わずか15年で日本の選挙報道はどのように変化したのか(参院選 2007、2010、2022を比較)

参院選(2007年、2010年、2022)の毎日新聞・朝日新聞の1面の見出しに着目して、当時と現在の報道のあり方の変化を検証します。
犬飼淳 2022.07.19
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こんにちは。犬飼淳です。

新聞の朝刊1面 見出しに着目して、7月10日に投開票を迎えた参議院選挙の与野党の報道割合については、前編後編の2回に分けてニュースレターで検証してきました。結果、公示日以降も1面見出しで参院選にほとんど触れない上、たまに触れたとしても内容が与党目線に偏っているという非常に残念な事実が分かりました。

新聞は一体いつから選挙前なのに まるで選挙が無いかのように振る舞うようになったのでしょうか?

この自らの疑問に答えるべく、過去2回(2007年、2010年)の参院選の新聞見出しを国会図書館で調査しました。結論から言って、当時の新聞は今よりはるかに真っ当でした。そして、わずか15年ほどでここまで新聞が劣化してしまった事実に私は驚きを隠せませんでした。

そこで今回のニュースレターでは、計3回分の参院選期間中の新聞1面見出しの変化を捉え、選挙結果への影響(与野党の議席数増減)についても検証していきます。

前提条件

  • 過去2回の参院選は2007年(7月12日公示、7月29日投開票)、2010年(6月24日公示、7月11日投開票)を対象とする。いずれも当時の野党(2007年:民主党、2010年:自民党)が参院第1党に躍進した一方、与党(2007年:自民党、2010年:民主党)は大敗。2年後の政権交代への布石となり、選挙前の与野党のパワーバランスが崩れた選挙と言えるため。 *現在の10〜20代には知らない方も多いと思われるが、民主党(立憲民主党の前身)は2009年9月~2012年12月まで与党として連立政権を担っていた

  • 新聞はいわゆるリベラルと位置付けられている全国紙である2紙(毎日新聞・朝日新聞)の東京版の朝刊1面 見出しを対象とする

  • 時期は公示日から投開票日を対象とする

  • 選挙報道があった日の割合選挙報道における与野党の言及割合に着目する

  • 与党の議席数は連立政権であっても第一党のみ集計する。つまり、自公連立政権では自民党、民国連立政権では民主党のみを対象とする。野党も野党第一党の議席数のみを集計する。

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概要

3回分の結果を表形式で整理したのが、以下スライドになります。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

今回(2022年)と過去(2007年、2010年)を比較すると、投票率が5pt以上も高いことに加え、新聞1面見出しに関する数値も様変わりしています。

この違いをより直感的に理解するために、グラフで比較してみましょう。

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公示~投開票までに選挙報道がある日の割合

「公示~投開票までに選挙報道がある日の割合」(折線グラフ)と「与野党の議席数増減」(棒グラフ)に焦点を当てたのが以下のスライドになります。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

2007年および2010年は、毎日新聞・朝日新聞ともに公示日から投開票日までにおおむね60%〜80%の割合で参院選を報じていたことがわかります。特に2010年の毎日新聞は83%と非常に高い数字を叩き出しており、両紙ともに30%台に沈んだ2022年とは大違いです。こうした積極的な報道によって国民の関心を高めたことと、選挙で参議院第1党が入れ替わるほどの波乱を巻き起こしたことは決して無関係ではないでしょう。

しかも、2007年と2010年は同時期に新聞1面で連日報じられるような大ニュースが同時進行で発生していたにもかかわらず、選挙報道もしっかり行われていたのです。

2007年

  • 公示5日目(7月16日)に新潟県中越沖地震が発生。死者15名、負傷者2345名の大災害となった上、公示7日目(7月18日)頃から柏崎原発等の安全対策の欠陥が次々と見つかり、投開票日(7月29日)まで連日報道が続いた

2010年

  • サッカー 南アフリカワールドカップの開催期間と選挙期間が完全に重なる。公示13日前(6月11日)に開幕し、投開票日(7月11日)に決勝を迎えた。日本がグループリーグ突破を決めたデンマーク戦、ベスト16敗退となったパラグライ戦はそれぞれ公示日(6月24日)、公示6日目(6月29日)に当たる 

  • 大相撲の野球賭博問題で琴光喜関、大獄親方らの処分が選挙期間中に相次いで発表され、史上初のNHKテレビ中継なしとなった名古屋場所は投開票日(7月11日)に初日を迎えた。

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公示~投開票までに選挙報道で与党に言及した割合

次に、「公示~投開票までに選挙報道で与党に言及した割合」(折線グラフ)と「与野党の議席数増減」(棒グラフ)に焦点を当てたのが以下のスライドになります。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

政権を担う与党は普段から注目を集めて報道機会も多い一方、野党は露出機会が少ないため、選挙前は双方を公平に報じないと劣勢である野党が拮抗を崩すことは困難です。その点、2007年および2010年は、毎日新聞・朝日新聞ともに公示日から投開票日までに与党に言及した割合はおおむね50%〜60%の割合にとどまっており、与野党を公平に扱っていたことがわかります。特に、2007年の朝日新聞はわずかながら野党が上回っている(与党:51%、野党:49%)ことも特筆すべきです。

一方、2022年は毎日新聞に至っては実に90%が与党に関する内容。もはや野党は眼中に無いとでも言わんばかりです。

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また、与党と野党のいずれに言及したかという数値化では計れない、重要な視点がもう1つあります。それは「与党に対してネガティブな内容であっても報じられているか」ということです。実は、2007年と2010年は与党に関する不祥事、党内の不協和音などが1面見出しでしっかりと報じられていました。この点でも、与党に対しては当たり障りのない表現(「堅調」「万全」など)に終始していた2022年の見出しとはまるで別の国のようです。

この点を具体的に説明するため、3回分(2007年、2010年、2022年)の両紙(毎日、朝日)の公示日から投開票日までの朝刊1面見出しを整理した一覧表を用いて、文言を具体的に紹介していきます。一覧表には選挙報道およびトップ(最も大きいスペースで目立つ位置に掲載された記事)を抽出しています。

まずは今回(2022年)の結果から振り返りましょう。

2022年 毎日新聞

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

19日間のうち、1面見出しに選挙報道を確認できたのはわずか7日(=37%)。投開票2日前(7月8日)に安倍元総理銃撃という大ニュースがあったものの、それまでは特に大きなニュースが無かったことを踏まえると、絶望的な少なさです。与野党の報道割合は、実に9割が与党を占める上、「堅調」「過半数の公算」などポジティブな内容ばかり。一方、野党への言及はたった1割で、「立憲苦戦、議席減か」という9文字のみ。こうした情勢報道が事実であったとしても、扱いの違いは明らかです。

2022年 朝日新聞

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

朝日新聞も基本的には先ほどの毎日新聞と同様。選挙報道がわずか32%と少ない上、与野党の報道割合は与党が65%を占めています。中身についても一貫して与党はポジティブな内容ばかりなのに対して、野党はネガティブな内容(1人区ふるわず、改選議席割る可能性、など)ばかり。

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ここで気持ちを切り替えて、2007年および2010年の見出しを同様に振り返ってみましょう。わずか15年ほど前は新聞が今よりはるかに真っ当だったことを多くの方に思い出して頂けるはずです。

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