ESAT-J住民訴訟 個人情報保護の最大争点「ベネッセに委託したのか、共同実施なのか」
*公共性が非常に高いと判断したため、前半(住民訴訟の概要)は無料読者にも公開します
*本ニュースレターで継続的に経過報告してきた筆者が原告の取消訴訟(ESAT-Jの「平均点改ざん疑惑」および「不受験者の得点推定」に関する不開示決定取消を求める訴訟)と、今回お伝えする住民訴訟(ESAT-J事業への公金支出差し止めを求める訴訟)は別の訴訟です。本住民訴訟で筆者は原告に加わっておらず、第三者の立場です。
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この記事を書いた理由
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英語スピーキングテスト(ESAT-J)の都立高入試 合否判定への活用は、入試の公平性を破壊するほど多くの問題を抱えている
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数々の問題に対して説明不能に陥った東京都はひたすら「時間稼ぎ」と「説明から逃げる」ことに徹しているため、入試破壊を止める運動は司法に委ねられることとなった
この記事の前半で理解できること(前半)
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住民訴訟の提起から口頭弁論まで1年以上を要した経緯
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住民訴訟の今後の見通し
この記事の後半で理解できること(後半)
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ESAT-J事業が「ベネッセへの委託」なのか「都とベネッセの共同実施」なのかが重要な争点である理由
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ベネッセの個人情報保護法違反、東京都の個人情報保護条例違反の疑いが極めて高い理由
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本住民訴訟は、国内で初めて個人情報取扱の同意が無効と判断される画期的判決になる可能性があること
第1回口頭弁論に至る経緯
2023年度都立高校入試から合否判定に活用されているESAT-Jをめぐって、入試の公平性や公共事業の透明性の観点で重大な問題が多々あったことは約1年にわたって繰り返しお伝えしてきました。
*ESAT-Jの前提知識が無い場合、theletter「高校入試の「公平性」を破壊するESAT-J 問題の全体像」(2022年11月30日)を適宜参照ください
そして2023年12月6日、ついにESAT-J住民訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁で開かれました。しかし、本住民訴訟が提起されたのは2022年11月21日。なぜ口頭弁論が開かれるまで1年以上を要したのか。この間の経緯は、当日に原告弁護団が用意した以下説明資料の「Ⅲ これまでの経緯」をご覧ください。

原告弁護団資料「ESAT-J住民訴訟について」(2023年12月6日)
最大の理由は、被告が誰なのか分からなかったから。
本住民訴訟は公金支出の差し止めを求めているため、被告はESAT-J事業の財務会計行為の権限を有する者が適当です。当初、原告は教育長や都教委にも責任があると考えて被告に含めていましたが、実際は以下2者でした。
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東京都知事 小池百合子
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東京都 教育庁 総務部 予算担当課長
東京都は自らは頑なに情報を出さないため、こうした基本的な確認で1年弱が経過。ようやく被告が明らかになった2023年(令和5年)9月、原告は被告を東京都知事等に変更する許可申立書等を提出。遂に訴訟の形式が整い、同年12月6日の第1回口頭弁論を迎えたわけです。
*厳密に言えば、一般傍聴は不可能な形式(進行協議期日、弁論準備手続期日)で2023年6月以降に複数の期日を実施済み。進行協議期日は争点や訴訟の進行について双方が協議する場
また、上記説明資料「Ⅰ 事案の概要」に記載された通り、ESAT-J事業そのものの是非ではなく公金支出の是非を問うていることに注意が必要です。
*住民訴訟は性格上、事業の是非を問うものではないため。事業の是非を問うのは政治(議会)であって司法(裁判所)ではないという考え方
ちなみに本住民訴訟は2022年(令和4年)分のESAT-J事業が対象となる見込みです。つまり、先月に本試験が実施されたばかりの2023年(令和5年)分は対象外。もともと原告は2023年分も対象に含めていましたが、提訴した2022年11月21日時点では2023年分の契約は存在しなかったこともあり、第1回口頭弁論にて裁判所が2年度分をまとめたまま訴訟を進めることに難色を示したため。そのため原告は2023年分は取り下げて、まずは2022年分に集中して確実に勝ち切る選択をする見通しです。
*後述する重要争点「委託なのか共同実施なのか」に関連して、個人情報保護法違反は2022年分の方が原告の勝算が高いため
第1回口頭弁論の内容
筆者も東京地裁にて傍聴した12月6日の第1回口頭弁論は傍聴席(約50席)が満席になり、注目度の高さが改めて浮き彫りになりました。大勢の傍聴人が見守る中、法廷では原告を代表して2名が意見陳述。
まず、大内裕和氏はESAT-J最大の問題「不受験者の仮結果推定」を具体例に挙げながら、入試の公平性を破壊する事業への公金支出は許されないと指摘。

陳述書 大内裕和氏 (2023年12月6日)P1〜2

陳述書 大内裕和氏 (2023年12月6日)P3

陳述書 大内裕和氏 (2023年12月6日)別紙 P1〜2
続いて吉田弘幸氏は、自ら試験監督を務めた経験も踏まえて試験当日の実施状況や個人情報取り扱いの問題を指摘。

陳述書 吉田弘幸氏 (2023年12月6日)P1〜2

陳述書 吉田弘幸氏 (2023年12月6日)P3
P2〜3にかけて「3 個人情報の問題及び法的対応について」に記載された、2022年(令和4年)9月に東京都教育委員会(以降、「都教委」と記載する場合あり)から「(ESAT-Jは)委託ではない。事業の主体は東京都であり、事業の形態は都教委とベネッセとの共同実施である」と言質をとったことは、本訴訟の勝敗に直結するほど重要な意味を持つことになりました。
*詳細は後半の図解を参照
今後の見通し

左から原告の吉田弘幸氏、大内裕和氏、大島義則弁護士、出口かおり弁護士(2023年12月6日 第1回 口頭弁論終了後、場所を移して実施された傍聴者への報告会) *後方のホワイトボードは非常に複雑な個人情報の論点説明に使用
第1回口頭弁論にて、次回期日は来年(2024年)2月22日に決定。しかし、次回から再び一般傍聴は不可能な形式(弁論準備手続期日)に戻ることになりました。主な理由は、被告は全体的に自らの主張の証拠を未提出で、裁判所から証拠補充を求められているため。
*例:重要な論点である個人情報保護関連、日本経済研究所の支援内容等
また、被告の主張が段々と明らかになったことを受けて、原告側は再び訴え変更(委託料は支払い済みのため差止め請求から損害賠償請求に変更する等)の手続が必要となります。こうした調整を経て再び訴訟の形式が整った後、一般傍聴可能な第2回口頭弁論が開催されます。
提訴から口頭弁論開催まで既に1年以上を要したわけですが、東京都が自らは頑なに情報を出さない姿勢を続けていることを踏まえると、判決までさらに1年程度を要する見込みです。つまり、3回目に当たるESAT-Jが2024年11月頃に実施されてしまった後、ようやく1回目に当たる2022年分についての判決が下ることになります。
*2024年から事業者はブリティッシュ・カウンシルに変更。2022〜2023年を担当したベネッセは撤退
主な論点
本住民訴訟の主な論点を整理すると、以下のようになります。

©️2023 Jun Inukai
特にNo2の個人情報保護は被告主張が明らかになるにつれて、その重要性が非常に大きくなっています。これまでの東京都の方針との矛盾が次々と露呈しているからです。
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未加工の解答音声の開示請求に対して「他の受験生の声が含まれる」という個人情報保護を建前にした非開示決定と矛盾
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所属中学での英語教育に活かす目的と矛盾
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民間活用という本来の建前と矛盾
等々
そこで本ニュースレター後半では、複雑すぎて理解が難しい重要論点のNo2(個人情報保護)に焦点を当て、双方(原告・被告)の主張を図解しながら被告主張の破綻を明らかにします。

重要論点 個人情報をめぐる双方(原告・被告)主張の図解 *非常に複雑なため詳細は本編で解説
後半の目次
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委託なのか共同実施なのかが重要な争点である理由
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ESAT-Jは委託ではなく共同実施と判断できる根拠
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ベネッセは個人情報保護法違反、都教委は条例違反になる理由
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被告が一転して「委託」と主張したことで露呈した新たな矛盾
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ちゃっかり変更されていた実施要項
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