本多平直氏の「14歳と性交」発言は本当にあったのか
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こんにちは。犬飼淳です。
2021年5月10日の立憲民主党「性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム」にて本多平直氏は「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と発言したとされています。この発言を6月4日に最初に報じた産経新聞記事の見出し(「50歳が14歳と同意性交で捕まるのはおかしい」立民議員が主張)があまりに衝撃的だったこともあり、多くの人々の関心・怒り・失望を巻き起こし、ついに本多氏が7月27日に離党・議員辞職を発表することで幕引きとなりました。その過程で立憲民主党の調査報告書の杜撰さ、ワーキングチームの寺田学座長が本多氏と2人だけの会話を密かに録音して公開したことも明らかになり、決して本多氏だけの問題ではないということは一般的にも認識されているかと思います。しかし、この件が報道される際、冒頭の衝撃的な発言内容と本多氏の名前がセットで記事の見出しに使われることが多く、
「立憲側にもいろいろ問題はあったけど、結局のところ本多さんは例の問題発言をしたんでしょ? だったら、議員辞職も当然だよね」
というのが世間の一般的な見方だと思います。実は、私もそう思ってました。
この件が問題になっていた今年6月〜7月にかけて私は別件で忙しく、複雑な経緯を辿った本件を正確に追うことができず、メディアの報道でしか情報を得られていませんでした。その考えが変わったのは、あるきっかけがあって本多氏が辞職を決意した7月27日の記者会見の映像 全1時間24分を通して見たからです。報道内容に引きずられて何となく理解していた内容とあまりにも実態が異なっていることに初めて気づき、私は驚愕しました。その時の率直な思いや問題意識については、以下ツイートのスレッドを参照ください。
恥ずかしながら自分も大変な思い違いをしていたと今ごろ気づきました。
誤った情報発信をしてしまった方は、せめてこの会見映像は全て見るべきだと思う。
youtu.be/iZ_LitmmMAA 【字幕あり】東京記者会見2021/07/27 youtu.be
そこで今回のニュースレターでは問題の発言を時系列で整理し、発言を裏付ける出来事の信憑性を4段階で区別して論理展開を図解し、十分な根拠があるのかを検証します。
表記の注意事項
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「立憲民主党 性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム」は「WT」と省略して記載します。
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本多平直氏が2021年5月10日のWTで発言したとされる「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」は【発言】と省略して記載します。
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本多平直氏が提出した意見書は「本多意見書」、寺田学座長が提出した意見書は「寺田意見書」、本多平直氏がウェブサイトで公表した声明文は「本多声明」と省略して記載する場合があります。
検証の対象範囲
・本多氏が問題の【発言】をしたのかどうかに焦点を絞って検証を進めます。
・関連する問題点(調査報告書の杜撰さ、等)については既に他の方々が幾つかの論考を発表しており、必要に応じて適宜それらを紹介する形で済ませます。
・本多氏に対して後から追加された疑惑(7月12日付 調査報告書に記載されたWTにおけるパワハラ疑惑、7月25日付の寺田学座長の意見書に記載された被害者支援団体について「インチキ」「論外」等と発言した疑惑)は一切考慮しません。これらは発端となった【発言】が問題視される中で後から突如として出てきており、切り分けて考える必要があると判断したため。
参考:公式資料
検証は、以下の公式資料に基づいています。
立憲民主党ハラスメント防止対策委員会 調査報告書(7月12日付)
*報告書に日付が記載されないなど文書として多数の不備があるが、文書が提出された日である7月12日付とする
本多意見書(7月21日付)
意見書
意見書概要
寺田意見書(7月25日付)
*現在に至るまで公式には公開されていないが実質的には流出しており、上記URLから閲覧可
本多声明(8月付)
*本多意見書(7月21日付)や辞職記者会見(7月27日)で主張した内容が3ページで簡潔に整理されており、本多氏の主張を素早く確認する上では最も有効と考えられる。本多氏の記憶と主観に依存して書かれているが、筆者が確認した限りでは他の事実関係との整合はとれている。
【発言】をめぐる時系列
まず、今回の騒動の経緯を詳しく把握していない方のために、【発言】に関係する主な出来事、報道内容などを時系列で整理したのが以下のスライドになります。関係者の間で主張内容に大きな隔たりがあるケースが散見されるため、何を根拠に記載しているのかは右側の出典列に○を付ける形で表現しています。
©︎2021 Jun Inukai
時系列にしてみると、改めて「なにがなんだか、ワケがわからない・・・」と困惑される方が多いかと思います。
まず、ざっと見ただけででも不可解な出来事が幾つもあります。
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5月10日から1ヶ月近くも経った6月3日、寺田学座長は本多氏に何の確認もなく【発言】を立憲の全議員にメール送信。
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その翌日(6月4日)には産経新聞が第一報。
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産経の第一報を受けて、本多氏は音声データの確認を福山幹事長に求めるも「有無が不明」「あるけど聞かない方が良い」と説明が二転三転。
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寺田学座長は5月13日の本多氏と2人だけの会話を密かに録音し、7月25日の寺田意見書で会話の一部を継ぎ接ぎする形で記載。
こうした違和感については後ほどの論理展開の図解で説明するので、一旦置いておくとして、報道内容に着目しながら流れを振り返りたいと思います。
まず、6月4日の産経新聞の第一報は見出し(「50歳が14歳と同意性交で捕まるのはおかしい」立民議員が主張)が非常に衝撃的だったこともあり、多くの人々が怒りの声をあげました。その3日後(6月7日)に【発言】の主は本多氏であると 公表されると、各社は当日中に「14歳と性交」というショッキングな言葉と本多氏の名前をセットで見出しに用いて報じました。
本多氏も【発言】を認めて撤回・謝罪していたため、そのまま7月上旬までの1ヶ月間ほどは世間も本多氏への非難一色だったと記憶しています。その裏で本多氏は音声データの確認を求めたり、自ら記者会見を開くことを希望するも福山幹事長に拒まれていたという事情はありましたが、この時点ではそれらは公になっていなかったので、立憲の党内事情を知らない一般人が本多氏を批判したり、嫌悪感を持ったのは致し方ない面もあると思います。
風向きが変わったのは、7月12日付のハラスメント防止対策委員会の調査報告書が一般公開された頃です。「調査報告書」と呼ぶにはあまりにも杜撰な内容で、立憲内部のガバナンスに想像以上の問題が起きていることに気づく人が出始めました。この調査報告書は、そもそも文書として欠陥だらけ(提出日付が書かれてない、文章の主語が曖昧、事実と評価の切り分けが曖昧、等)の上、肝心の5月10日WTについてのヒアリング対象者が明示されないどころか挙句の果てには当日のzoom参加者すらも未調査と認めており、もはや調査する意思が無いと判断せざるを得ない代物でした。
この調査報告書の問題点については、以下の論考が詳しいので適宜 参照ください。
この杜撰な調査報告書に基づいて1年間の党員資格停止という処分を受けて、さすがに本多氏も反撃に転じたのが7月21日。意見書を提出し、具体的に反論(調査の杜撰さ、調査報告書ですら【発言】に「性交」という言葉は無かったと実質的に認定、など)を始めます。
その4日後(7月25日)、本多意見書に反論する形で今度は寺田学座長が意見書を提出。5月13日の本多氏との2人だけの会話を密かに録音していた上、その会話の一部を継ぎ接ぎする形で本多氏は問題の【発言】そのままの価値観であると主張しており、寺田座長の手法の異常さは大きな物議を醸しました。
こうした経緯を経て、本来は党からの処分を言い渡される予定だった7月27日朝に本多氏は自ら離党と議員辞職を福山幹事長に伝え、当日中に記者会見を開催。1時間24分にわたって、自らの主張を初めて公の場で語りました。
お時間がある方は、この記者会見を全て観ることを強くオススメします。お時間がない方は、8月に入ってから本多氏がウェブサイトで公表した声明をご覧ください。本多意見書(7月21日付)や辞職記者会見(7月27日)で主張した内容が3ページで簡潔に整理されており、本多氏の主張を素早く確認できます。
この記者会見で本多氏は問題の【発言】について、繰り返し以下のように主張しています。*文言は本多声明より引用(太字は筆者の判断)
問題となった5月10日の発言は、WTにおいて講師が、「年齢差の大きな場合には恋愛は存在し得ない」との趣旨のご発言をされたのに対し、私は、100%存在し得ないことはないのではないかとの思いで、「例えば(目の前にいる実在の)50代の私が「14歳との恋愛は存在する」と言っても、存在しないと言えるのか」との趣旨で述べた質問だったと記憶しています。(中略)後に本件を検証したハラスメント防止対策委員会の私に厳しい報告書ですら発言は「50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に罰せられるのはおかしい」と認定しています。「恋愛のうえで」が削られ、「性交」が付け加えられていたことになります。
つまり、問題の【発言】は、年齢差の大きい恋愛が存在するか否かという限界事例を確認する目的であったこと、その【発言】に「性交」という言葉は無かったと調査報告書ですら認定していることを1時間24分に及んだ記者会見でも繰り返し伝えていたのです。
しかし、当日の記者会見を報じた記事には、以下のような見出しが並びました。
日本テレビ:”14歳と性交”発言 本多議員が辞職表明
記者会見に出席して本多氏の説明を聞いたはずの記者たちですら、「14歳と性交」というショッキングな言葉と本多氏の名前をセットで見出しに使い続けたのです。こうして、本多氏は問題の【発言】をしたというイメージが世間に定着し続けることになります。
「14歳と性交」という言葉を強調したほうがPVや視聴率を稼げるという判断があったのか、外部の働きかけがあったのかは定かではありませんが、メディアが自ら積極的にミスリードに加担しており、もはや「報道被害」と呼んで差し支えない状況が起きていたと言えます。
本多氏が【発言】をしたとする論理展開
時系列を確認しただけでも、本多氏が問題の【発言】をしたとする根拠には多くの問題があることが理解できたかと思いますが、より具体的に論理展開を分解してみましょう。
まず、【発言】を裏付けるにあたっての信憑性を明確に線引きするため、以下の基準を採用します。
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信憑性A:客観的な事実 (例)当日の録音・録画データに【発言】が記録されている、など
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信憑性B:情報源が明確な証言 (例)当日の同席者が実名で証言している、取材の情報源を実名で明かして報道、など
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信憑性C:情報源が不明確な証言 (例)取材の情報源が匿名のままで報道、など
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信憑性D:憶測 (例)A〜Cに基づいた憶測
結論(「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と本多平直氏が発言した)に繋がる内容を信憑性に応じて4段階に区別した上で、論理展開を整理すると、以下のスライドのようになります。
©︎2021 Jun Inukai
まず、当日の録音・録画データは存在しないとされているため、信憑性A(客観的な事実)に分類できるものはゼロです。あくまでも信憑性BとCに分類された内容に基づいて、結論が導かれています。
どのようにして結論が確定されたのかを3つ(ⅰ〜ⅲ)に分類すると以下のようになります。
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ⅰ 発言内容が確定
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ⅱ 発言者が確定
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ⅲ 当日の同席者が実名でⅰ〜ⅱは正しいと証言
ⅠとⅡで発言内容と発言者が確定し、Ⅲの証言によって裏付けされているという構図です。
しかし、この論理展開には少なくとも6点の疑義があります。
本多氏が【発言】をしたとする論理展開の疑義
先ほどの論理展開に対して、6点の疑義をプロットしたのが以下のスライドになります。
©︎2021 Jun Inukai
6点に疑義について根拠となる資料や補足説明を以下に記載していきます。
① 6/4 産経の第一報を受けて、本多氏は音声データの確認を福山幹事長に求めるも「有無が不明」「あるけど聞かない方が良い」と説明が二転三転。6/7に本多氏は正確な文言を確認できないまま、自らの【発言】を撤回。
福山幹事長の説明が二転三転しているのは、単純に実態の把握に時間がかかったためという解釈もできますが、本人から納得のいく説明がない以上は非常に不自然です。この疑義に関する本多氏の主張は、本多声明 P2を参照ください。
② 調査報告書でヒアリング対象者が明示されていない上、当日のzoom参加者すらも未調査のまま。本多氏の確認では、参加した衆院職員・WT役員1名のヒアリングが未実施。
まず、調査報告書 全13ページを私も隅々までチェックしましたが、ヒアリング対象者はどこにも明示されていません。
さらに、問題となっている5月10日のWT参加者については、調査報告書ではP2の先頭にたった3行で以下のように記載されています。
現場での出席議員は、寺田学WT座長、池田議員、本多議員の3名だった。オンラインではどの程度参加者いたのか記録はなかったが、当該本多議員の発言を咎める者はいなかった。
目を疑うでしょうが、本当にたったこれだけしか記述が無いのです。
zoomがこれだけ普及しているので説明不要でしょうが、ホスト権限を持っているユーザは参加者のログを残すことが可能です。たとえログを残していなかったとしても、zoom会議中の参加ユーザは全員に公開されているので、参加したメンバの記憶を辿って参加者を割り出すことは容易でしょう。しかも、外部講師(島岡まな氏)と本多氏の間で口論になったと調査報告書すらも認めている回なので、参加者が忘れることはあり得ません。つまり、この調査報告書が示しているのは、「ハラスメント防止対策委員会 は参加者を明らかにするつもりは無い」という強烈な意思表示と解釈せざるを得ません。
この疑義についての本多氏の主張は、本多意見書 P7を参照ください。当日参加者の少なくとも2名(衆院職員・WT役員)はヒアリングされていないことを本多氏が自ら確認して記載しています。
③ 6/3 中間報告案を見た本多氏は年齢の例示から自分の発言だと感じ、寺田座長に「音声データを聞かせてほしい」「撤回したい」と申し入れするも拒否される
この疑義に関する本多氏の主張は、本多声明 P1終盤〜P2先頭を参照ください。
ただし、寺田座長はこの件について寺田意見書 P5で反論していることも補足しておきます。両者の主張が食い違っているので真偽は判断できませんが、論理展開のスライドで示した通り、この疑義③がついている内容(6月3日に【発言】が記載されたWT中間報告案を寺田座長が立憲の全議員にメール送信)は、翌日の産経新聞のセンセーショナルな第一報に繋がっており、一連の騒動の最も重大な引き金になったと考えられます。その重大な出来事について両者の主張が食い違っていること自体が不可解だとも言えるでしょう。
④ 6/5 複数のWT参加者(泉健太氏、近藤和也氏)がそのような【発言】は無かったとツイート
産経新聞の第一報の翌日、複数のWT参加者が以下のように【発言】を否定するツイートをしています。
*ただし、泉氏は6月8日に以下のように訂正。近藤氏は明確な訂正は特になし。
①そもそも私のツイートは、「私が参加した場において、そのような発言は耳にしておりません」です。
②執行部から本多議員に厳重注意があったのは、私のツイートの後です。厳重注意後には、その事を、説明しています。
本来であれば この2人の証言は【発言】が無かったことを示す重要な証言になり得ましたが、調査報告書では5月10日WTの参加者すらも明らかにされておらず、この2名が当日に参加していたのかについても公式な発表は特にされていないので、そのまま有耶無耶になってしまったように感じます。
⑤ 寺田座長は意見書に会話の全文ではなく一部を継ぎ接ぎして記載しており、どのような文脈で本多氏が「そうそう」と返答したのか不明確
寺田座長は5月13日の本多氏との2人だけの会話を密かに録音した上、寺田意見書にその会話内容を記載しています。しかも、会話の全てを記載するのではなく、会話の一部を継ぎ接ぎする形で記載して、本多氏は問題の【発言】そのままの価値観であると主張しています。
以下、寺田意見書 P3の該当部分を原文のまま引用します。
録音録画がないことから、本多氏は当初発言に関して「記憶がない」との認識を 示しておりましたが、意見書提出の段階では一転して「『例えば(実在の)私が 恋愛の存在を主張しても、それを認めないのか』との趣旨を質問しました。この やりとりが別の表現に変えられました」(本多氏 SNS)との表現に変わりました。 この点には強い違和感を覚えるため、当該発言があった WT から3日後の面談 中の本多氏の発言を以下に示します。
寺田: 「僕が、あの発言を聞いて思ったのは、本多さんは14歳同士のセックスを守れ、 ではなく、50代と中学生のセックスも同意があればいいんだって価値観なん だな、と」。
本多:「そうそう」 「でも、実をいうと、この価値観を最後まで押し通そうとは思っていない」 「極端な例で50歳もいいと思ってる。それは、たぶん平場で話しても少数者の すごい自由主義者」 「それはなぜかと言うと、今たくさん14歳、15歳から誘っている例があるか ら。23歳とかを」 「みんなフェミニストの人達は、男が騙してセックスをさせるもんだと思って いるんだけど、今時代が変わってきていて、お金のためとか、興味のためとか、 本当に惚れて、まー誘うこともある。そのことを分かってないから」
本多:「俺、そんな変な例を出した?」 「興奮して、そんな不利になるような例を」 「50歳っていう一番極端な気持ちの悪い例を、まして自分とか言っちゃった んだとしたら致命的。」
とも述べられています。
この会話の流れが理解できる方、いますか??
先ほど示したリンク先を見れば分かる通り、寺田意見書には本当にこの通りに記載されているのですが、会話の一部を切り取って継ぎ接ぎしているので、どのような文脈で語れているのか理解することは不可能です。寺田氏の発言「本多さんは14歳同士のセックスを守れ、 ではなく、50代と中学生のセックスも同意があればいいんだって価値観なん だな、と」の直後に本多氏の「そうそう」と書いていますが、これだけ継ぎ接ぎされた文章において、本多氏がどのような呼びかけに対して「そうそう」と答えたのか判断できません。
つまり、実名で証言した同席者2人(島岡まな氏、寺田座長)のうち、寺田座長の証言は非常に不自然であると断言できます。
⑥ 調査報告書には「50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に罰せられるのはおかしい」と記載。「性交」という言葉は無かったと認定
6月4日の産経新聞の第一報から一貫して、本多氏の【発言】は以下のような内容だったと繰り返し報じられています。
「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」
しかし、疑義②でも説明した通り調査プロセスが杜撰な上、突如として本多氏のパワハラ疑惑を持ち出すなど本多氏に不利な内容を書き連ねていた調査報告書ですら、発言内容は以下のように記載されています。
「50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に罰せられるのはおかしい」
つまり、何度も繰り返し報じられた「性交」という言葉は無かったと実質的に認定しているのです。その後もメディアは繰り返し「14歳と性交」というショッキングな言葉と本多氏の名前をセットで見出しに使い続けたこともあり、本多氏は問題の【発言】をしたという印象を持っている人は今も多いでしょうが・・。
その一方、「恋愛したうえで」という言葉は逆に削られています。年の離れた恋愛を限界事例として挙げること自体が不適切だという意見もあるでしょうが、第一報で報じられた【発言】は複数箇所において本多氏に不利な形に歪められていたことは明らかではないでしょうか。
疑義が付いていない唯一の実名証言について
最後に、先ほどのスライドで疑義を示す①〜⑥の番号がプロットされていない唯一の実名証言について補足しておきます。
問題の【発言】があったとされる5月10日 WTの外部講師である島岡まな氏(大阪大学 教授)は6月8日(本多氏の実名報道が始まった翌日)に以下のようにツイートしています。
ぜひ性交同意年齢の引き上げを‼️
立憲民主党にとって第三者の立場である島岡氏が、本多氏は「性行為」という言葉と結びつけて問題の【発言】をしたと明確に書いています。
これは、私がこれまで述べてきた疑義を全て打ち消すほどの重い意味があると受け止めています。
考えられる可能性としては以下の3つが挙げられますが、正直に言って 完全部会者である私にはどれが正しいのか分かりません。
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島岡氏の証言通り、本多氏は例の【発言】をしていた。
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このツイートをした6月8日時点で既に「14歳と性交」と本多氏の名前がセットで繰り返し報じられていたため、同席した島岡氏も記憶違いをしていた。実際は本多氏の【発言】に「14歳と性交」という言葉は無い。
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島岡氏は嘘をついおり、実際は本多氏の【発言】に「14歳と性交」という言葉は無い。
あえて私の個人的な意見を書けば、さすがに意図的に嘘をつくのはデメリットの方が大き過ぎる(もし誰かが密かに録音しており後から音声が出てきた場合、嘘をついたことが容易にバレる)ので、可能性としては2点目(記憶違い)が最も高い気がします。もちろん、1点目(【発言】はあった)の可能性もあり得ますが。
参考として、この3つのどれが正しいのかについて読者の方々が自ら考える上で判断材料になる映像だけは紹介しておきます。
これは、ツイートの8日後に当たる6月16日のポリタスTVの映像です。タイトルに「50代が14歳と性交」とあることから分かる通り、本多氏の【発言】や刑法改正議論について、ゲストの島岡まな氏と司会の津田大介氏が約1時間半にわたって語り合っています。5月10日のWTや報道について津田大介氏から意見を求められた際、島岡まな氏は以下のように答えています。
*番組が1時間半と長いので関係箇所の計10分間を該当箇所の秒数を示した上でピックアップします。全編は上記のYoutube動画で視聴できます。
<5分15秒〜9分58秒のやり取り>
【津田大介氏】島岡さんとしては、1ヶ月経ってから急に産経新聞が報じて、そして、名前が報じられるという流れがあったんですけど、このあたりはどんな気持ちでこの報道を眺めていましたか?
【島岡まな氏】いや〜、すごく複雑で一言で言えないんですけれども、まず会った時に何ていうか大変失礼だなぁって、すごいモヤモヤしていて、ずっとそう思ってたんですけれども、次の日に寺田座長に丁寧な謝罪を頂いて、それから私が「こんなことでリベラルな政党として大丈夫なんでしょうか」というような何度もやり取りがあったんですよね。そしたら、寺田議員自身は「私はこの問題は長年隠されてきたけども、やっぱり今回のことで膿を出して新しい政党として生まれ変わりたいんだ」みたいにおっしゃって、それで私も「頑張って下さい」みたいなやり取りがあったんです。そして、6月3日、中間報告書というのがメールで送られてきたんですね。そしたら、そこには結構、本多議員の発言とかも書かれていて、両論併記で書かれていて、でも、「そうは言っても、やっぱり中学生と成人の恋愛というのは性的搾取に当たり得るので認められないから党としては16歳以上に引き上げるべきだ」という結論まで書いて送っていらっしゃるんです。すごい嬉しくて、それは良かったと思って、「よく頑張りましたね。評価します」っていうお返事を書いたんですね。ところが、それが多分すごい抵抗にあったと推測できる。その後の、発表したら止められたと言ってもいいんじゃないかと私は勘繰っていまして、その翌日に産経の記事が出たのは、やっぱり党内の人がこれで押し返されてしまったら、また隠蔽されて無いことにされちゃうっていうことで、どなたかがマスコミにリークされたのかなぁと私は予想はしているんですけども、そこのところはちょっと分からないんですが。
【津田大介氏】今の島岡さんの発言で非常に重要なのは、勉強会の開催後、翌日に座長の寺田学議員から真摯な謝罪があったと。その後、島岡さんと議論をして、その中でかなり島岡さんの意見も反映された、立憲民主党として性交同意年齢の引き上げを求める中間報告を出そうとしたんだけれども、それを一度見送って、またそれから結局出された、という。
【島岡まな氏】(笑いながら)ふふっ。そうです。(嬉々として、右手の人差し指を指し示しながら)この問題が出たからですよね〜! まさに。
【津田大介氏】そういう意味では立憲民主党のこの一連の対応、リベラルな勢力としての党の対応、ちょっとブレてしまったところがあるなと思うんですけども、どうでしょう。立憲民主党の党としての対応についてはどう評価されますか?
【島岡まな氏】だから、非常に疑問だなと思ってまして、最初、産経の記事が出た後かな、福山幹事長が「名前はまだ公表してくて良い。本人が興奮状態で言ってしまって、そして撤回して謝罪してるんだから、もうそれでいいじゃないか」みたいな、文言は違うかもしれないんですけど、おっしゃったとお聞きしていて、「それはないんじゃないの?」と私は正直、思ってました。で、皆さんが、世論が盛り上がって、それでようやくこういう名前を出すということになったから、すごくそれは見っともない。(満面の笑みで首を傾げながら)見っともないと言ったら、ちょっと言い過ぎなんですけど、もっと最初から毅然とした態度で対処すれば良かったのにな〜と思っています。
【津田大介氏】僕も見っともないと思いますよ。こういうある種のスキャンダル。しかも自分たちの弱みみたいなものをイデオロギー的にも異なる産経新聞からこういう形で責められて、その責められたことに対して、十分な処分もできず、結局、厳重注意ですからね。除名だとか議員辞職だとか、そういう話にはならなかったわけですからね。
<11分38秒〜16分35秒のやり取り>
【津田大介氏】実はその勉強会で島岡さんが15分講演をされて、もともと講演と質疑が30分しかなくて、15分講演されて残りの15分が議員からの質疑だったと思うんですけど、その質疑のほとんどを本多議員が突っかかるように来て、しかもなんか、かなり高圧的な物言いみたいで、そのこと自体を問題視されてたんですけど。その件について、AERAの記事を読んでない方もいるので簡単に教えて頂けると。
【島岡まな氏】はい。そうですね〜。30分、まず短いなって依頼を受けた時、思ってましたし、そして、なんて言うんですか、AERAの記事にもあったと思うんですが、こちらはzoomで話してるんですけど、普通はzoomで一人一人の顔が映るようにできると思うんですね。今みたいに。それなのに(吹き出しながら)1台しかPCが無くて、部屋の隅から全体を映しているだけって、こちらからはほとんど見えなくて、顔が〜。なんか失礼だと思うんですよ、そういうやり方自体が、まず。「えぇ〜?」って思ってたんですけど、どんどん最初、「よく見えないんですけど」って言っても誰も直そうともしてくれなくて、そしたらせめて発言の人がPCの前に来るぐらいの(吹き出しながら)ことがあっても・・。(大きく首を横に振りながら)それも無いんですよね。で、その場で発言されていて、「えぇ〜? こんなの〜?」って思いながら話していて、それでようやく終わったら、なんていうんですか、まず最初に私が言ってしまったんですね。「立憲民主党の中に性行為年齢の引き上げに強硬に反対している議員がいらっしゃると昔から聞いております」と。そう聞いていたものですから、そういうふうに言ったら、もう終わった途端にすぐ本多・・、本多さんが「はい。私です」って、おっしゃったんです。「それは私もその1人で本多です」って名乗られて、でも顔は見えてなくて、「その何が悪いんですか?」みたいな感じで、いろんなことをおっしゃったんですね。例えば、「青少年保護育成条例等が自治体にあって、高校生とかが真摯な恋愛をして、いきなり警察が逮捕するようなことが日本では行われているの知ってますか?」とか言って、で〜、「そんなことでいいんですか?」みたいな。(笑い声をあげながら)私に突っ込んできたんですけど、私は、それで「それって、私に言うより、議員さんたちの問題じゃないですか?」って言って、「それが悪いと思うんだったら、まずそういう条例とかをやめて、刑法で統一的に保護していきましょうとか、そういうことをやるのが政治家じゃないですか」って、ちょっと反論したんですよね。そしたら、それがすごいカチンときたというか、気に入らなかったんだと私は思うんですよ。もう、どんどんどんどんイライラされてきて、つまり女性なんかに反論されて嫌だっていうふうに思ってたか知らないけど、私にはそう感じ取られたんですよね〜。どんどん大きな声になっていって、なんと言ったかというと、私が「絶対に引き上げなきゃいけません」って言ったのを、「絶対なんていう学者はね、初めて聞いたよ」っていうふうに言って、「普通、学者っていうのは、慎重で絶対なんて言わないでしょう」と。明らかに馬鹿にした言い方ですよね。そうやって揶揄して、高圧的に抑え込もうと。でも、私はそういう目に散々あってきましたから、「もう、またか」という感じだったんです。これでやっぱりジェンダー差別の向上もこの議論の中にあったなぁ〜と感じています。
【津田大介氏】でも、あれですね〜、50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、同意があっても捕まることになるのはおかしいという・・、まあ、もともと、50歳近くと言っても この人、56歳ですからね。
【島岡まな氏】そうそう!(大笑いしながら)私もそう思いました〜!
【津田大介氏】(笑いながら強調して)アラ還だろう!ってね。
【島岡まな氏】そう! 60歳近いですね〜。
【津田大介氏】そこから突っ込みたいんですけど、その彼が「14歳と真剣に恋愛した結果、性交したら捕まることになる」っていう、そっちの発言ばかり問題視されてますけど、今の島岡さんのお話を聞いたら、やっぱり絶対に引き上げなくてはいけないというのは様々な国際的な潮流とかエビデンスとか権力勾配とか色んなものを分析した中での結論として絶対に上げた方が良いっていう結論になって、それを馬鹿にするような言い方っていうこと自体の方が僕は問題が大きいな〜と感じます。
【島岡まな氏】ありがとうございます。
【津田大介氏】本当に、これも含めてちゃんと立憲にはもっと襟を正して頂きたいなと思うんですが。
やり取りの抜粋は以上になります。
この映像から島岡まな氏について、主に以下3点が読み取れると私は感じました。
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寺田座長と頻繁に連絡を取り合い、共通の目標(性交同意年齢の一律的引き上げ)に向けて動いていた。
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【発言】と本多氏の名前が大々的に報じられて、世論の注目を集めたことをポジティブに捉えている。この報道と世論によって、立憲民主党はWT報告書に性行為同意年齢の一律引き上げを再び記載したとまで認識している。
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本多氏に対して非常にネガティブな印象を持っており、具体的なエピソードを挙げながら何度も「失礼」だと述べている。(zoomで自らの顔は映らない状態で平気で話し続けた、「普通の学者は絶対なんて言わない」と馬鹿にした、等)
2人が口論に近い状態になったことは調査報告書でも認定されており、その相手にネガティブな印象を抱くこと自体は自然なことだと思います。こうした感情的な部分については人によって受け取り方が変わると思うので、ぜひ映像の該当箇所を見た上でご自身で判断して頂くのが良いと思います。島岡まな氏はかなり情緒豊かに反応しているので、色々なものが見えてくると思います。
あとがき
今回の検証の結果、問題の【発言】が本当にあったのかについて私は大きな疑問を抱いています。
島岡まな氏の証言を考慮すれば【発言】があった可能性も残ってはいますが、6点の疑義を踏まえると【発言】があったと断言するのは かなり無理がある、というのが私の結論です。
しかしながら、この件をめぐっては本多氏が問題の【発言】をしたという前提で情報発信している著名な方が大勢います。一般に公開されていた情報が限られていた7月上旬までは仕方がないとしても、本多氏が記者会見で明確に反論をした7月27日 以降も不正確な情報発信を続けている方、特に本多氏が「14歳と性交」という文脈と結びつけて問題の【発言】をしたと今も断言している方は、率直に言って 大変失礼ながら、いったん冷静になって頂きたいと思います。もし心当たりのある方がこのニュースレターを読んで考えを改めるに至った場合は、ぜひ誤った情報発信の訂正と本多氏への謝罪をご検討頂けると幸いです。
また、「たとえ「14歳と性交」という文脈でなかったとしても、年の離れた恋愛を限界事例として挙げること自体が不適切だ」という意見もあるでしょう。そうした意見はごもっともだと思いますが、その場合は、果たして議員辞職に値するほどの発言なのかという問題になるでしょう。私の個人的な意見としては、さすがにそれで議員辞職は厳しすぎると思います。
今回のニュースレターは以上になります。
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最後までお読み頂き、ありがとうございました。今回のニュースレターは以上になります。
2021年12月13日 犬飼淳
P.S.
私が今回のテーマに関心を頂いたきっかけは、横浜市長選挙を通して立憲民主党のガバナンスに疑問を抱いたからです。本多氏の処分をめぐる経緯とも共通点があると感じており、この件をご存知ない方はぜひ以下のニュースレターもあわせてご覧ください。
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