【独自】東京五輪を隠れ蓑に2012年から始まった神宮外苑再開発

東京都が保有する神宮外苑再開発に関する全ての公文書(2012年度~2017年度の4800枚超)の開示請求結果に基づき、都や事業者が水面下で着々と計画を既成事実化した実態を公表します。
犬飼淳 2023.10.16
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この記事を書いた理由

  • 事業者や東京都が問題だらけの神宮外苑再開発を強行できた要因の一つは、不都合な事実を徹底的に隠すことで抗議活動の活発化を遅らせ、その間に規制緩和や契約を既成事実化させたことにある

  • これを放置すれば、悪しき成功事例として他地域でも再開発と称した環境破壊に悪用されてしまう。現に都内では日比谷公園、葛西臨海水族園、小山八幡神社などで類似の手法による環境破壊が進んでいる

この記事で理解できること

  • 東京五輪招致とセットで東京都、渋谷区、新宿区、港区、事業者、地権者は神宮外苑再開発を水面下で着実に進めていたこと

  • その事実を2012年度~2017年度にやり取りされた開示文書41点(4832枚)が証明していること

  • 渋谷区、新宿区、港区の対応姿勢には温度差があったこと

  • 超高層ビル群建設および競技場入れ替えが計画に組み込まれた時期

  • 初期から計画に賛同した地権者から政治献金を受けていた国会議員は誰か

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3つの観点(環境破壊、景観破壊、スポーツ文化破壊)で多大な被害を及ぼす上、東京都や事業者の進め方にも多くの問題を抱える神宮外苑再開発。これほど問題だらけにもかかわらず、事業者(三井不動産、伊藤忠商事、日本スポーツ振興センター、明治神宮等)や東京都が計画を強行できた要因の一つは、不都合な情報は長期間にわたって徹底的に隠し、抗議活動の活発化を遅らせたことにあります。現に、2021年12月にようやく再開発計画の詳細が発表されて以降はオンライン署名などの抗議活動が活発化しましたが、すでに規制緩和や契約は既成事実化されていたこともあり、今年3月の工事開始を止めるには至りませんでした。

神宮外苑再開発の水面下の動きを探るため、筆者はこれまでも2018年度頃までは遡って東京都に開示請求してきました。しかし、肝心の検討経緯については追認や微修正が中心で計画の全容は既に決定していたかのような内容ばかり。現にそれ以降の大きな変更点はラグビー場の屋根(「無し」から「あり」に変更)などごく僅か。さらに過去に遡る必要性を強く感じる結果となりました。

そこで東京都 公文書情報公開システムで「神宮外苑」をキーワードに都市整備局が保有する2017年度以前の公文書を検索した結果、41件がヒット。保管期限が近付いて廃棄の恐れがある文書もあったため、今年7月に文書番号・文書名を特定した上で41件全てを開示請求する荒技に踏み切りました。

結果、9月下旬までに全ての開示が決定。

2023年8月7日 一部開示決定通知書 別紙 *<b>延長せず</b>に<b>一部開示</b>決定した<b>都市づくり政策部</b>の所管分

2023年8月7日 一部開示決定通知書 別紙 *延長せず一部開示決定した都市づくり政策部の所管分

2023年9月22日 一部開示決定通知書 別紙 *<b>60日の延長</b>を経て<b>一部開示</b>決定した<b>市街地整備部</b>の所管分

2023年9月22日 一部開示決定通知書 別紙 *60日の延長を経て一部開示決定した市街地整備部の所管分

2023年9月22日 一部開示決定通知書 別紙 *<b>60日の延長</b>を経て<b>一部開示</b>決定した<b>都市づくり政策部</b>の所管分

2023年9月22日 一部開示決定通知書 別紙 *60日の延長を経て一部開示決定した都市づくり政策部の所管分

2023年9月22日 開示決定通知書 別紙 *<b>60日の延長</b>を経て<b>全部開示</b>決定した<b>都市づくり政策部</b>の所管分 1枚目

2023年9月22日 開示決定通知書 別紙 *60日の延長を経て全部開示決定した都市づくり政策部の所管分 1枚目

2023年9月22日 開示決定通知書 別紙 *<b>60日の延長</b>を経て<b>全部開示</b>決定した<b>都市づくり政策部</b>の所管分 2枚目

2023年9月22日 開示決定通知書 別紙 *60日の延長を経て全部開示決定した都市づくり政策部の所管分 2枚目

これらの開示文書 全4832枚を精査した結果、一般には伏せられてきた2012年度~2017年度の水面下の動きがようやく見えてきました。東京五輪とセットで、というか東京五輪を隠れ蓑にする形で、東京都、渋谷区、新宿区、港区、事業者、地権者が2012年(東京五輪招致決定の前年)から着々と再開発計画を既成事実化させていたのです。

複雑怪奇な再開発エリアの構成

本題に入る前に、神宮外苑再開発の各エリアについて前提知識を整理しておきます。

まず、A-1地区~A-6地区は国立競技場など東京五輪開幕前に整備が必要なエリアのため、2012年から先行して計画が進められていました。

*A-5地区、A-6地区は2016年の区域再編から登場

こうした一見すると東京五輪に向けた計画の中に、2023年現在問題になっている野球場やラグビー場があるA地区(=b区域)や絵画館前広場があるB地区の方針も混ぜ込まれていたことが後ほど紹介する開示文書で明らかになっています。

また、このエリアの呼称は非常に混同しやすいため、注意が必要です。先頭のアルファベットは大文字なのか小文字なのか、末尾は「地区」なのか「区域」なのかで全く別のエリアを意味するのです。さらに、「A地区」と言われたら普通はA-1地区~A-4地区の総称と考えるでしょうが、これも全く別のエリアを意味します。

百聞は一見にしかず。開示文書で紹介していきます。

▼A1~A4地区

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2012年12月) 第2部 地区整備計画編(A-1~A-4地区) 1-1

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2012年12月) 第2部 地区整備計画編(A-1~A-4地区) 1-1

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2012年12月) 第2部 地区整備計画編(A-1~A-4地区) 1-2

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2012年12月) 第2部 地区整備計画編(A-1~A-4地区) 1-2

▼A1~A4地区、A地区、B地区

「A地区」は野球場やラグビー場があるエリアであり、国立競技場などがあるA-1地区~A-4地区とは別のエリアであることが一目瞭然。

*神宮野球場の上に書かれた「A-4地区」の文字は道路を挟んで反対側を指していることに注意

開示文書「東京都市計画 地区計画 位置図」(2013年2月)

開示文書「東京都市計画 地区計画 位置図」(2013年2月)

*斜線が記載されたエリアは地区整備計画の区域(A-1地区~A-4地区)は、東京五輪前の整備が必要。太枠で囲まれたエリア全体が再開発等促進区の区域でA地区やB地区も含まれていることが読み取れる。

▼A-5地区 *2016年の区域再編から登場

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2016年2月) 第1部 全体編(A-3、A-4、A-5地区) 1-2-9

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2016年2月) 第1部 全体編(A-3、A-4、A-5地区) 1-2-9

▼a区域、b区域

開示文書「神宮外苑地区(b区域)まちづくりの検討に係る今後の取組等に関する確認書」(2018年3月) 神宮外苑地区 区域図

開示文書「神宮外苑地区(b区域)まちづくりの検討に係る今後の取組等に関する確認書」(2018年3月) 神宮外苑地区 区域図

最も紛らわしい「区域」と「地区」の対応関係を整理すると以下のようになります。

  • a区域:A-3地区、A-4地区、A-5地区に相当

  • b区域:A地区に相当

従って、これらの表現が出た場合はアルファベットは大文字と小文字のどちらなのか、末尾は「地区」と「区域」のどちらなのかを踏まえて、言及しているエリアを特定する必要があります。

また、参考としてこの後の地権者同意で登場する各地権者の土地所有状況(2012年時点)も紹介しておきます。

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2012年12月) 第1部 方針編(A-1~A-4地区) 1-3

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書」(2012年12月) 第1部 方針編(A-1~A-4地区) 1-3

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2012年12月 東京都市計画 地区計画(A-1~A-4地区)に関する動きが始まる

開示文書 全4832枚を精査した結果、2012年度~2017年度にかけて関連する主なやり取り(送付・依頼・報告・承認等)は89件ありました。これらのやり取りを計5枚のスライドに表形式で整理したので、関連する開示文書を抜粋しながら順に紹介していきます。

2012年12月(東京五輪招致決定の前年)、ご覧の通り既に多くの関係者が目まぐるしく動いていました。

©️2023 Jun Inukai

©️2023 Jun Inukai

ここでやり取りされている主な公文書は約270頁から成る「東京都市計画 神宮外苑地区 地区計画(方針編・A-1~A-4地区)企画提案書」で、タイトルの通り表向きは東京五輪に関連したA-1地区~A-4地区の整備が主な検討対象です。しかし、後述の通り2023年現在問題になっている野球場やラグビー場があるA地区(=b区域)や絵画館前広場があるB地区の方針もわずかに混ぜ込まれていました。つまり、遅くとも2012年12月の時点で神宮外苑再開発は公文書に残るほど公式な形で着実に水面下で始まっていたのです。

▼日本スポーツ振興センターから東京都への企画提案書の提出及び手続き依頼(スライドのNo1に相当)

*2012年12月4日の時点で企画提案書は完成し、東京都等への依頼が始まっていたことを示している

*この文書に記載された「A地区」は例外的にA-1〜A-4地区の総称として用いられているため注意が必要

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書の提出及び都市計画手続きの依頼について」(2012年12月4日)

開示文書「東京都市計画 地区計画 企画提案書の提出及び都市計画手続きの依頼について」(2012年12月4日)

開示文書「東京都市計画 地区計画における都市整備計画に定める2号施設の整備並びに維持管理について」(2012年12月4日)

開示文書「東京都市計画 地区計画における都市整備計画に定める2号施設の整備並びに維持管理について」(2012年12月4日)

開示文書「東京都市計画 地区計画(再開発等促進区を定める地区計画)区域内の関係地権者等の合意状況について」(2012年12月4日)

開示文書「東京都市計画 地区計画(再開発等促進区を定める地区計画)区域内の関係地権者等の合意状況について」(2012年12月4日)

▼各地権者のやり取り(スライドのNo4、8~11、14~17に相当)

全ての地権者が当月中に同意しているため、事前の根回しもあったと推測される

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月10日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月10日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月12日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月12日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月14日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月14日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月17日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月17日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月19日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月19日)

*地権者とはいえ民間マンションに過ぎない外苑ハウスが神宮外苑再開発に初期から関与している違和感は都議会で問題視されたことあり。詳細は2018年の共産党 文書質問参照。

*地権者として同意した外苑ハウス管理組合 理事長 堀内義蔵氏はこの年(2012年)、落選中の自民党 萩生田光一衆議院議員に政治献金していた人物。詳細は、末尾に掲載した意見書を参照

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月26日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月26日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月27日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月27日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月27日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月27日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月28日)

開示文書「神宮外苑地区計画の決定に係る企画提案書の提出について」(2012年12月28日)

▼東京都から日本スポーツ振興センターに対する条件付き同意(スライドのNo19に相当)

開示文書「神宮外苑地区の地権者の同意について(回答)」(2012年12月28日)

開示文書「神宮外苑地区の地権者の同意について(回答)」(2012年12月28日)

開示文書「神宮外苑地区の地権者の同意について(回答)」(2012年12月28日)

開示文書「神宮外苑地区の地権者の同意について(回答)」(2012年12月28日)

▼東京都の決裁(スライドのNo19に相当)

日本スポーツ振興センターの企画提案書提出の24日後(2012年12月28日)、東京都は「内部を審査した結果、基準に適合しており支障が無いと判断したため都市計画の手続きを進める」として決裁。

開示文書「東京都市計画 地区計画(A-1〜A-4地区)の企画提案書の提出について」(2012年12月28日決定)

開示文書「東京都市計画 地区計画(A-1〜A-4地区)の企画提案書の提出について」(2012年12月28日決定)

この決裁を受けて翌2013年の1月~6月、手続き(都市計画法16条・17条に基づく縦覧・説明・意見照会等)は着々と進んでいきます。この間、計画に異議を唱える関係者は皆無だったようで手続きは滞りなく進んでいます。

これ以降の目次

  • 2013年1月~2013年6月 ~東京五輪に向けたA-1~A-4地区の計画が滞りなく進む〜

  • 2015年4月~2018年3月 ~まちづくり基本協定書・合意書・確認書で再開発を次々と既成事実化~

  • 2016年2月~2017年2月 ~東京五輪に向けてA-3~A-6地区の再開発が本格化~

  • 競技場入れ替えはいつ決まったのか

  • 超高層ビル群の建設はいつ決まったのか

  • 地区計画変更に対する2016年の意見書 ~初期から計画に賛同した地権者から政治献金を受けていた国会議員の存在~

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