【独自】ESAT-Jでその場しのぎの嘘を重ねる東京都。共犯関係を続ける都庁記者クラブ
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この記事を書いた理由
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英語スピーキングテスト(ESAT-J)の山積みの問題に対して、東京都教育委員会はその場しのぎの嘘を繰り返して逃げ切りを図り、ついに都立高校入試活用を強行してしまった
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このような暴走を許してしまった原因は、本来は都政監視の役割を担う都庁記者クラブが東京都の矛盾だらけの主張を垂れ流し、入試破壊の共犯者であり続けたことである
この記事で理解できること
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東京都教育委員会の主張がいかに矛盾だらけであったか
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都庁記者クラブはいったい何をしていたのか
3月1日に合格発表を迎えた都立高校入試。その合否判定に活用された英語スピーキングテスト「ESAT-J」をめぐって、入試の公平性や公共事業の透明性の観点で重大な問題が多々あることを繰り返し伝えてきました。
*問題の詳細(全体像、逆転現象、質疑妨害)は配信済みの以下3本のニュースレターを参照ください
特に平均点や採点ミスをめぐっては、その場しのぎの嘘を繰り返したために東京都教育委員会の主張(報道発表、都議会答弁)には相互に矛盾する内容が多々発生しています。主張を時系列に沿って整理したところ、少なくとも7点の矛盾点や不審点を確認できました。
©️2023 Jun Inukai
主な内容を抜粋しながら説明します。
*①〜⑦の丸数字は上記スライドの記載と対応
①③ テストの信頼性(難易度の標準化)への疑義
11月27日に実施された「本試験」を体調不要などのやむを得ない理由で受験できなかった中学3年生は、12月18日に「追試験」を受けることができます。やむを得ない理由で受験できなかった者だけが受ける性質上、追試験の受験者数は本試験の2%強と圧倒的に少ないです。とは言え追試験も1000人以上が受験したにもかかわらず、両グループに8.5点もの差がつきました。
©️2023 Jun Inukai
異なる問題(本試験、追試験)で得た得点を合否判定に活用するのですから、本来はIRT(項目反応理論)によって両方(本試験、追試験)の難易度を標準化する作業が必要不可欠なのですが、2月9日の都議会 文教委員会で東京都教育委員会はIRTについては最後まで意味不明な答弁を続け、明言を避け続けました。
*実際の答弁は、当日の質疑をまとめたYoutube映像の10分4秒〜を参照ください
また、「2021年に実施されたプレテスト」と「今回の英語スピーキングテストにおける本試験と追試験を合わせた全体」の平均点の差は6.8点。これについてもIRT(項目反応理論)の考え方に基づいて難易度が標準化されているのか、東京都教育委員会はいまだに明言していません。
*IRTの考え方は中央教育審議会資料 「項目反応理論(IRT)について」(2013年12月9日、前川眞一)参照
④ 7万人弱が受験した試験の前後半の平均点が小数点第2位まで完全一致
率直に言って、東京都教育委員会が平均点の一部(もしくはほとんど全て)を改竄した疑いは極めて濃厚です。しかも、計画的に数字を修正したようには見えず、その場しのぎの嘘を繰り返したために自らの説明同士が矛盾し合う壊滅的状況です。
まず、2月2日の都議会において、前半・後半の平均点は両方とも「60.77点」と東京都教育委員会は答弁。しかし、7万人弱が受験したにもかかわらず、前後半の平均点が小数点第2位まで一致することが現実的にあり得るでしょうか? 数字に強い方であれば、それがどれほどあり得ない確率なのかはすぐにお分かり頂けるはずです。
それにもかかわらず、試験当日の音漏れによって後半組が有利なのではないかという疑いを晴らすため、前後半の平均点を意図的に等しく提示したと考えられます。この時点で、東京都教育委員会が「数字に弱い」ことは明らかでしたが、これはまだまだ序の口でした・・。
⑤ 8人の採点修正で7万人弱が受験した試験の平均点 小数点第2位が変動
2月7日に突如として東京都教育委員会は録音の不具合による採点ミスがあったこと、8名の採点をすでに修正したことを報道発表。2月9日の都議会 文教委員会において、「この8名の採点修正によって、本試験 前半の平均点は60.78点に変更した」と東京都教育委員会は答弁しています。
*実際の答弁は、当日の質疑をまとめたYoutube映像の8分13秒〜を参照ください
しかし、本試験は7万人弱が受験したにもかかわらず、わずか8名の採点修正で平均点の小数点第2位が変動するでしょうか? しかも、その8名のうち何人が本試験 前半に該当するのかも不明なままです。
©️2023 Jun Inukai
この疑問を確かめるため、筆者は採点修正した8名の受験日(本試験と追試験のどちらか)、本試験であれば前半と後半のどちらを2月11日に開示請求。しかし、一瞬で確認できる内容のはずなのに、東京都は「60日の期間延長」を決定しました。
*期間延長通知書は筆者のツイート参照
結果の入手は延長期限(4月12日)まで待つ必要がありますが、タブレットは前半と後半で使い回したことを踏まえれば、本試験 前半の該当者は4名前後ではないかと予想されます。そうであれば、わずか4名の採点修正で平均点の小数点第2位が変動したことになるので、違和感はさらに増します。また、仮に8名全員が本試験前半の該当者だった場合、小数点第2位が変動したことの違和感は多少は弱まりますが、今度は別の問題が発生します。今回発覚した採点ミス(録音ミス)はタブレットに起因すると考えられており、前半・後半で同じタブレットを使用したのだから、後半組の同様の採点ミス(録音ミス)を見落とした疑いが濃厚になるわけです。このように、どちらに転んでも矛盾が浮き彫りになる状況があちこちに見られます。
⑥都合よく「切り捨て」と「四捨五入」を使い分けたことを自白
2月9日 都議会文教委員会で⑤の違和感を指摘されると、東京都教育委員会は苦し紛れに「四捨五入の関係」と答弁。前後半の平均点は小数点第2位まで示されているため、必然的に「小数点第3位を四捨五入」したことを意味します。一方、本試験全体の平均点は60.7点。内訳(前半 60.78点、後半60.77点)を踏まえれば、「小数点第2位を切り捨て」たことになります。 *仮に四捨五入していれば、本試験全体の平均点は60.8点になるため
つまり、同じ試験の平均点でありながら、異なる算出方法(小数点第2位を切り捨て、小数点第3位を四捨五入)が混在しているのです。そして、皮肉なことにその本当の理由を東京都教育委員会は当日の答弁で「前半・後半の違いを出すため」と半ば自白すらしています。
*実際の答弁は、当日の質疑をまとめたYoutube映像の8分50秒〜を参照ください
とにかく、全てにおいて行き当たりばったり。こちらが心配になるほどです。
⑦採点ミス(録音ミス)の詳細はいまだに全て不明
2月7日に発表された採点ミス(録音ミス)については謎だらけのため、翌々日(2月9日)の都議会 文教委員会でも以下の観点で繰り返し追及されましたが、東京都教育委員会は何一つ詳細を説明できませんでした。
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どのようにして採点ミスが発覚したのか?
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採点修正に当たってどのように音声データを確認したのか?
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そもそも採点修正にあたって使用されたバックアップ音声とは何なのか(ヘッドセットがメイン音声でタブレット内蔵マイクがバックアップ音声という意味?)
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複数の音声ファイルが存在したことになるが本当なのか?
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8人以外に採点ミスは無いとなぜ断言できるのか?
これらの詳細は一切説明できないものの、不思議なことに「今回の8名以外に採点ミスは無い」と根拠なく断言し続けたのです。
入試破壊の共犯者、都庁記者クラブ
ここまで支離滅裂で矛盾だらけの主張を東京都教育委員会は続けているにもかかわらず、都政を監視する役割を担うはずの都庁記者クラブは一貫してその責任を放棄しました。これら①〜⑦の矛盾点・不審点を一切報じない、もしくは報じたとしても東京都側の無理筋な主張を無批判に垂れ流し続けたのです。
例:④で挙げた平均点の奇妙な一致について、東京都側の主張を無批判に垂れ流し
例:入試の根幹に関わる重要な論点は一切報道しない
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テストの信頼性(難易度の標準化)への疑義に関わるIRTや等化について *①③が該当
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平均点改竄の疑いについて *⑤⑥が該当
極め付けは、2月9日の都議会文教委員会。東京都教育委員会は一貫して支離滅裂な答弁を繰り返し、その異常性を改めて明白になりました。①③⑤⑥⑦の矛盾点・不審点と直結する重要な内容が多々ありましたが、なんと都庁記者クラブはこの質疑の存在自体を約3週間が経過した現在も報じていません。
この問題を昨年11月末から継続的に追ってきた筆者は、直近3ヶ月間に開催された市民団体の記者会見はほぼ全てにあたる5回に参加。現地参加できなかった方でも内容を理解できるように説明資料を反映させた映像をYoutubeで一般公開したり、本ニュースレターでも関連記事を過去に5本配信(その大半を一般公開)するなど、微力ながら問題点を発信してきました。しかし、都庁記者クラブが都政 報道の権限(都知事記者会見の現地参加、東京都教育委員会のレクチャー参加、都議会の傍聴・撮影)を実質的に独占する中、フリーの立場の筆者にできることには限界があります。
ハッキリ言って、今回の東京都とベネッセによる入試制度の破壊において、都庁記者クラブは紛れもなく共犯者でした。
*都庁記者クラブを構成する主なメディアは朝日新聞、NHK、共同通信、産経新聞、時事通信、TBS、テレビ朝日、テレビ東京、東京新聞、TOKYO MX、日刊工業新聞、日経新聞、日本テレビ、フジテレビ、毎日新聞、読売新聞など
ESAT-Jに反対する市民団体が都庁で開催した記者会見(2023年2月20日)の様子。記者席の大半を占める都庁記者クラブは質疑応答で1問も質問しなかっただけではなく、目を疑う行動に出る(詳細は後述)
首都である東京都は五輪汚職、神宮外苑再開発、太陽光パネル義務付け、最近ではColaboの監査など全国レベルで注目を集めるニュースが多いです。一般的には「首都なのだから報道もしっかりしているはず」というイメージもあるでしょう。しかし、都庁記者クラブが権力監視という本来の責任を放棄しているだけではなく、そもそも都政に関心が無いと判断せざるを得ない場面を筆者は何度も目の当たりにしてきました。
これ以降の後半では筆者が目撃・経験した具体例を中心に、入試破壊の共犯者である都庁記者クラブの体質を掘り下げます。
*筆者が継続的に取材した英語スピーキングテストの出来事が中心ですが、その他のテーマ(五輪汚職、神宮外苑再開発、等)でも同様と考えられます
後半の目次
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問題の2月9日 文教委員会で都庁記者クラブは現地で何をしていたのか
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記者会見で都庁記者クラブが筆者に要求してきたこと
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都庁記者クラブの無気力・無関心を示す行動
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都庁記者クラブが本来の役割を放棄する背景
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