【独自】ESAT-J最大の問題「不受験者の得点推定」不開示が逆転開示へ(1)
*3年目となるESAT-J不受験者の得点推定および都立校入試合否発表を目前に控え、公共性が非常に高いと判断したため、前半(背景や経緯)は誰でも読めるように公開します。
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この記事を書いた理由
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英語スピーキングテスト(ESAT-J)の都立高入試 合否判定への活用は、入試の公平性を破壊するほど多くの問題を抱えている
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特に「不受験者の得点推定」は本人の試験結果をもとに合否判定する入試の大原則から完全に逸脱している上に制度設計が穴だらけのため、本来は合格圏にいた受験生たちを不合格に転落させている恐れが高い
この記事で理解できること(前半)
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不受験者の得点推定が一律に運用されていない疑念に基づく開示請求および審査請求の経緯
この記事で理解できること(後半)
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不受験者の得点推定に関する不開示決定は不当であると審査請求で認定されたこと
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不開示から開示に決定が覆った行政文書の一覧 *文書の中身は現時点では未入手
ESAT-Jの振り返り
東京都教育委員会(以降「都教委」)が強硬に推進する英語スピーキングテスト(以降「ESAT-J」)によって、都立校入試の公平性が粉々に破壊され続けている問題については2年以上にわたって繰り返しお伝えしてきました。
*ESAT-Jの前提知識が無い場合、theletter「高校入試の「公平性」を破壊するESAT-J 問題の全体像」(2022年11月30日)を適宜参照ください。同記事は1年目の状況に基づいていますが、3年目を迎えた現在も大半の問題は改善されず放置されたまま
さらに、昨年(2024年)11月に実施された3年目のESAT-Jでは1~2年目よりさらに酷いトラブルが多発。
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運営側の不手際(タブレット端末の不具合、試験監督の人員不足やミス)が原因で、当日に5時間以上も拘束されたり、別日程での再試験を余儀なくされる中学3年生が続出
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会場でのトラブルをデータ改ざんしてまで隠蔽した事実が、試験監督の内部告発(隠し撮り映像)で発覚
*トラブルとデータ改ざんの詳細は上記映像(2024年12月4日 実施状況調査 記者会見)で視聴可
普通は回数を重ねれば改善されるはずなのに、全くの真逆で状況がさらに悪化している点がESAT-Jの異常性を物語っています。背景を補足すると、3年目となる今回から事業者がベネッセからブリティッシュ・カウンシルに変更し、同社は1日で約7万人の受験生に試験を実施するノウハウがベネッセよりさらに劣っていたことも影響したと見られます。とはいえ、そもそも当初の事業者であるベネッセが僅か2年で撤退したことも異常事態です。
最大の問題「不受験者の得点推定」
このようにあまりにも低次元な問題が次から次に起きるため本質的な問題の指摘に手が回りませんが、ESAT-J最大の問題は「不受験者の得点推定」を原因とする逆転現象です。入試と異なる位置付け(都内の公立中学校在籍者向け)の試験を無理やり都立高入試に活用したため必ず存在する「不受験者」(国私立中学在籍で都立高校志望 等)に対し、都教委は赤の他人(志望校が同じ受験生で英語学力検査の得点が近い者)の得点をもとに不受験者の得点を推定するという信じ難い手法を採用。「本人の試験結果をもとに合否判定」という入試の大原則から完全に逸脱している上に、本来は合格圏にいた受験生を不合格圏に転落させる致命的な制度欠陥を抱えています。この一点だけでも、入試活用を即刻中止する十分な理由です。
©️2023 Jun Inukai *1年目の状況をもとに作成したスライドだが、3年目となる現在も①(前半組から後半組への音漏れ)以外の問題は改善されないまま
*不受験者の得点推定に起因する逆転現象の仕組みは、theLetter「高得点が原因で不合格!高校入試が運任せのギャンブルと化すESAT-J「逆転現象」のカラクリ」(2023年1月27日)を適宜参照ください
さらに、対象者は当初は⑥(都外在住で都立高志望、都内在住で国私立中在籍など)のみが想定されていましたが、先ほども説明した通り3年目は運営側の不手際で対象者となった受験生も多数いると見られ、問題を深刻化させています。この懸念を証明するように、都教委はその実数の公表を頑なに拒否。とても公にできないほど大量にいるのでしょう。
加えて、得点推定パターンが複雑すぎるため都立高校 全186校で一律に運用して公平に得点を算出できるのかも不安視されていました。
©️2023 Jun Inukai *1年目の状況をもとに作成したスライドだが、3年目となる現在も状況に大きな変化は無し
その不安が的中するかのように、1年目の2023年1月下旬~2月上旬に「都立高英語スピーキングテストに反対する保護者の会」(以降「保護者の会」)が複数の都立高校に電話確認した結果、入試(同年2月21日)を目前に控えたタイミングにもかかわらず、対応者や採点方法という極めて基本的な認識すらも高校ごとにバラバラと判明。
(例)「採点方法は入試前に都教委から指示される」、「不受験者の得点推定は都教委が行う」、「ソフトに入力するだけ」などなど
*実際に電話確認した保護者の会による説明は上記映像(2023年2月20日記者会見)の5分50秒~13分25秒で視聴可
不受験者の得点推定はただでさえ制度設計が破綻している上に、全186校で一律に運用されるかすらも疑わしい状況となりました。そこで筆者は同会見3日後(2023年2月23日)にすぐさま都教委へ以下の内容を開示請求。
2022年6月16日以降、英語スピーキングテスト(2022年11月27日・同年12月18日)不受験者得点推定の手順に関して都立高校に示した一切の文書又は電磁的記録。メール、マニュアルや手順書、ソフトウェアやプログラム、 都と高校の役割分担を含む
しかし、「業務が多忙」という極めて曖昧な理由で決定期限を60日後に延長され、同年4月24日付でようやく開示決定されたのは「入学者選抜要綱」のうち僅か2枚で、残りの全ページは不可解な理由で不開示。「入学者選抜点検業務の進め方」というマニュアル・手順書に相当する文書の存在は認めたものの、これも不可解な理由で全て不開示。開示請求内容に含むと明記した「ソフトウェアやプログラム」に至っては、存否への言及自体が漏れ。
僅かな開示部分の記載によって不受験者の得点推定は都教委ではなく都立高校が行なったことはようやく判明したものの、それ以上の実態解明は進みませんでした。
審査請求の経緯
そこで筆者は翌月(2023年5月)にすぐさま本件の不開示決定を不服とする「審査請求」を東京都に対して実施。しかし、結審まで1~2年程度かかることや、結局は同じ東京都が判断を下すため決定が覆ることは非常に稀であることを知っていたため、ほぼ同時に東京地裁に対して同じ趣旨で「処分取消訴訟」も提起。その後は審査請求よりも処分取消訴訟に重点を置いて対応していました。
同訴訟ではESAT-Jに関する計3件(内訳:平均点改ざん2件、不受験得点推定1件)の不開示決定をまとめて訴えの対象としており、平均点改ざんについては都教委が自らの主張を通して次々と墓穴を掘る展開となった一方、不受験者得点推定については趣旨が不明瞭な主張が続いたため、筆者としては前者(平均点改ざん)に注力。結果、判決では3件とも不開示決定は覆らなかったものの、文書を開示させるまでもなく平均点改ざんは決定的となりました。
*処分取消訴訟の顛末はtheLetter「【訴訟報告】ESAT-J不開示決定の処分取消(7)判決」(2024年6月15日) 参照
こうして処分取消訴訟は計6回の期日が行われて提訴から丸1年で判決に至った一方、審査請求は1年半以上が経過してもほぼ音沙汰なし。筆者も半ば忘れかけていたのですが、昨年(2024年)12月24日に突如として予想外の報せが東京都から届きました。審査請求の答申において東京都情報公開審査会は都教委が主張する不開示理由を「該当しない」と退け、不開示決定の一部は「開示すべき」と判断を覆したのです。
前置きが非常に長くなりましたが、今回のニュースレターではこの審査請求結果の詳細をお伝えします。
後半の目次
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不開示から開示に決定が覆った行政文書
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答申後も時間稼ぎを図る都教委
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都教委への対抗策
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