【横浜市長選挙2021】そもそもカジノの経済効果試算は本当なのか
こんにちは。犬飼淳です。
候補者の乱立で注目を集める横浜市長選挙(8月22日投開票)に向けて、2回目のニュースレターをお送りします。
前回の第1回では現職の林文子市長のカジノ誘致をめぐる発言に焦点を当てました。
現在の立候補の状況をおさらいすると、質問状への回答次第では出馬を辞退して山中竹春氏の支援に回る可能性を示唆していた郷原信郎氏が一昨日(7月16日)に正式に出馬を表明。カジノ反対で現政権を支持しない層にとって投票先の候補者(山中氏、郷原氏、田中康夫氏、など)が複数いる状況になっており、判断に迷っている方が多いと思われます。第2回以降は、この3名の投票判断の参考になる情報を特に意識していく予定です。
※横浜市民ではない読者の方にとっては、直接関係のない話題のニュースレターが続いてしまい恐縮ですが、この横浜市長選挙は遅くとも10月までに行われる国政選挙とも深く関係してくると私は予想しています。
第2回では、カジノによる経済効果はそもそも本当なのかを過去の横浜市会の質疑を通して振り返りたいと思います。
今回の横浜市長選挙ではカジノ反対を掲げている候補者が非常に多いですが、横浜市や林市長が主張しているカジノによる経済効果については認める発言をしている候補者が実は一部にいます。
例えば、候補者の1人である郷原信郎氏が今年6月25日に発信した「横浜IRをコンプライアンス・ガバナンスの視点で考える」と題した記事で、以下のように書いています。
※引用部分の太字は筆者の判断。ニュースレターの仕様上、改行位置は原文と異なって表示される場合あり。
まず、横浜市のIR事業に関する議論を整理してみたい。(中略)横浜市において、IR整備計画を推進すべきとする財政上の理由として、次のようなものが挙げられる。(1)今後、横浜市でも生産年齢人口の減少等による、消費や税収の減少、社会保障費の増加など、経済活力の低下や厳しい財政状況が見込まれており、そうした状況であっても都市の活力を維持するための財源確保が必要である。(2)横浜市は上場企業数が少なく、法人市民税収入が少ない。(3)今後、小中学校の建て替えなど、公共施設の保全・更新に膨大な予算が必要となる。 そして、観光の特性に関して指摘されるのが(4)横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少なく、その伸びも小さい。 ということである。要するに、(1)~(3)のような事情から、横浜市の財政が将来悪化すると予想されるので、IRから市に入る収入によって財源を確保しようというものである。そして、(4)の日帰り中心の観光を、IRの整備による内外の宿泊客の増加で観光消費額を増大させ、経済の活性化を図ろうというものである。(中略)IRをめぐる議論は、結局のところ、上記(1)~(3)の横浜市の財政事情や(4)の観光収入の実情などから、IRによって「横浜市を豊かにすること」への期待を重視するか、横浜市の未来が「ギャンブルによって支えられる」、そこには「横浜市民がカジノで失う賭け金も含まれている」という負の側面を重視するか、ということに帰着するように思われる。少なくとも、上記(1)~(3)の横浜市の財政事情に対しては、IRによる収入増加を図ることだけが解決策ではない。市民が健康で文化的で安心して暮らせる横浜市のために、何が必要なのかという観点から、政策の優先順位を検討し、市の財政支出の抑制を図り「静かでコンパクトな横浜」をめざすのも一つの方向である。
郷原氏は横浜市が挙げているIR整備計画を推進すべき主な理由4点を紹介しつつ、自身の考え(=この議論はIRによって横浜市を豊かにするか、ギャンブルによって支えられる負の側面を重視するかに帰結すること)を述べています。つまり、郷原氏は「IRによって横浜市は豊かになる」という横浜市や林市長の主張は正しいという前提で話を進めていると読み取れます。
本当でしょうか?
そもそも、本当にカジノは横浜市を豊かにするのでしょうか?
結論を先にお伝えすると、その明確な根拠を横浜市は今日に至るまで示せていません。
それどころか、林市長がIR誘致を表明した2019年8月から現在に至るまで約2年間の市議会のやり取りで明らかになったのは、「そんな根拠は無いこと」と「そう見せかけようと横浜市や林市長が躍起になっていること」だけです。
具体例は、筆者が過去に執筆した記事から抜粋して紹介します。
「カジノで増収1200億円」発言の根拠は無い
林市長はカジノを含むIR誘致を表明した2019年8月22日の記者会見で「IRによる横浜市の税収効果は 年間820億円~1200億円」 と自らの口で説明しました。
(参照:横浜市記者発表資料「IRの実現に向けて」P4)
しかし、この会見から約2週間後の9月3日、横浜市会の本会議で立憲民主党・太田正孝市議が林市長にその根拠を問い質したところ、「カジノ事業者が出した数字をヒアリング等で横浜市は確認した。だが、その根拠は公表しない前提なので答えられない」という趣旨の答弁を繰り返すのみで、全く回答できませんでした。
※詳細は、2019年9月6日に私がハーバー・ビジネス・オンラインに掲載した下記の記事を参照ください。
また、10日後の9月13日、カジノ補正予算を審議していた横浜市会の政策・総務・財政委員会で「カジノで増収1200億円」の根拠を複数の市議が追及した結果、横浜市の担当者から返ってきた答えは「1200億円の内訳すら示せない」「1200億円という数字は施設の条件次第で変わるので、横浜市として担保できるものではない」という、根拠が無いことを裏付けるものばかりでした。
※詳細は、2019年9月20日に私がハーバー・ビジネス・オンラインに掲載した下記の記事を参照ください。委員会審査で判明した12の事実を整理しており、増収1200億円の根拠についてはNo11~12で指摘しています。
これらは林市長が突如としてIR誘致を表明した翌月の出来事なので、「当時は急だったから根拠を示せなかっただけでは?」と考える方もいらっしゃると思います。
そんな方のために、じっくり準備する時間があったであろう1年後にどのように変化したかを次は確認してみましょう。
「IRがコロナ収束後に経済の起爆剤になる」発言の根拠は無い
翌2020年、新型コロナウイルスによるパンデミックで世界のカジノをめぐる状況は一変しました。カジノはもともと斜陽産業であった上、室内に大勢が集まるカジノの環境は感染リスクが高いことからさらに敬遠されて経営は厳しさを増し、海外渡航の制限が続けば期待されていたインバウンドにも頼れません。こうした状況を冷静に捉えればカジノ誘致は見直すべきですが、林市長はむしろ「IRがコロナ収束後の起爆剤になる」という趣旨の発言を2020年に入ってから繰り返していました。
そこで、パンデミック発生から半年以上が経過した2020年9月25日、横浜市会の決算第一・第二特別委員会連合審査会で無所属・井上さくら市議が林市長に「IRがコロナ収束後の起爆剤になる」発言の根拠を問い質しましたが、返ってきたのは「国が支援している」「観光的に多くの集客ができる」などIRでなくても当てはまるような曖昧な答えばかりでした。逆に言えば、「IRがコロナ収束後の起爆剤になる根拠は無い」ということを林市長はこれらの答弁を通して自白したと考えられます。
そのやり取りは、以下の約6分の動画で確認できます。
※詳細は、2020年9月28日に私がハーバー・ビジネス・オンラインに掲載した下記の記事を参照ください。
郷原信郎氏は横浜市のコンプライアンス顧問を長年務めており(林市長の任期満了を受けて、今月に退任済み)、横浜市や林市長が主張しているIRカジノの経済効果の根拠がいかに怪しいかは当然知っているはずです。しかし、冒頭に紹介した通り、なぜか郷原氏は「IRによって横浜市は豊かになる」という横浜市や林市長の主張は正しいという前提のもとで話を進めています。この事実は、カジノ反対を掲げているはずの郷原氏を評価する上で一つの判断材料になり得ると考えられます。
今回のニュースレターは以上になります。
2021年7月18日 犬飼淳
次回予告
横浜市がIR事業を推進すべき理由として挙げられている「横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少なく、その伸びも小さい。」という主張。
冒頭に引用した郷原氏の記事にまるで事実かのように記載されていますが、これが真っ赤な嘘であることを過去の横浜市会の質疑を通して振り返ります。
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