【独自】安田講堂前 警察導入をめぐる東大公式発表は嘘なのか
*大学自治侵害の深刻さを考慮して、前半は誰でも読めるように公開します。メールアドレス登録不要で要点は理解できるので、お気軽にお読み下さい。
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この記事を書いた理由
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東京大学が学費を値上げすれば他大学に波及することは歴史的事実が証明しているため、学生を中心に大きな反対運動が起きている
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大学側は財務諸表に基づいた説明を頑なに避けており、そもそも学費値上げの正当性に大きな疑問符が付いている
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さらに、6月21日の警察導入をめぐっては学生側を貶めることで大学側に正当性を持たせる意図が疑われるような情報発信を東京大学は繰り返している
この記事で理解できること(前半)
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警察導入をめぐる経緯
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東京大学公式発表の不審点
この記事で理解できること(後半)
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当日通報記録の一部
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「学生の排除を要請していない」という東大主張の信憑性
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東大は事前に警察に根回ししていたのか
経緯(警察導入前)
東京大学の学費値上げ問題をめぐって、6月21日に開催された総長対話(藤井輝夫総長と東大生が対話する場)。学生が強く要望した対面開催ではなくzoomによるオンライン開催だった上、「学生と対話した」というアリバイづくりが目的だと判断せざるを得ないほど形式的で中身が無かったことは以下ニュースレターで詳しくお伝えしました。
総長対話が消化不良だったことを受けて、終了直後の21時頃から学生たちは総長室がある安田講堂の正面広場に集結し、藤井総長との対面での対話を求めて抗議。筆者は直前の総長対話パブリックビューイングにも本郷キャンパスで参加していたこともあり、その抗議の様子を約1時間(21時頃~22時頃)に渡って撮影しました。
上記映像を見れば明らかな通り、学生たちはスピーチや音楽を中心に平和的に抗議しています。映像の終盤にあるように22時前後には主催者が中締めに相当する挨拶をするなど混乱は全く無く、むしろ落ち着いた雰囲気です。さすがに夜遅くなってきたこともあり、筆者は22時頃に離脱・帰宅したわけですが、参加メンバーは基本的に同じわけですから抗議の雰囲気が急に変わるとは考えにくく、その後の抗議も一貫して非暴力の姿勢を貫いていたと考えるのが自然です。実際、22時以降も残った学生たちは同様の証言をした一方、参加者による暴力や怪我人を目撃した者は一人もいません。
しかし、その後に予想外の出来事が起きます。武装した警官10名以上が安田講堂前に現れ、学生たちは排除されたのです。
経緯(警察導入後)
筆者が離脱した22時以降に何が起こったのか。翌22日までの主な出来事をX(旧Twitter)のポストを中心に時系列で整理します。
22時30分前後
東京大学が警察に通報
*公式発表(第1報)では通報者が不明確だったが、同第2報では通報者は東京大学と読み取れる
23時前後
武装した警官10名以上が安田講堂前に現れ、現場に残っていた学生に状況を質問。誤認逮捕を恐れてその場を離れた学生もおり、実質的に安田講堂前から排除される
翌22日
0時36分
参加していた学生の一人が警察導入を写真付きでポスト。SNSを中心に実態が急速に広まり始める。
これはポポロ事件同様、大学の自治に警察が介入するという許されざる行為です。大学には自治の尊重と誠意ある対応を求めます。
1時50分
すでに帰宅していた筆者は他にも類似の投稿があったことを受けて警察導入は間違いないと判断。22時までは現地にいた者として現場の雰囲気をポスト
自分が離脱した22時以降も同様の雰囲気だった模様ですので、警察介入の必要性は全く無い状況だったはず。
・総長が寮の実態を全く知らず失望したこと
・指名されて発言を許されたのは僅か十数名で圧倒的に少ないこと
・「検討中」ばかりの回答に心底呆れたこと
13時6分
東京大学が「本学施設への侵入事案について」と題した本件に関する公式発表(第1報)の公開をポスト。日本語として不自然な点があるものの、誰がどう読んでも「安田講堂付近にいた学生が警備員に怪我をさせたことで警察に通報した」と解釈できる内容のため、後にこの見解を鵜呑みにした不正確な報道を生み出すきっかけとなった。
u-tokyo.ac.jp/focus/ja/artic… 本学施設への侵入事案について | 東京大学 www.u-tokyo.ac.jp
*公式発表の詳細は後述
13時21分
東京大学のポストのわずか15分後、学費値上げ反対緊急アクションが自らの確認結果との相違をすぐさま指摘。
しかし、私たちの関知する限り、警備員への傷害は確認していません。むしろ現地の警備員は警察がやってきたことに戸惑いを隠せない様子でした。
警察に通報したのは一体「誰」なのか、「いつ」なのか、注視しつつ見守りたいと考えます
17時16分
約4時間後、学費値上げ反対緊急アクションは暴力反対の姿勢を明らかにすると共に、自らの確認結果との相違を改めて具体的に指摘。
東京大学は声明で警備員への暴行があったとしています。しかし我々の関知する限り怪我をさせたという事実は確認できず、当該時間帯には学生が警備員と談笑する様子すら見られました。
東京大学は、大学の自治を無視し、警察を身勝手にも学内に投入しました。
17時43分
学費値上げに抗議する国立大学院生の会が前夜の警察導入の様子を写真と動画付きでポスト。動画には、安田講堂の正面玄関前に派遣された10名前後の警官が学生に対して「何をしてたか知っている人いる? ここ(=安田講堂 正面玄関前)で何が起こってたのか」と質問しており、警官は明らかに安田講堂 正面玄関前を現場と認識している様子がうかがえる。
総長対話 (zoom) が21時に終わり、数百名の学生たちが、安田講堂の総長室に向かって対面での対話を要求しました。それに対して、大学が警察を導入、盾と警杖を持った警官数十名が学生を排除したとのことです。
18時33分 *ポストは18時57分
読売新聞が「東大・安田講堂に複数の学生ら侵入、警備員がけが…授業料値上げに反対か」と題したウェブ記事を公開。日本語として不自然にもかかわらず東京大学公式発表(第1報)を鵜呑みにして垂れ流す内容。
yomiuri.co.jp/national/20240…
#ニュース 東大・安田講堂に複数の学生が侵入、警備員がけが…授業料値上げに反対か 【読売新聞】 東京大学は22日、複数の学生らが21日夜、本郷キャンパス(東京都文京区)の安田講堂に侵入し、制止しようとし www.yomiuri.co.jp
18時55分 *ポストは19時2分
朝日新聞が「東大安田講堂に学生侵入、警備員けが キャンパスでは値上げ反対デモ」と題したウェブ記事を公開。直前の読売新聞と同様、不自然な東京大学公式発表(第1報)を鵜呑みにして垂れ流す内容。
掲載は省略するが、上記の全国紙2社を後追いする形でこれ以降に地方紙なども類似の内容を続々と報道。「学費値上げに抗議する学生が暴走して暴力を振るった」という誤ったイメージが拡散される
19時21分
朝日新聞ポストのわずか19分後、学費値上げ反対緊急アクションが自らの確認結果との相違をすぐさま指摘。
東京大学は平和的な手段に対して、学費値上げ反対を阻止するために警察を学内に投入しました
19時22分
読売新聞ポストのわずか25分後、学費値上げ反対緊急アクションが自らの確認結果との相違をすぐさま指摘。
下記の通り、私たちは非暴力で活動しております。学内での傷害事件は事実を確認していません。
東京大学は平和的な手段に対して、学費値上げ反対を阻止するために警察を学内に投入しました
しかし、上記の全国紙2社はこうした指摘を完全に黙殺。学生が警備員を怪我させた事実は一切確認できないことが明白となった現在(8月7日時点)においても、訂正すら確認できない。
東京大学 公式発表の不審点
この警察導入をめぐって東京大学(本部 広報課)は2回(6月22日、同25日)にわたって公式発表を出しており、特に第1報が不正確な報道のきっかけとなりました。しかしながら、この公式発表は日本語として非常に不自然な構成であることを始め、多くの不審点があります。
まずは原文をご覧ください。「行為の主体」や「主語」の抜け漏れに注意して読むと、これらの文章が不自然である理由に気付けるはずです。
2024年6月21日(金)夜、学生を含む複数名が本学施設(安田講堂)内に侵入し、制止しようとした警備員が怪我を負ったことにより、警察に通報する事態が生じました。このような事態に至ったことは大変遺憾であり、今後事実に基づき必要な対応をとって参ります。
令和6年(2024年)6月22日 東京大学
2024年6月21日(金)夜に生じた安田講堂への侵入事案について、SNS等で情報が錯綜していますが、「大学が学生を排除するために警察を導入した」等の内容は誤った情報です。今回の警察への通報は、学生を含む複数名が、午後10時30分頃、安田講堂正面玄関以外の出入り口から侵入し、制止しようとした警備員が怪我を負ったことによるものです。学生の抗議活動の排除を要請した事実はありません。警備員は打撲等により、全治約1週間の怪我と診断されています。安田講堂は、常時入館者を管理しており、夜分に許可を得ずに侵入するような行為は認められません。引き続き、事実関係の調査を進め、必要な対応をとって参ります。
令和6年(2024年)6月25日東京大学
これら公式発表の不審点をスライド2枚に整理しました。
*警察導入6日後に開催された抗議集会でも複数の学生が類似の内容を指摘
まずは第1報について。
©︎2024 Jun Inukai
最も重要なのは、誰が警備員に怪我を負わせたのかは一切言及が無いこと。この書き方では、警備員が自ら転んで怪我した可能性すらあるわけです。しかし、同一文の前半で学生の安田講堂侵入にちゃっかり触れているため、文全体としてはあたかも学生が警備員に怪我を負わせた印象を与える内容に仕上がっています。また、そもそも学生が安田講堂に侵入した事実は現時点で一切確認できていないため、その真偽にも疑問符がつきます。
そして、日本語として非常に不自然な点も確認できます。警察の通報に言及した文には主語が無いのです。通常であれば「○○が警察に通報しました」と書けば済むところを、「警察に通報する事態が生じました」という不自然な日本語を用いてまで、通報者が誰なのかは伏せているのです。
この文章の不自然さは英語版ではさらに顕著になります。
*東京大学は基本的に全てのプレスリリースを2ヶ国語(日本語・英語)で配信
2文目の後半にて「the incident was reported to the police.」と記載。要は、一般的な能動態ではなく、the incidentを主語にした受動態を採用してまで、通報者には触れない形を貫いたのです。
これらを踏まえると、怪我人は居なかった(仮に怪我人がいたとしても学生とは無関係)にもかかわらず、東京大学は警察を導入して学生を排除。その後ろめたさから通報者を曖昧にした疑いが強いと言えます。
続いて第2報について。
©︎2024 Jun Inukai
まず1文目で、自らの第1報が招いた解釈である「大学が学生を排除するために警察を導入した」を、他者の誤解に責任転嫁する形であっさりと否定。
そして、第1報と同様、誰が警備員に怪我を負わせたのかは一切言及無し。しかし、同一文の前半で学生の安田講堂侵入にはやはり触れているため、文全体としてはあたかも学生が警備員に怪我を負わせた印象を再び与える内容。
ただ、学生が侵入したのは、安田講堂正面玄関以外の出入口と明記したことは大きな意味があります。後日に筆者が安田講堂の構造を外から確認したところ、正面玄関以外の出入口は建物の裏側に数箇所あるのみ。しかし、先ほど学生の動画付きのポストで紹介した通り、実際には武装した多数の警官が派遣されたのは正面玄関前の広場。建物裏側にはほとんど人が居ないため大勢の人がいた正面玄関前に後からやってきた可能性もありますが、東京大学の主張と警官の派遣場所は矛盾するようにも思います。
また、警備員の怪我は「打撲等により、全治約1週間」という情報が新たに示されたわけですが、それを裏付ける事実は未だに一切確認できません。
このように、東京大学の公式発表は不審点が多数。
<巧妙に言及していない点>
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誰が警備員に怪我を負わせたのか
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誰が警察に通報したのか *第2報では文脈から判断して東京大学と読み取れるが、明記はされていない
<真偽が疑わしい点>
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学生が安田講堂に侵入した
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警備員が全治1週間の怪我を負った
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東京大学は学生の抗議活動排除を警察に要請していない
第1報を鵜呑みにした報道によって学生が貶められたことを踏まれば、本来であれば通報者である東京大学が詳細を説明すべきですが、6月25日の第2報を最後に沈黙。こうした状況を受けて、筆者は通報した側(東京大学)からの自発的な説明は期待できないと判断し、通報された側である警視庁に7月1日付で関連文書を開示請求。30日の延長を挟んだものの7月31日付で一部開示が決定し、本日(8月7日)に本富士警察署(当日に通報を受けた所管署)で「当日の110番処理簿」を入手しました。残念ながら開示請求内容の大半は不開示や黒塗りとなったため、得られた情報は僅かでしたが、黒塗りの隙間、不開示理由などから見えてきたこともあります。
ニュースレター後半では、開示文書実物に基づいて開示請求の顛末を紹介していきます。
後半の目次
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開示文書「110番処理簿」から読み取れること ~「学生の排除を要請していない」は本当か?~
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不開示理由から読み取れること ~警察への事前の根回しはあったのか~
*今回は完全独自の取材に基づいており、続きはサポートメンバー限定で公開します。一定期間経過後も無料読者には公開されません。
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*ニュースレターの重点テーマ、特に反響が大きかった過去のコンテンツは「概要」を参照ください