NHKクロ現が「学費値上げ特集」を「企業CM」にすり替えた方法

大学の授業料値上げ問題を特集したNHK「クローズアップ現代」(2025年2月4日放送)を全27分の文字起こしに基づいて徹底的に検証し、なぜ番組構成が破綻していたのか、どのような詐術を用いたのかを全て明らかにします。
犬飼淳 2025.02.08
読者限定

*NHKが地上波ゴールデンタイムで放送してしまった悪影響の大きさを踏まえ、冒頭は誰でも読めるように公開します

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この記事を書いた理由

  • 東京大学を震源とする学費値上げが全国の国公立大学や私立大学へ波及し始めている。この根本原因は2004年の国立大学法人化以降にいわゆる「稼げる大学」政策を加速させた国の失政にある

  • しかし、悪質な詐術を用いてまで国の失政を隠そうとする番組づくりが報道番組でもまかり通ってしまっている現状では、議論は的外れな方向に誘導されてしまう

この記事で理解できること(冒頭)

  • 当該番組の番組構成が破綻していた原因

この記事で理解できること(本編)

  • 当該番組で混同して取り上げられた2つの問題の本当の関連性

  • 当該番組(全27分)の文字起こしに基づく詳細な番組構成

  • 当該番組で用いられた全ての詐術

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かつては良質な報道番組の代表格とされていたはずのNHK「クローズアップ現代」。しかし、昨今は質の低下が度々指摘されるようになり、特に2月4日放送回(以降「当該番組」と省略する場合あり)は見るも無惨な内容となりました。サブタイトルは「大学も学生も限界!? 授業料値上げの先にあるものは?」のため、誰もが学費値上げの問題が深掘りされると期待して視聴。

しかし、番組終盤にあたかも解決策のように大々的に紹介されたのは「オンラインで全国どこでも学べる」ことが強みのZEN大学。著名な教員陣、開学時期が間近であること、学費が安いこと、経営陣(角川ドワンゴ学園 川上量生理事 等)のセールストークも次々と紹介され、桑子真帆キャスターは「まさに令和の新しい大学!」とベタ褒め。本来は報道番組の放送枠が、まるで民間企業であるドワンゴの企業CMとして乗っ取られたかのような惨状でした。

そこで今回のニュースレターでは当該番組の破綻原因詐術を徹底的に検証していきます。

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番組構成の破綻原因

当該番組は豊富な取材量(千葉大生インタビュー、高知大学事例、南九州大学事例)に基づいており、番組構成も表面上は繋がっていました。全27分の番組構成を筆者の理解で整理すると以下のようになります。

©️2025 Jun Inukai

©️2025 Jun Inukai

番組冒頭に千葉大生へのインタビューをもとに国立大学の値上げによって苦しむ学生の声を紹介。ここまでは学費絵値上げ特集として相応しい内容であり、この問題を直接掘り下げていれば、報道番組として十分に成立していたでしょう。しかし、ここから先はなぜか「地方格差」や「少子化による大学淘汰」という脇道に誘導して番組の大半の時間を浪費。そして、番組終盤にあたかも解決策かのように大々的に宣伝されたのは「オンラインで全国どこでも学べる」ことを長所とするZEN大学。番組冒頭で問題提起された「値上げに苦しむ国立大学生」と全く無関係な内容のため、極めて意味不明な番組構成となっています。

この破綻の原因は大きく2つあります。

まず1つ目は、因果関係(なぜならば、その結果、そこで、とはいえ)で何となく繋がっているように見える番組構成の中に明らかに繋がっていない部分が1カ所あるのです。それは、中盤で「ところで」と唐突に話題を「少子化を理由とする大学淘汰」にすり替えた部分。「学費値上げ」と「少子化」は本質的には別の問題ですから、これによって番組構成が完全に分断されてしまったのです。

そして2つ目は、値上げの真因である以下のような政府(≒自民党)の数々の背信行為や不都合な事実を徹底的に隠していること。

  • 法人化時の附帯決議(運営費交付金は法人化の公費投入額を十分に確保、学生納付金は経済状況によって学生の進学機会を奪わないように適正な金額になるように努める)を堂々と反故にしてまで、運営費交付金は大幅に減額され続けている

  • 日本も批准する社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)で謳われる高等教育無償化に反している

  • 直近の衆院選(2024年10月)で自民・公明を含む全ての主要政党が高等教育の無償化を公約に含めていたため、学費値上げ問題を放置する自公政権は公約違反状態にある

  • 政府は「財政が厳しい」と言うが、その一方で必要性に大きな疑問符が付く用途(マイナンバー事業、東京五輪、大阪万博、横浜花博等)に税金を湯水の如く浪費し続けてきた

NHKの立場で考えると、真因に言及できなければ問題を深掘りすることは不可能なため、的外れな方向に番組を進行せざるを得なかったのでしょう。この2つの破綻原因を先ほどの番組構成にプロットしたのが以下スライドです。

©️2025 Jun Inukai

©️2025 Jun Inukai

しかも、残念ながらこれはNHKが当該番組で用いた詐術としてはまだまだ序の口。番組全体を文字起こしして細かく確認した結果、NHKは主に4つの詐術を駆使し、実に約20カ所で視聴者をミスリード。特にグラフやデータの扱いは明確な悪意を持って視聴者を騙したと判断できるほどに露骨で、その意図をしっかりと汲み取って番組を進行したキャスター(桑子真帆氏)の振る舞いはもはや詐欺師そのもの。

これ以降の本編では、そうした詐術の意図や手口を全て解き明かしていきます。

©️2025 Jun Inukai *スライド全3枚の詳細は<b>本編</b>で説明

©️2025 Jun Inukai *スライド全3枚の詳細は本編で説明

本編の目次

  • 問題の本当の原因と解決策

  • 用いられた全ての詐術

  • 番組(全27分)文字起こし

*2025年2月14日追記:本来の「読者別の公開方針」に対して非常に例外的な対応となりますが、クレジットカードを持たない学生からの要望を踏まえて、72時間限定(2月14日11時~2月17日11時)で本記事を無料読者にも開放しました。メールアドレス登録のみで無料で全て読めるので、お気軽にご登録ください。なお、社会人になって月600円の余裕ができた際にはサポートメンバー登録をご検討頂けると幸いです・・。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、15625文字あります。
  • 問題の本当の原因と解決策
  • 用いられた全ての詐術
  • 番組(全27分)文字起こし

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