【現場リポート】ESAT-J実施状況調査の報告記者会見
こんにちは。犬飼淳です。
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この記事を書いた理由
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英語スピーキングテスト(ESAT-J)の都立高校入試活用によって、入試の「公平性」が破壊されつつある
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このまま東京都での実績が既成事実化すればベネッセが他県に横展開することは必至であり、日本全国の高校受験生・保護者・教育関係者が多大な不利益を被る
この記事で理解できること
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英語スピーキングテストは入試の水準を全く満たしていないことを示す具体的な証言が、受験生を中心に500件以上も集まっていること
2022年11月27日に東京都の公立中学校3年生を対象に強行実施された英語スピーキングテスト「ESAT-J」。入試としての「公平性」を破壊するうえ、公共事業としての「透明性」も無いことはこちらのニュースレターでもお伝えしました。
12月5日、以前からESAT-Jの高校入試活用に反対してきた各団体は実施状況の調査結果について都庁記者クラブで記者会見を開催。試験から会見まで僅か8日という短期間であったにもかかわらず、のべ数百件を超える当事者(生徒、保護者、試験監督、教師 等)の声を踏まえて、ESAT-Jの問題点を具体的に指摘しました。
今回のニュースレターでは同会見に現地参加した筆者が当日の内容をリポートします。
映像
約50分間の会見のノーカット映像はこちらで公開しています。前半30分間の各団体による調査結果報告だけでもご視聴頂ければ、問題の深刻さがお分かり頂けるはずです。
<映像の主な内容>
0分0秒〜 東京都議会議員連盟による調査報告
Googleフォームによるアンケート回答478件をもとに、「公平・公正とは言えない事例」の詳細を紹介
7分21秒〜 大津由紀雄 慶應義塾大学名誉教授
試験実施上のトラブル、学習指導要領逸脱の問題を具体的に説明
16分46秒〜 都立高校入試 英語スピーキングテストに反対する保護者の会
当事者(受験生、保護者)が自らトラブル(前半後半の試験問題流出、音漏れ 等)の内容を説明したインタビュー動画を投影
22分49秒〜 入試改革を考える会 大内裕和 武蔵大学教授
googleフォームの調査に加えて、自らがTwitterのDMで独自調査した結果も踏まえて、音漏れ等の問題の詳細を紹介
25分51秒〜 都立高校入試への英語スピーキングテスト導入の中止を求める会
現場教員の声に基づいた問題(試験対策の不公平さ、出題範囲の逸脱、教育現場への皺寄せ)を具体的に説明
31分39秒〜 質疑応答
筆者を含む5名が質問
これ以降、当日の説明資料を掲載します。
*掲載は会見の説明順。必要に応じて、筆者からの補足説明のコメントあり
会見で説明しきれなかった調査結果を読みたい場合、もしくは映像を見る暇がなく資料を流し読みしたい場合にご活用ください。
説明資料
実施状況調査まとめ(東京都議会議員連盟)
Googleフォームによるアンケートにもとづく調査の報告資料。
・ESAT-J反対の立場を明らかにしたアンケートにわずか1週間で478件もの回答が集まっており、批判の大きさが読み取れる。受験生総数(約6万9千人)と比べても、決して少なくない回答数。
・回答者の実に6割が中学生本人
・全197会場中、実に125会場を網羅
・公平・公正とは言えない具体的な事例が多数
ESAT-J実施の実態(大津由紀雄 慶應義塾大学名誉教授)
出題音声の音量を各生徒が調節できるため自らの音量を下げれば他生徒の解答音声が聞こえやすくなることと、解答開始のタイミングを遅らせることによって、不正が可能であると気づいた生徒がいる問題の深刻さ等を指摘
・当日の出題にもとづいて、学習指導要領逸脱は何が問題なのかを具体的に説明 *この学習指導要領逸脱の問題は、都庁記者クラブ各社は当日の会見の報道でなぜか一切触れていない
都立高校入試 英語スピーキングテストに反対する保護者の会
当事者(受験生、保護者)が自らトラブル(前半後半の試験問題流出、音漏れ 等)の内容を説明した内容。 *会見室ではこれらのインタビュー動画を投影
*印刷がやや薄いが、中央のイラストは中学生が自ら描いた会場の状況。左側のイラスト(教室内の配置)は、廊下側に席が固められて机と椅子がぶつかるほど密着していた一方で、窓側には大きなスペースがあるという不自然な状況を説明。 右側のイラスト(各教室の位置関係)は、前半組と後半組の教室が交互に並んでいた状況を説明。
会見中、教室の座席配置や位置関係の問題を描いたイラストを掲げて説明する登壇者
ESAT-J試験当日の問題点(入試改革を考える会 大内裕和 武蔵大学教授)
・googleフォームの調査とは別に大内氏が独自に前半組から後半組への音漏れについて調査(TwitterのDM機能によるヒアリング)した結果、会場(多摩高校、八潮高校、駒場高校、日比谷高校、南葛飾高校)を明らかにした信憑性の高い証言が複数集まった
現場教員の声から問題点を分析(都立高校入試への英語スピーキングテスト導入の中止を求める会)
新英語教育委員会、東京教育連絡会に寄せられた教師の声をもとに問題(試験対策の不公平さ、出題範囲の逸脱、教育現場への皺寄せ)を説明
③⑤は大前提として、ESAT-Jはベネッセが運営するGTECと酷似しているため、GTEC慣れしている生徒が有利という背景がある。
英検との比較を交えて、学習指導要領からの逸脱の深刻さを指摘 *この学習指導要領逸脱の問題は、都庁記者クラブ各社は当日の会見の報道でなぜか一切触れていない
当日の説明資料は以上です。
都庁記者クラブ各社の報道の問題点
大前提として、今回の会見を開催した各団体はこれまでも複数回(10月19日、10月31日 等)にわたって都庁記者クラブで記者会見を実施して、こうした問題が起きる可能性を事前に訴えてきました。しかし、各社が問題点を率直に報じることは少なく、むしろ東京都側の楽観的な観測を垂れ流すことで試験の強行実施を後押しした背景があります。そして、試験当日にはこれまで懸念してきた問題に加えて、想像すらしていなかった程度の低い問題(前半組の音声が後半組に漏れている、学習指導要領の逸脱 等)までも現実のものとなりました。
そのうえで、12月5日の会見を都庁記者クラブ各社がどのように報じたのかを紹介します。
東京新聞
*総じて会見で訴えられた問題点を率直に報道。ただし、他社と同様に学習指導要領逸脱の問題にはなぜか一言も触れていない
NHK
*前半は会見で訴えられた問題点を率直に紹介しているものの、いまだに東京都教育委員会による実態とかけ離れた言い分「多少の音は聞こえても解答にに影響はない」で記事を締め括り。
朝日新聞
*前半は会見で訴えられた問題点を率直に紹介しているものの、いまだに東京都教育委員会による実態とかけ離れた言い分「解答に影響を及ぼすようなトラブルの報告は現時点で受けていない」で記事を締め括り。
12月5日の会見には約15名の都庁記者クラブ 記者が参加。実態の具体的な説明を受けたはずだが・・
また、3日前(12月2日)の都知事 定例記者会見で小池都知事は「大きなトラブルはなく予定通りに実施された」と明らかに実態と異なる内容を平然と回答しましたが、その矛盾を指摘する都庁記者クラブの記者は皆無でした。
*問題の回答場面は上記映像の4分38秒から視聴できます。
都知事定例記者会見は感染対策を理由に現地参加者を20名(都庁記者クラブ20社から各1名)に限定しているため、記者クラブ外である筆者は12月2日の都知事記者会見はオンライン参加を強いられ、オンライン画面を通じて挙手し続けたものの小池都知事が筆者を指名することはありませんでした。しかし、奇しくも同じ会見室で開催された12月5日のESAT-J実施状況調査の報告記者会見に現地参加したことによって、会見室には十分な広さがあると確認できてしまいました。(下の写真参照)
12月5日の会見開始前に撮影した会見室の全体写真。32席(4席×4列×2ブロック)を余裕を持って置ける広さがあることが確認できる。
小池都知事は感染対策を悪用して、自らに不都合な質問をする可能性のあるフリー記者を排除していると言えます。その一方、どんなに実態とかけ離れた主張であっても事実であるかのように報道してくれる従順な都庁記者クラブの記者には優先的に会見への参加・質問の権限を与えています。
実は、12月5日に会見を行った団体の一部(都立高校入試へのスピーキングテスト導入中止を求める会 等)は、その2日後(12月7日)に改めて日本記者クラブでも会見を予定しています。その意図を筆者が関係者に確認したところ、「いくら実態を具体的に説明しても問題を報じないばかりか、東京都側の主張を垂れ流す都庁記者クラブには見切りをつけた」という趣旨でした。その意見に筆者も完全に同感ですし、判断としても正しいと思います。
今回のニュースレターは以上になります。
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2022年12月6日 犬飼淳
今回の一件(東京都の主張を垂れ流して問題の矮小化に都庁記者クラブが加担)からも明らかですが、筆者のようなフリーランス記者の存在意義については配信済みのニュースレターを参照ください
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