成人式で【ワクチン未接種者】に【抗原定性検査】を実施した横浜市長の言い分

成人式の感染症対策としてワクチン未接種者に抗原定性検査を実施した横浜市。2022年1月13日の横浜市長記者会見にて筆者がその意図を問い質した質疑を文字起こしします。
犬飼淳 2022.01.16
誰でも

こんにちは。犬飼淳です。

横浜市は 2022年1月10日に開催した成人式の感染症対策として、「ワクチン未接種者」を対象に「抗原定性検査」を無料で実施しました。今回のニュースレターでは、成人式3日後(1月13日)の市長記者会見の質疑をもとに山中竹春市長がこのような意思決定をした根拠を探りたいと思います。

***

これまでの経緯

まず、この件が初めて発表された昨年12月23日の横浜市長記者会見にも私は参加しており、コロナの専門家とは思えない内容に大きな衝撃を受けました。

犬飼淳
@jun21101016
【コロナの専門家】である横浜市長は新成人の皆様に安心して式典に参加して頂くために・・、

【ワクチン未接種者】を対象に【抗原検査キット】を配布すると発表。

【ワクチン未接種者】を対象に【抗原検査キット】を配布すると発表。

*あまりの衝撃に2回繰り返しました。
2021/12/23 23:26
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上記ツイートのスレッドを辿れば分かるとおり、私は「なぜPCR検査よりも感度・特異度ともに劣る抗原検査を選んだのか」と質問したものの、この時点では使用する検査キットの情報が不明だったこともあり具体的な追及はできませんでした。

そして、感染状況がさらに悪化する中、横浜市は 予定通り1月10日に横浜アリーナで成人式を4回に分けて開催し、約2万2千人の新成人が参加。市は約6400個の抗原検査キットを用意しましたが、実際に使用した希望者は約2500人のみ。つまり、日本最大の自治体でありながら、感度の低い抗原検査すら受けずに参加した新成人が9割近くを占めたのです。

しかも、横浜市が使用した抗原検査キット(富士フイルム社の「富士ドライケム IMMUNO AG ハンディ COVID-19 Ag」)は定量検査よりもさらに精度が劣る定性検査です。富士フイルム社の製品紹介ウェブサイトには、PCR検査と比較した陽性一致率は75.6%にとどまると明記されています。(下図参照)

出典:富士フイルム社(赤線は筆者が加筆)
出典:富士フイルム社(赤線は筆者が加筆)


また、オミクロン株に既存のワクチン(ファイザー、モデルナ)が効かないことは昨年のうちから報じられていました。

つまり、横浜市は合理的理由も無く検査対象者を「ワクチン未接種者」に限定した上、PCR検査と比較して4人に1人の陽性者を見逃す「抗原定性検査」をあえて選択したのです。

私は年明け後に初めて行われた1月13日の横浜市長記者会見でこの問題を質問し、山中市長の意図を聞き出しました。以下、その質疑を文字起こしします。

*映像は横浜市ウェブサイトで公開中。該当箇所は2022年1月13日分の43分27秒から視聴可能。

***

表記の注意事項

  • 発言者名は【】で囲んで記載する

  • 発言内容は「えー」などの言い澱みを含めて、そのまま書き起こす。日本語として不自然な言い間違いであっても、発言のまま書き起こす

  • どうしても聞き取れなかった部分は○○と表記する

  • 筆者が重要と判断した箇所は太字で記載する

  • 用語解説や背景知識が必要な場合は * で補足説明する

  • 現地の様子は適宜( )で補足説明する

用語の基本知識

  • 感度:陽性を正しく陽性と判定できる確率。

  • 特異度:陰性を正しく陰性と判定できる確率。

  • 偽陰性:実際は陽性なのに陰性と判定されるケース。感度が低い場合に出やすい。

  • 偽陽性:実際は陰性なのに陽性と判定されるケース。特異度が低い場合に出やすい。

  • Ct値:陽性結果が得られるまでの遺伝子増幅のサイクル数。Ct値が小さいほど遺伝子量(=ウイルス)が多い。

***

文字起こし

(会見開始から約40分程度が経過。延べ10人目の質問者としてフリー 犬飼が指名される)

【フリー  犬飼淳】フリーの犬飼と申します。よろしくお願いします。この間の成人の日に配布された抗原検査キットについて質問させて下さい。あの~、私は前回の会見でも、「なぜPCR検査よりも感度・特異度が劣る抗原検査をあえて選んだのか」と質問して、市長は「抗原検査の精度も最近は上がってきているので、スクリーニング的な目的で実施する」という内容を答えられたと思います。ただですね、実際に配布された検査キット、横浜市のホームページで確認しました。結果ですね、全て富士フィルム社の「富士ドライケム IMMUNO AG ハンディ COVID-19」という製品でした。これ、抗原検査の中でも、定量検査よりさらに感度が劣る定性検査の製品です。この製品について、富士フイルム社が一般に公開している、PCR検査と比較した陽性一致率のデータを調べたところ、やはり精度はかなり劣っていました。で、ごめんなさい、ちょっとクイズのようで大変申し訳ないですが、今回採用された富士フィルム社の抗原定性検査キットは、PCR検査と比較した際の陽性一致率がだいたい何%であるか、市長は認識されていますか?

【山中竹春 市長】まずCt値が30未満の場合は、ほぼほぼPCR検査と同程度であると。で、Ct値が30以上の場合は、え~、感度がですね、え~、40~50%になると認識しています。また、それは、え~、感度ですので偽陰性の点ですけども、偽陽性、特異度の点に関しては、ほぼほぼ0%・・、(言い間違いに気づいて)あ! ごめんなさい。特異度に関しては、ほぼほぼ100%。偽陽性に関しては稀にしか起こらないという観点・・、観点かと、・・ということを認識しております。

*山中市長が述べたCt値に応じた感度・特異度の数値情報を筆者は富士フイルム社の製品ウェブサイトから見つけることはできなかった。山中市長は抗原検査の一般的な数値を述べている可能性あり。

【フリー  犬飼淳】ありがとうございます。ちょっと私が見ているデータと違うかもしれないですけど・・。

【山中竹春 市長】(質問者の言葉を遮って)同じだと思います。

【フリー  犬飼淳】あ、そうですか。私、富士フイルムが公開しているデータを見ているんですけども、あの~、ちょっとデータの見方が違うのかもしれないですけども、陽性一致率は75.6%とはっきりと書かれておりました。で、おっしゃる通り、特異度に関して かなり高いというのはおっしゃる通りでした。とはいえ、75.6%ですので、要はPCR検査では正しく陽性と判定できた人のうち、この抗原定性検査では75.6%しか陽性と判定できない。つまり、4人に1人は実際は陽性なのに陰性と判定されて、検査をすり抜ける。いわゆる偽陰性ということです。ですので、まあ、抗原定性検査が非常に早くてメリットがあるのは分かりますが、無症状者を含めて広く実施するのであれば、4人に1人の陽性者がすり抜けてしまっては意味を成さないので、やはり感度・特異度ともに優れているPCR検査を選択するというのは、もう世界的な共通認識だと私は思ってるんですけども。念のための確認なんですが、この世界的な共通認識については、ご同意頂けますでしょうか。

【山中竹春 市長】まず抗原検査の感度については、既にある程度の結論が出ているかと思います。え~、抗原検査は高いCt値に関して、え~、患者さん、感染者で言えば、PCR検査に比べて感度は落ちます。しかしながら、抗原検査で検出できるウイルスの粒子数というのは、人に移すウイルスの粒子数とほぼ同程度ということも分かっています。ですので、抗原検査が陽性ということは人に移す可能性を示しています。ですので、そこを見つけにいくという点で特にオミクロン株のような、かなり感染者の、あの~、広がりが早いという株に対しては効率性の点から極めて有用かと思います。また、先ほど申し上げました感度なんですけども、感度というのは検査学的に言えば、陽性の人に対して検査陽性がどれくらいあるかという概念です。で、その場合の真陽性に対して検査陽性がどれくらいかという点なんですが、その真陽性、True Positiveをどこにとるのかという問題かと思います。で、すべからくですね、え~、ウイルス、人に移さない、い~、ウイルス陽性、PCR陽性っていうにはそういう方も含まれますけども、そういった方を含めて検査陽性にするのか、あ~、そうではなくて、え~、移すと可能性を持っている人に対して、そこをTrue Positiveにして、検査陽性を引っ掛けるのか。そういった観点で先ほど・・、考えるべきかと思いますし、先ほどCt値による、う~、数字が違うと申し上げたのはそういうことでございます。

【フリー  犬飼淳】詳しくご説明ありがとうございます。検査の種類については了解いたしましたが、検査の対象者についても確認させて下さい。今回の成人式で横浜市は抗原定性検査の対象者をワクチン未接種者に限定をされました。しかし、現在、市中感染が確認されているオミクロン株に既存のワクチンが効かないということは多くの海外メディアが報じていますし、国内メディアでも例えばNHKさんは北里大学の研究結果として、2回目接種から3ヶ月が経過した後、オミクロン株に対する中和抗体の値をデルタ株と比較した場合、ファイザーは平均72%も減少、モデルナは平均82%も減少、と既に報じています。こうした事実が昨年のうちに明らかになっていながら、検査対象者をワクチン未接種者に限定した。その意思決定の根拠は何だったのでしょうか。

【山中竹春 市長】特にワクチン未接種者に関してリスクを伴いますし、またワクチン2回接種された方っていうのは、あの~、細胞性免疫っていうのは残っているということは、それはこれまでのデータからも分かっています。あの~、液性免疫に関してはオミクロン株に対して覿面に落ちるのですが、あの、細胞性免疫に関しては残っていると。それに対して未接種者の方っていうのは、そもそもウイルスに対して、え~、その~、マクロっていう状況がつくられていませんから、まあ、そういった重症化のリスク等も考えられますし、そういったことも踏まえまして、未接種者に対して、あの~、配布をしたという次第です。

【フリー  犬飼淳】詳しくありがとうございました。

***

文字起こしは以上です。

まず、今回使用した富士フイルム社の抗原定性検査キットについて、山中市長は「Ct値が30を上回ると、精度が落ちる(=感度は40~50%になる)」ことをあっさり認めています。感度が50%程度であれば、実に2人に1人は偽陰性(実際は陽性なのに陰性と判定)となって検査をすり抜けてしまうので、もはや使い物にならないレベルです。

参考として、検査種類(PCR検査、抗原定量検査、抗原定性検査)ごとのCt値の検出限界や感度について、国立遺伝学研究所・川上浩一教授がエビデンスとともに整理したツイートを紹介しておきます。

Koichi Kawakami, 川上浩一
@koichi_kawakami
《覚えていてほしいこと》
抗原定量検査の検出限界はCt値~30(感染症研)。
niid.go.jp/niid/ja/diseas…
RocheとAbbotの抗原定性検査の感度。Ct値~25で偽陰性~10%。
medrxiv.org/content/10.110…
したがって
抗原定量検査の感度はRT-qPCR検査の1/1000程度。
抗原定性検査の感度はRT-qPCR検査の1/30000以下。
Diagnostic Efficacy of Rapid Antigen Testing for SARS-CoV-2: The COVid-19 AntiGen (COVAG) study Background Widely available rapid testing is pivotal to the www.medrxiv.org
2021/11/16 01:06
716Retweet 830Likes

また、山中市長は「抗原検査で検出できるウイルス粒子数と、人に感染させるウイルス粒子数は同程度」であると述べた後、なぜか「True Positive」などの英語を交えて長々と説明していますが、要は「だから感度が劣る抗原検査でも問題は無い」と主張しているように思えます。

そして、対象をワクチン未接種者に限定した根拠は、「ワクチン接種者は液性免疫は落ちるが、細胞性免疫は残っていること」だと思われます。

こうした主張が本当に正しいのかは引き続き検証する必要がありますが、山中市長の意思決定の根拠がある程度は具体化されたという点で今回の質疑は意味があったと捉えています。

***

参考:関連情報

「無症状者を含む積極的なPCR検査が医療崩壊を招く」という主張が日本で始まった2020年2月に着目し、対象となる15名の主張内容の論理展開や時系列を筆者が整理した記録。パンデミックから約2年が経過しても日本でPCR検査が普及しないことと関連すると筆者は捉えています。

成人式でワクチン未接種者を対象に抗原検査を実施することが発表された昨年12月23日の横浜市長記者会見の文字起こし。筆者は「なぜPCR検査よりも感度・特異度ともに劣る抗原検査を選んだのか」と質問しました。

***

今回のニュースレターは以上です。

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最後までお読み頂き、ありがとうございました。

2022年1月16日 犬飼淳

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