「私たち消費者は消費税を支払っていない」 判決と法律に基づいて益税の誤解を解く

「消費者が納めた消費税を免税事業者が横取りして納税しないのはズルい」「消費税は預り金である」という益税をめぐる主張。これらが完全な誤りであることを1990年の判決および国の主張にもとづいて明らかにします。
犬飼淳 2022.10.21
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突然ですが、こちらのレシートをご覧ください。

これは私がカフェで350円のコーヒーを購入した際のレシートです。その350円の内訳には、消費税10%に相当する31円が含まれていると書かれています。

このレシートを受け取ったら誰もが「自分は350円のコーヒーを買った際に消費税31円も支払った」と考えるでしょう。

しかし、これは大変な誤解です。

さらに正確に言えば、消費者がそのように誤解するように仕向けられた壮大な嘘です。

そして、皮肉なことにそれが嘘であることは国が30年以上前の裁判で自ら認めています

しかし、これらの誤解や嘘に基づいた「消費者が納めた消費税を免税事業者が横取りして納税しないのはズルい」という考え方を、インボイス導入の意義として多くの人が信じてしまっています。そこで今回のニュースレターでは、これらの益税をめぐる主張が完全な誤りであることを裁判の判例や法律の条文に則って解き明かしていきます。

*仕入税額控除などの基本的知識が無い場合は、インボイスの知識ゼロの方を対象に開催された勉強会リポートをあわせて参照ください

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消費税の誤解

店(課税事業者)を中心に消費者への商品販売、国への消費税の納税を図解すると、以下のスライドのようになります。左側は多くの国民が誤解している「誤った認識」、右側は裁判所の判決(1990年3月26日 東京地裁)に基づいた「正しい認識」です。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

右側のように消費者が支払っているのは取引価格に過ぎず、店は粗利(=売上金額 - 仕入金額)に対する消費税(=10/110)を算出して納税しているのが正しい理解と言えます。

この解釈の1つ目の根拠として、消費税法で納税義務者は「消費者」ではなく「事業者」であると明確に規定されています。

第4条(課税の対象) 国内において事業者が行った資産の譲渡等および特定仕入には、この法律により消費税を課する
第5条(納税義務者) 事業者は、国内において行った課税資産等の譲渡等および特定課税仕入につき、この法律により消費税を納める義務がある
消費税法

2つ目の根拠が、消費税法の立法行為と国家賠償責任等の訴訟(1990年3月26日 東京地裁)の判決結果です。この判決は今回のニュースレターで最も大きな意味を持つため、詳しく説明します。

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判決結果

竹下登 総理(当時)の自民党政権が消費税を導入した1989年、原告(サラリーマン新党 青木茂氏ら)は「事業者は消費者からの預り金である消費税の納税を仕入税額控除によって免れており、ピンハネしている」と主張して、被告(国・竹下総理)に対して国家賠償責任を問う訴訟を起こしました。この原告の主張は2022年現在に「益税がある」と主張する人々の考え方とよく似ています。そして、国(財務省・国税庁・税務署)や政府(自民党)が揃って「益税がある」と主張する現在では信じがたいことですが、当時の被告(国および自民党 竹下総理)は原告の主張を真っ向から否定。裁判所も翌1990年3月26日の東京地裁判決で原告の主張を明確に否定し、原告の請求は棄却されました。

判決で否定された原告の主張、判決で肯定された被告(国・竹下総理)の主張を図解すると、以下のスライドのようになります。先ほど紹介した1枚目のスライドとの主な差異は、仕入税額控除が焦点になるため「仕入先」を追加した点と、金額の具体例を記入した点です。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

左側に示したように原告は仕入税額控除を経て納めた消費税200円について、消費者が支払った消費税300円の一部にあたる100円(=仕入先に支払った消費税)をピンハネしていると主張したわけですが、裁判所も被告(国・竹下総理)も、「そもそも消費者は消費税を納めていないので、ピンハネではない(=益税はない)と判断したのです。

判決の主な文言を具体的に紹介すると、「消費者は消費税を納めていない」ことを裁判所が明確に述べています。

消費者が消費税の納税義務者とはいえない
1990年3月26日 東京地裁 判決「判決理由の要旨1」
消費者が事業者に支払う消費税分は、商品や役務の一部としての性格しか有しない
1990年3月26日 東京地裁 判決「判決理由の要旨2」

さらに、被告(国・自民党 竹下総理)は、原告が主張するピンハネを否定するにあたって、このように述べています。2022年現在において「消費者が納めた消費税を免税事業者が横取りして納税しないのはズルい」と主張する益税論者の主張を、国および自民党が30年以上前に完全否定したことに驚かされます。

事業者が取引の相手方から収受する消費税相当額は、あくまでも当該取引において提供する物品が役務の対価の一部である。この理は、免税事業者や簡易課税制度の適用を受ける事業者についても同様であり、結果的にこれらの事業者が取引の相手方から収受した消費税相当額の一部が手元に残ることとなっても、それは取引の対価の一部であるとの性格が変わるわけではなく、したがって、税の徴収の一過程において税額の一部を横取りすることにはならない
1990年3月26日 東京地裁 判決「被告らの主張」

免税事業者」が「消費税相当額の一部が手元に残ることになったとしても」「税額の一部を横取りすることにはならい」と被告(国・竹下総理)は明確に主張しています。そして、この主張を裁判所も概ね認めたわけです。

このように今となっては信じがたい衝撃的な内容や、消費税の問題を考える上での貴重な示唆がこの判決には他にも多数あります。量が膨大なため今回はごく一部の紹介にとどめましたが、全体像を確認したい場合は本ニュースレター末尾の掲載した全文(判例時報1344号)を参照ください。

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疑問・反論への回答

とはいえ、いきなり「消費者は消費税を支払っていない」と言われても信じられない方が多いと思いますので、予想される疑問や反論に対する回答も用意しました。

Q.では、なぜレシートには金額の内訳に消費税が記載されているの?

総務省が表示を義務付けているから。ただ、それだけです。そして、これによって買い物の度に消費者は消費税が記載されたレシートを受け取ることになり、「自分は消費税を支払っている」と錯覚する最大の原因にもなっています。

また、「消費者は消費税を支払っている」という誤解が広まった現状においては、事業者としても消費税を記載した方が価格の妥当性を消費者に納得してもらいやすいと考えられます。例えば、あなたが昼休みに訪れた定食屋の会計が1080円だったら「ランチで千円超えるのは高いな。次は別の店にしよう」と考えるかもしれませんが、受け取ったレシートに「A定食 982円 + 消費税98円」と書かれていれば、「料理自体は1000円以下だったならば妥当かな」と捉えてリピーターになるかもしれません。

しかし、この考え方は誤解にもとづく錯覚です。実際は定食屋と来店客の取引において消費税という概念は存在すらしていません。先ほどの判決で説明した通り、A定食は1080円という事実があるだけです。

Q.「消費税は預り金」という税務署のポスターを見た覚えがあるけど、あれは嘘だったの?

はい。です。正確に説明すると、そのような誤解を招くように仕向けたポスターを国税庁(税務署)は1990年代以降につくり続けました。

具体例を紹介すると、

「ちゃんと消費税も払っているのに、それを預かる人のなかにきちんと税務署に納めない人がいるなんて、ぜったい許せないじゃん」 滞納しない、正しい納税
税務署ポスター(室井滋のセリフとして)

「消費税は預り金ではない」という判決がある上、国自らが「免税事業者が消費税相当額の一部が手元に残ることになったとしても税額の一部を横取りすることにはならい」と裁判で主張していたにもかかわらず、事業者を「預かる人」と表現して、事業者による消費税の横取りを印象付ける文言が並んでいます。

「オレが払った消費税、これっていわば預り金なんだぜ」 マナーだよ全員納税
税務署ポスター(いかりや長介のセリフとして)

「預かり金ではない」という判決を意識したのか、今度は「いわば預り金」という苦しい表現。しかし、本当に預り金ならば「いわば預り金」などという言葉にするはずがないので、「預り金」とハッキリ言い切れないことを税務署が改めて認めたとも言えます。

「とめないで! 私の払った消費税」
税務署ポスター(宮地真緒のセリフとして)

「預かり金」で攻めるのは厳しいと判断したのか、今度は事業者が消費税を「止めている(=横取りしている)」という誤解を与えるポスターも出てきました。

このポスターで国税庁(税務署)の姿勢に共通しているのは、裁判の判例もあるため「預り金」や「横取り」とはハッキリ書けないものの、それを連想させる言葉によって国民の誤解を狙っていたということです。

*ポスターの実物は全国商工新聞記事(2006年9月4日)参照

Q.でも、「消費税」という名前なのだから、やはり消費者が支払う税金なのでは?

まさにそのような誤解を狙って、「消費税」は実態とはかけ離れた名前が付けられたと言えます。そもそも事業者の売上に対する税金を「消費税」と呼んでいるのは日本だけで、世界的には「付加価値税」と呼ばれています。事業者の粗利(=売上金額 - 仕入金額)に一定の税率をかけて納税するという性質を踏まえれば、「付加価値税」もしくは「粗利税」や「売上税」という呼び方が実態に合っていると言えます。

実際、1987年に中曽根政権(自民党 中曽根康弘総理)は現在の消費税にあたる税金を「売上税」という名前で国会に法案を提出しています。この際は「売上税」という名前が抵抗感を生んだことに加えて、税率が5%と高かったこともあり、国民の猛反発で廃案に追い込まれています。

*当時の売上税は「取引の各段階に課税」ではなく「小売段階のみに課税」という考え方のため、小売業に不公平感が生じたという背景もあり

*売上税の詳細はBusinessJournal記事 参照

その後、竹下政権が1989年に「消費税」という名前で導入。この「消費税」という名前は、全ての消費者から広く薄く徴収するという一見もっともらしい大義名分が成り立つため国民の反発も和らぎ、同時に「消費者は消費税を納めている」という誤解のもとになりました。

Q.では、益税は全くないの?

一般に問題にされている免税事業者(売上高1000万円以下)の益税は、これまでに紹介した裁判の判例や法律の条文に基づけば、「無い」と断言できます。

ただし、トヨタを始めとする輸出企業は「輸出免税(輸出戻し税)」という仕組みによって、自らは消費税を支払わないどころか消費税によって利益を増やしています

どういうことかというと、一般的な仕入税額控除では以下スライドのように売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引いた額を納税しています。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

しかし、トヨタ等の輸出企業は様相が全く異なります。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

輸出先である海外企業Cに対する売上は国外販売のため免税となり、売上に係る消費税は0円。一方、下請企業Aに対する仕入に係る消費税は1000円。この結果、仕入税額控除による消費税額はマイナスという事態になります。こうしたケースの場合、輸出免税(輸出戻し税)の考え方では、下請企業Aに支払った消費税1000円は税務署を通じて「輸出戻し税」として輸出企業Bへ還付されます。つまり、輸出企業は消費税を一切支払わない一方、消費税還付で収入まで得ることができます。この仕組みでは、消費税が上がるほど輸出企業の還付金は増え、利益を容易に増やすことができます。

*輸出戻し税の問題の詳細は赤旗記事参照

現に、このカラクリに支えられてトヨタを始めとする輸出大企業は消費税が10%に上がったここ数年は年間数百億円〜数千億円の莫大な還付金を得るようになりました。

<輸出大企業 上位10社が輸出免税で得た消費税還付金(2020年度)>

トヨタ自動車4578億円 
本田技研工業1681億円 
日産自動車1628億円 
マツダ957億円 
村田製作所758億円 
豊田通商636億円 
SUBARU607億円 
三菱自動車600億円 
キヤノン525億円 
パナソニック472億円 

その影響で輸出大企業所在地の税務署は軒並み赤字に陥り、トヨタを管轄する愛知県の豊田税務署は2019年度に4000億円以上の赤字を計上しています。

<消費税 税収ワースト5の税務署の赤字額(2019年度)>

豊田税務署(愛知県) 赤字4073億円 →トヨタ本社があるため
海田税務署(広島県)赤字856億円 → マツダ本社があるため
神奈川税務署(神奈川県) 赤字697億円 → 日産本社があるため
右京税務署(京都府) 赤字548億円 → 村田製作所本社があるため
今治税務署(愛媛) 赤字251億円 →今治造船など造船業があるため


本来、「還付」は自らが納めすぎた税金を返してもらう制度のはずですが、この輸出免税では下請企業が税務署に納めた消費税を輸出企業が「横取り」しており、明らかに「還付」の本質から外れています。これこそ「益税」として糾弾されるべきでしょう。

しかし、政府はこうした大企業の益税は取り上げない一方、年間売上1000万円以下の弱者である免税事業者に対しては「益税がある」という誤解を招いてまで搾取しようとしているわけです。インボイスによって現行の免税事業者を課税事業者に切り替えさせることで増える税収は年間2480億円程度(2019年2月26日 財務金融委員会 答弁より)とされており、輸出大企業の上位10社が輸出免税の還付で得た1兆2442億円(2020年 実績値)の方が1兆円も多いにもかかわらずです。つまり、税収の観点からも「益税」を問題にすべきは輸出大企業の輸出免税です。

©️2022 Jun Inukai
©️2022 Jun Inukai

強い者には弱く、弱い者には強いという現政権の姿勢が消費税やインボイスをめぐる政策には如実に現れていると言えます。

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本編は以上になります。ここまでお読み頂けば、「消費者が納めた消費税を免税事業者が横取りして納税しないのはズルい」「消費税は預り金である」という益税をめぐる主張が完全な誤解であるとお分かり頂けたのではないでしょうか。

改めて繰り返しますと、

  • 消費税は預り金ではありません

  • 消費税を納めているのは消費者ではなく、事業者です

  • ゆえに、免税事業者は消費税を「横取り」していません

そして、これらは1990年の裁判において裁判所も国も認めた事実です。

益税を問題にすべきは年間売上1000万円以下という完全な弱者である免税事業者ではなく、強者である輸出大企業です。

2022年10月21日 犬飼淳

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参考:判例 全文

さらに深く理解したい読者のため、文中で一部を抜粋して紹介した1990年3月26日東京地裁判決(平成元年(ワ)第5194号損害賠償請求事件)の全文を判例時報1344号から引用して掲載します。非常に長いですが、消費税の問題を考える上での重要な示唆が多数含まれています。

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