月から東京地裁で始まりました。
本件の経緯
約2年に及ぶ本件の経緯を以下に振り返ります。前提知識が無い方向けに記載しているため、すでにご存知の方や細かい経緯を気にしない方は適宜読み飛ばして下さい。
2024年5月15日:東京大学が学費値上げを検討しており翌6月には決定見込みであることが一部報道で突如発覚
同年5月16日~6月20日:過去の歴史に鑑みれば東大の値上げが他大学に波及することは必至にもかかわらず必要性や妥当性について大学側の説明が余りにも少なく拙速なため、問題意識を持つ一部の学生たちが緩やかに連帯しながら精力的に反対運動や問題提起を行う。学内では五月祭でのデモ行進を皮切りに学内集会などを開催。学外でも議員会館での院内集会、文科省での記者会見を開催
同年6月21日 19時~21時頃:学生と藤井輝夫総長がこの問題について初めて話し合う重要イベント「総長対話」が開催。学生側は十分な議論の場となるように「対面での複数開催」を強く要望していたが、大学側は頑なに拒み「zoomで1回のみの開催」とした上に、大学側の進行には問題が多数(発言を許された学生は僅か13名、学生の本質的指摘に大学側はほとんど回答出来なかったがzoomのホスト権を悪用して不都合な発言を続ける学生を強制的にミュート 等)。そのため「対話」とは程遠く、大学側の不誠実さや考えの浅さが露呈するだけの結果に終わった
同日 21時頃~:本郷キャンパスのパブリックビューイング会場で総長対話に参加していた学生たちを中心に、藤井総長が籠ると見られる同キャンパス安田講堂の前に移動して緊急抗議集会を開催 *現地参加した筆者の下記撮影映像からも明らかな通り、学生たちはスピーチや音楽を中心に平和的に抗議しながら藤井総長との対話を求めていた
同日 22時半頃:抗議開始から1時間半程度が経過しても依然として藤井総長は安田講堂から出てこないため、農学部 八十島士希氏(以降「原告」と省略する場合あり)を含む学生4名は6月中の拙速な値上げはしないように求める要望書を手渡すため、錠と扉が開いていた入口を通って安田講堂に立ち入り。ただ、総長室には辿り着けないとすぐに分かって退出したため、安田講堂内に立ち入ったのは僅か3分程度 *東京大学(以降「被告」と省略する場合あり)は答弁書で立ち入った学生は4名ではなく5名と主張
同日22時35分:被告が警察に通報
同日22時53分:武装警官約30名が安田講堂周辺に現れ、現場に残っていた学生たちに状況を質問。誤認逮捕を恐れた学生たちは次々に安田講堂から離れ、緊急抗議集会は実質的に強制終了となる *通報及び警官到着の時刻は筆者が警視庁への開示請求で入手し通報記録に基づく
同年6月22日~25日:安田講堂に立ち入った学生が警備員に全治1週間の怪我をさせたため警察に通報したと読み取れる声明を被告が2回に亘って発表。同声明には数々の不審点(誰が警備員に怪我を負わせたのかは頑なに明記しない 等)がある上に、そもそも怪我をした警備員の存在を確認できないと学生団体がすぐさま指摘したにもかかわらず、読売新聞と朝日新聞が被告の声明を垂れ流し報道。あたかも学生が暴徒化したかのような誤った印象が世間に広まった
同年9月24日:結局、妥当性・必要性への疑義に対する十分な説明は無いまま、被告が学費値上げを正式発表
2025年1月29日:安田講堂への立ち入りについて被告 農学部の調査委員会が原告をヒアリング
同年9月12日:安田講堂への立ち入りについて被告 本部の学生懲戒委員会が原告をヒアリング
*上記2回のヒアリングはあたかも原告が警備員に怪我をさせたかのような雰囲気で進められたと原告は主張。しかし、原告が後に被告への保有個人情報開示請求で入手した「懲戒処分案(2025年9月22日)」には「当該学生と負傷した警備員との接触がなかった事実を確認」と明記。つまり、警備員の怪我と原告が無関係であることを被告は事実認定していた
同年11月27日:被告が原告に停学2ヶ月の処分を正式に通知
2026年1月頃:原告は停学撤回を求める地位確認と国家賠償請求を求める行政訴訟として東京地裁に被告を提訴
同年2月~3月:原告への停学2ヶ月の処分が実施。原告はその期間中、奨学金が打ち切られる、試験を受けられず単位を取得できない等の不利益を被った
同年2月20日:東京大学が法人化したこともあり東京地裁は本件を行政訴訟ではないと判断したことを受けて、原告は民事訴訟(以降「本訴訟」)に切り替えて訴状を訂正・追加
同年4月30日:東京大学の教職員69名が停学処分再審査を求める要請文を藤井総長に提出。処分根拠の曖昧さ、懲戒処分に至った審議の不透明さ、過去事例との一貫性欠如を問題視
同年5月15日:本訴訟の第1回期日(口頭弁論)。原告及び原告弁護士が意見陳述
同年7月10日(予定):本訴訟の第2回期日(口頭弁論)
原告の主な訴え内容
本訴訟における原告の請求は以下3点。地位確認と賠償請求が2本柱です。
原告が被告の授業に出席し研究し単位取得することその他被告の学生としての権利を有する地位にあることを確認する
被告が原告に金957,440円及び遅延損害金を支払う
訴訟費用は被告の負担とする
ちなみに請求金額の算出根拠は以下の通り。
停学処分に伴う奨学金打ち切りの経済的損害として2ヶ月分で22万7456円
学費値上げに関する精神的損害の慰謝料として64万2960円(値上げ後の年間学費と同額)
上記2点に弁護士費用として約1割を上乗せ
そして、原告側は地位確認に関連して以下3段階に分けて論じながら、停学処分は違法かつ無効と主張しています。
①:本件は懲戒処分が可能な場合なのか否か
②:①が「可能」だとして、懲戒処分事由に該当するか否か
③:②が「該当する」として、処分権の逸脱・濫用があるか否か
*詳細は本記事後半で改めて説明
原告 意見陳述
第1回期日では原告側に計15分間の意見陳述の時間が与えられ、原告と原告弁護士がそれぞれ陳述。原告の陳述は本件の状況を理解し易いため、以下に紹介します。
(2024年)6月21日の総長対話後は、別主体(文学部連絡会)による安田講堂前の音楽イベントを挟んで、私たちのグループは総長への要望書提出行動を予定していました。総長室は安田講堂内にあるので、総長対話が開始された時点(19時)から、安田講堂の全ての出入り口を仲間の学生と分担して観測していました。藤井総長は建物から出てきていないことから、まだ内部にいるのだと思いました。そこで学生は安田講堂正面で申し入れに応じるようシュプレヒコールを挙げていました。また私を含む観測班は要望書を何部かコピーして携帯し、総長あるいは他の役員が出てきたときにはすぐに手渡せるよう準備していました。しかし総長が安田講堂に立て籠ったまま出てこないので、こう着状態のまま夜が更けていきました。私と3名は終電も迫る中、このままではいけないと考え自分たちで開いている扉から安田講堂に入り、正面扉で外にいる学生と合流して平和裏に総長室まで歩いていくことを企図しました。これは被告の言うような、群衆をなだれ込ませるという趣旨のものではありません。そもそも私たちは総長室に押し入ったのではありません。私たちのしたかったことは即ち、校長先生にお願い事があって校長室の前まで行き、その扉をノックして返事を待つという、学校であればごく普通のコミュニケーションです。初等・中等教育における児童・生徒にはそれができて、自立した主体である私たち東大生にはなぜそれが許されないのでしょうか。それは被告が私たちとの対話を拒んでいるからではないですか。その後4名で安田講堂に入りました。途中、廊下で鉢合わせた守衛さんと腕が触れたことがありましたが、被告も事実認定しているとおり、当該守衛さんが負傷したものではありません。
(立ち入りから)半年以上経って呼び出しがあり、2025年1月29日、農学部の調査委員会によるヒアリングが行われました。これだけ時間が開いた理由は分かりませんが、(前年)9月には学費値上げの正式決定が強行され、ほとぼりが冷めるのを待っていたのかもしれません。(中略)被告の主張している守衛さんの負傷については、(2025年)9月12日の本部によるヒアリングの場で「私が怪我をさせたのか」と質問しましたが、被告は回答を拒否しました。また本件と同様の処分の前例があるかについても同じく質問し、回答拒否されています。「対話」とはなんだったのでしょうか。(中略)そのような見せかけの民主的な、ジェントルな制度のもとで、前例のない重大な処分が結論ありきで決められたのです。最終的に2025年11月27日に本件処分が通知されました。以上のように名ばかりの「対話」で覆い隠して、苛烈な学費値上げと(1968~1969年の)東大闘争以来の不当処分を強行した被告の強権的態度は、大学という場にふさわしくありません。私を停学とするのではなく、藤井総長の姿勢こそが問われるべきです。
処分理由の被告説明は未だに曖昧なままですが、これまでのヒアリング等の経緯を踏まえると「原告が安田講堂に立ち入った行為」等と「原告が警備員に怪我をさせた疑い」を問題視していたと推測できます。それらについて、原告意見陳述も踏まえて客観的事実や筆者所感を以下に整理します。

©️2026 Jun Inukai
安田講堂への立ち入り等について、被告は学内の懲戒事由に定められた「犯罪行為」や「教職員の業務等を暴力、威力、偽計等の不当な手段で妨害する行為」と断じていますが、すでに説明してきた通り実態とは大きな乖離があります。
警備員の怪我に至っては、被告の主張は明らかに後退しています。先にヒアリングが行われた農学部からの通知では原告を警備員の怪我と関連付けて評価していましたが、その次の本部の処分案では一転して無関係と事実認定。怪我をさせた疑いが冤罪であったことは既にハッキリしているわけです。しかし、被告は自らの誤りを完全に認めるのではなく、それ以降は安田講堂への侵入自体が「警備員や職員の生命身体に危険を招く行為」だという突飛な内容を主張するようになりました。後半で改めて説明する通り、この被告の主張にはかなり無理があります。
原告の支援方法
後述する通り、第1回期日では原告にとって追い風と言える場面が複数ありました。ただ、同時に懸念事項と言える場面もありました。それは、無駄に時間をかけて本訴訟を引き延ばして、個人である原告の経済的・時間的負担を高めようとする意図が被告側にあるように見えたのです。そうした点も加味して、本訴訟における原告へのカンパ先を以下にご紹介します。
口座記号番号:00860-3-191592
東大不当懲戒処分を撤回させる会
トウダイフトウチョウカイショブンヲテッカイサセルカイ
ゆうちょ銀行
店名:〇八九(ゼロハチキュウ)店
店番:089口
座番号:当座 0191592
暴走する大学に真っ当な意見をしただけの学生がまさに冤罪で処罰されたという悪しき前例を残さないためにも、本訴訟の意義にご賛同頂ける方はカンパをご検討下さい。ちなみに、本訴訟の初期費用として約120万円が必要で、現時点で集まったのは約40万円。差額の約80万円は支援者(東大卒業生・関係者が中心)が建て替えている状況です。先述した通り本訴訟は長期化の恐れがあるため、費用はさらに増える可能性があります。

2026年5月15日 第1回期日後報告会 *左が原告の東京大学 農学部 八十島士希氏 *筆者撮影
後半の目次
第1回口頭弁論の詳細 ~原告への追い風と言える場面が複数~
事後報告会の詳細 ~本訴訟への原告の思い~
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