【横浜市長選挙2021】そもそも「横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少ない」は本当なのか
こんにちは。犬飼淳です。
候補者の乱立で注目を集める横浜市長選挙(8月22日投開票)に向けて、3回目のニュースレターをお送りします。
前回の第2回では、一部の候補者が認める発言をしているカジノの経済効果試算が本当なのかを振り返りました。
第3回では、同様に一部の候補者が正しい情報として扱っている横浜市の観光データはそもそも正しいのかを過去の横浜市会の質疑を通して振り返りたいと思います。
候補者の1人である郷原信郎氏は、第2回のニュースレターでも紹介した「横浜IRをコンプライアンス・ガバナンスの視点で考える」と題した今年6月25日の記事で以下のように書いてます。
※引用部分の太字は筆者の判断。ニュースレターの仕様上、改行位置は原文と異なって表示される場合あり。
そして、観光の特性に関して指摘されるのが(4)横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少なく、その伸びも小さい。 ということである。要するに、(1)~(3)のような事情から、横浜市の財政が将来悪化すると予想されるので、IRから市に入る収入によって財源を確保しようというものである。そして、(4)の日帰り中心の観光を、IRの整備による内外の宿泊客の増加で観光消費額を増大させ、経済の活性化を図ろうというものである。(中略)IRをめぐる議論は、結局のところ、上記(1)~(3)の横浜市の財政事情や(4)の観光収入の実情などから、IRによって「横浜市を豊かにすること」への期待を重視するか、横浜市の未来が「ギャンブルによって支えられる」、そこには「横浜市民がカジノで失う賭け金も含まれている」という負の側面を重視するか、ということに帰着するように思われる。
郷原氏は横浜市が挙げているIR整備計画を推進すべき主な理由を紹介しつつ、自身の考え(=この議論はIRによって横浜市を豊かにするか、ギャンブルによって支えられる負の側面を重視するかに帰結すること)を述べています。その中で、横浜市が示した「横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少ない」という観光データは正しいという前提で話を進めています。
本当でしょうか?
そもそも、本当に横浜市の観光客は日帰りが多く、観光消費額は少ないのでしょうか?
結論を先にお伝えすると、そんな事実はありません。
それどころか、林市長がIR誘致を表明した2019年8月から現在に至るまで約2年間の市議会のやり取りで明らかになったのは、「そう見せかけるために横浜市がデータを捏造したこと」です。
具体例は、筆者が過去に執筆した記事から抜粋して紹介します。
横浜市がカジノ誘致の根拠にした観光データは捏造
林市長はカジノを含むIR誘致を表明した2019年8月22日の記者会見で、日帰り観光客が占める割合、日帰り客と宿泊客それぞれの観光消費額が、3つのエリア(日本、東京都、横浜市)に分けて記載され、エリア毎の数字が横並びに比較された表を用いています。
(参照:横浜市記者発表資料「IRの実現に向けて」別紙 P2)
そして、その表で比較された数字をもとに、横浜市を訪れる観光客は日帰り客も宿泊客も消費額が他の都道府県に比べて少ないという結論を導いています。
しかし、これはとんでもないイカサマでした。
記者会見から約2週間後の9月6日の横浜市会 本会議一般質問における立憲民主党・萩原隆宏市議と林市長の質疑で、以下のカラクリが発覚します。
横浜市が提示した観光データは、消費金額の定義、調査時期、調査方法などが全く異なる2つの調査結果をあたかも同じ条件で調査した結果であるかのように1つの表にまとめていたのです。横浜市のデータは観光消費額の計算範囲の定義が狭く、調査時期に宿泊費や交通費が値上がりするハイシーズンを含まないため、観光消費額が低く算出されるのは当然でしょう。
※イカサマの詳細は、2019年9月9日に私がハーバー・ビジネス・オンラインに掲載した下記の記事を参照ください。
※質疑当日(9月6日)の深夜、イカサマがの概要を簡単に紹介した筆者の連続ツイートは以下を参照ください。
立憲・萩原隆宏市議の質問によって、市長が説明した会見資料(写真参照)は、デタラメと判明。
横浜市の観光消費金額が少ないという結論を導くために、算出方法も調査方法も全く異なるデータを同列に比較。
今年初めに発覚した統計不正の手法とそっくり。
以下、続く
そして、カジノ誘致の根拠である観光データのイカサマが発覚してから2年近くが経過していますが、「横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少ない」ことを示す客観的データが横浜市から新たに示されたことはありません。
郷原信郎氏は横浜市のコンプライアンス顧問を長年務めており(林市長の任期満了を受けて、今月に退任済み)、林市長がIR誘致を表明した際に使用した観光データがイカサマであったことは当然知っているはずです。しかし、冒頭に紹介した通り、なぜか郷原氏は「横浜市の観光客は日帰りが多く、観光消費額は少ない」という横浜市や林市長の主張は正しいという前提のもとで話を進めています。この事実は、カジノ反対を掲げているはずの郷原氏を評価する上で一つの判断材料になり得ると考えられます。
万が一、このイカサマの件を知らないのであれば横浜市政について勉強不足すぎるし、イカサマだと知った上でカジノ誘致の根拠として今も使用しているのであれば悪質すぎます。
今回のニュースレターは以上になります。
2021年7月28日 犬飼淳
次回予告
カジノ反対を掲げている候補者の中にも、「カジノは即撤回」と主張する候補者と「カジノの是非は住民投票で決めるべき」と主張する候補者がいます。そもそも、カジノを推進する自民・公明が過半数を占める横浜市会において今年1月に住民投票は否決されており、スケジュールや議会構成も踏まえた上で住民投票は可能なのか、どのような意味があるのかを次回は考察したいと思います。
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