反レイシズム運動を全否定しかねない「Racist Friend」裁判の問題点(2)

長年にわたる反レイシズム運動を完全否定しかねない、前代未聞の判決が下ってしまった名誉毀損訴訟(通称:Racist Friend裁判)。控訴記者会見の結果を踏まえて、判決の問題点を続報します。
犬飼淳 2023.01.25
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この記事を書いた理由

  • レイシズム(人種差別)を放置すれば、ジェノサイド(虐殺)に発展することは過去の過ち(ナチスドイツによるユダヤ人虐殺、関東大震災における朝鮮人虐殺、等)が証明している

  • しかし、長年にわたる反レイシズム運動を全否定しかねない前代未聞の判決がある名誉毀損訴訟(通称:Racist Friend裁判)で下ってしまった

この記事で理解できること

  • 一審判決における致命的な誤り6点の概要と背景

  • この一審判決を正さなければならない理由

***

ある名誉毀損訴訟において、長年にわたる反レイシズム運動を全否定しかねない、前代未聞の判決が下ってしまいました。

経済評論家の上念司氏(原告)が自らの音楽祭中止に関連して、主に以下2点を主張して音楽評論家 高橋健太郎氏(被告)を2020年に提訴。

  • 被告により「レイシスト」と認定された、「息を吐くようにデマを吐く」と名誉毀損された

  • 被告がミュージシャン 藤原大輔氏を脅迫して音楽祭を中止に追い込んだ

2022年11月15日の一審判決(東京地裁、藤澤裕介裁判長)では上念司氏の訴えの多くは退けられました

(例)「息を吐くようにデマを吐く上念司」という高橋氏の強い口調のツイートですら「上念司氏の事実と異なる説明を訂正し、正しい事実関係を周知させる趣旨で投稿しており、公益を図る目的であった」と判断

しかし、上念司氏のことを名指しすらしていないツイート(反レイシズムがテーマの楽曲「Racist Friend」を例に挙げた意見表明)だけは、なぜか「極めて強い人格非難であり、意見論評の域を逸脱したもの」と判断され、高橋健太郎氏は50万円(上念氏が要求した金額の3分の1)の損害賠償を命じられたのです。

*本訴訟は経緯が複雑で関係人物も多いため、全体像は一審判決直後(2022年11月25日)に配信済みの以下ニュースレターを参照ください

この判決は、非常に深刻な問題を幾つも抱えています。

  • 長年にわたる先人たちの反レイシズム運動を萎縮、後退させかねない

  • 憲法で保障された言論の自由を侵害する

  • 名誉毀損訴訟における最高裁判例と矛盾する

一審判決の誤りを確実に正すべき、重要な意味を持った訴訟と言えます。そのため、高橋健太郎氏は一審判決を受けて翌2023年1月16日に控訴し、記者会見を実施。次の高裁判決がどのような結果であれ、最高裁まで戦う覚悟をすでに固めています。

*筆者も現地参加した記者会見映像(約30分間)は下記Youtubeを視聴ください。視聴者の判断を助けるため、関連資料を適宜投影しています

しかし、時間の都合もあり記者会見では一審判決の全ては説明し切れていません。そこで今回のニュースレターでは控訴理由書の内容も踏まえて、図解を交えながら一審判決の致命的な誤り6点を中心に問題点を改めて紹介します。

*反レイシズム運動への影響という公共性を鑑みて、公開120時間後(1月30日21時頃)から無料読者にも公開しました。メールアドレスを登録すれば無料で全て読めるので、お気軽にご登録ください。

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続きは、9597文字あります。
  • ① 「Racist Friend」は上念司氏を指していない
  • ② 上念司氏の社会的評価は低下しない
  • ③ 過去の発言等は前提事実の認定範囲に含むべき
  • ④ 意見論評に正当性や合理性は不要である
  • ⑤ 前提事実から「上念司氏は人種差別主義者」という論評を導くことは合理的である
  • ⑥ 「Racist Friendみたいな状況になる」は意見論評の域である
  • 参考
  • まとめ(この記事で理解できたこと)

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