前提知識ゼロでも理解できる! インボイスの仕組みと問題点

2022年9月21日、アニメ業界向けに開催されたインボイス勉強会。インボイスの前提知識ゼロの参加者でも理解できるように進められた講義、質疑応答の内容をリポートします。
犬飼淳 2022.09.28
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こんにちは。犬飼淳です。

2022年9月21日、都内某所でアニメスタジオ 約10社の代表者や経理担当者を対象にインボイス勉強会が開催され、約15名が参加しました。今回はアニメ業界を意識した内容でしたが、テレビ局→アニメスタジオ→アニメーターという取引の発注関係を置き換えれば、そのまま他業界でも通用する内容ばかりで非常に有益な内容でした。基本知識や問題意識を広く共有するため、勉強会に同席した筆者が主催者の了承を得た上で内容を公開します。

*内容は講師(佐々木税理士)がチェック済みのため、正確性を担保した上で公開しています。

本ニュースレターの主な対象者

  • インボイスの基本知識がほとんど無いので、仕組みや問題点を一から知りたい

  • インボイスの仕組みは大まかに理解しているが、自らの業界がどのような影響を受けるのか具体的にイメージしたい方(アニメ業界以外でも可)

  • 問題点は理解できているので、今からできる対策を知りたい

勉強会 概要

<内容>

講義 約50分(インボイス制度がアニメ業界に及ぼす影響、実際にアニメスタジオはインボイス制度でどんな影響を受けるのか)

質疑応答 約50分(経過措置・簡易課税などの制度をフル活用して損失を最小限に抑える方法、状況をギリギリまで見極めた上で登録できるタイムリミット、想定されるトラブルへの対応方法、等)

<講師>

税理士 佐々木淳一(税理士法人 東京南部会計)

アニメ業界を例示して説明する講師の佐々木淳一税理士(撮影 犬飼淳)
アニメ業界を例示して説明する講師の佐々木淳一税理士(撮影 犬飼淳)


<受講対象者>

アニメスタジオ 代表者・経理担当者

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前半(講義)

以下、約50分間かけて行われた前半の講義内容を共有します。当日に使用したスライドを示しつつ、スライドには書かれていない講師の口頭説明の重要部分を文字起こししています。

*筆者からの補足説明は適宜 注釈(*)で記載

当日資料 P2
当日資料 P2

・年間売上高1000万円以下であれば免税事業者(=消費税は納めなくても良い)。中小・零細事業者の多くが該当する

・アニメ業界ではフリーのアニメーターの大半が該当するはず。また、備品を購入している小売店なども小規模であれば免税事業者の可能性はあり、インボイス制度の影響を受ける

・インボイス導入後は、年間売上高1000万円以下であっても消費税を納めなくてはならない。一概には計算できないが、目安としては年間売上の約5%の消費税の納税が新たに発生する。(例:年間売上300万円であれば15万円程度、年間売上900万円であれば45万円程度)

当日資料 P3
当日資料 P3

・本日参加しているアニメスタジオは年間売上高1000万円以上の課税事業者と認識しているが、そうした課税事業者にも大きな悪影響を及ぼす事務負担は確実に増大することに加え、税負担が増える可能性がある。

・経理担当者はインボイスかどうかの確認、インボイスであれば登録番号の有効性確認などの業務が証憑1枚ごとに発生

当日資料 P4
当日資料 P4

当日資料 P5
当日資料 P5

・インボイスには登録番号(T+13桁)の記載が必要。経理担当者はこの登録番号の有無、有効性を国税庁ウェブサイトの公開情報をもとに1枚ずつ確認する手間が生じる

*新旧請求書の様式の比較(インボイス導入後の様式でもメリットは特に無いことの説明)は、筆者が集英社オンラインに寄稿した記事「インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超への布石か?」 参照

・関連して、国税庁ウェブサイトにおける公開情報は全件ダウンロード可、商用利用可になっており、個人情報保護の観点で大きな問題を抱えている。

*問題の詳細は9月10時点の制度設計を前提に筆者が集英社オンラインに寄稿した記事「氏名も住所も全世界に公開! インボイス制度導入で「あの漫画家の本名がバレる」は、やはり本当だった」 参照。ただし、9月26日に制度設計が変更され、問題は部分的に改善する可能性あり。

当日資料 P6
当日資料 P6

・例として、テレビ局(課税事業者)→アニメスタジオ(課税事業者)→フリーのアニメーター(免税事業者)という取引関係を挙げる

・アニメスタジオが納税時に年間の消費税額を計算する際、テレビ局から受け取った代金3億3千万円の10%にあたる3千万円をそのまま納めるわけではなく、仕入税額控除(=仕入時に既に支払った消費税を差し引く)できる。具体的には、アニメーターに支払った代金1億1千万円の10%にあたる1000万円を差し引ける。

・これまではアニメスタジオは発注先(フリーのアニメーター)が免税事業者であっても仕入税額控除できたが、来年10月以降は発注先が免税事業者のまま(=インボイスを発行できない)の場合は仕入税額控除できなくなってしまう(=納税時に消費税の差分を引けなくなるので、税負担が増える)。この点がインボイスの問題を理解する入口として、最も重要。

・インボイスが導入されれば、アニメスタジオは発注先(フリーのアニメーター)に対してインボイスを発行するよう依頼したり、インボイスを発行できなければ消費税分を値引き交渉する(例:本来の代金は1億1千万円だが、10%相当の1千万円を値引きして、代金を1億円に減額)こともありえる。

・インボイスの本質を一言で言えば、立場の弱い人に税負担させる制度。発注先(フリーのアニメーター)側が超有名で発注元(アニメスタジオ)よりも力関係が強い場合(=値引きしたら仕事を請けてもらえない場合)、発注元(アニメスタジオ)側が消費税分を負担することもあり得る

インボイスによって得をする人は誰もおらず、損しか発生しない制度と言える。

*インボイスによって増える税収は2480億円程度(2019年2月26日 財務金融委員会 答弁より)と政府は見解を示しており、国全体の税収に占める割合は非常に少ない

当日資料 P8
当日資料 P8

・今日の参加者であるアニメスタジオはすでに課税事業者(=年収1千万円超)と思われるので、アニメスタジオは課税事業者という前提で発注元のテレビ局との関係に着目する

・アニメスタジオから見た発注元のテレビ局も納税時の仕入税額控除のため、発注先(アニメスタジオ)に対してインボイスの発行を求める。もしインボイスを渡さなかった場合、テレビ局側は仕入税額控除できなくなるので、アニメスタジオ側に消費税相当分の3千円を値引き交渉する可能性が高い。今回の例では代金が3万3千円と小さいので大したことない金額のように見えるが、テレビ局に対する年間売上が3億3000万円の場合、3000万円という巨額の値引きを求められる恐れもある。

当日資料 P9
当日資料 P9

・前頁(P8)と同じ取引関係で、次はアニメスタジオとフリーのアニメーターの関係に着目する

・先ほどのテレビ局と同様、アニメスタジオも代金を支払う相手であるフリーのアニメーターにインボイス発行を依頼することになる。

・しかし、インボイスは課税事業者しか発行できないので、フリーのアニメーターが年収1000万円以下であったとしても課税事業者登録を依頼することになる。

・従って、フリーのアニメーターは収入減少になる。P2でも紹介した通り、年収のおおむね5%程度の税負担が増える。そうなれば、アニメーターを目指す人自体が減ってしまう恐れがある。本来は消費税の申告が不要である年間売上200万円程度の人であっても10万円(5%相当)の税負担が増える。もともと貯蓄すら難しいほど低収入なのに、さらに生活が厳しくなる。この点が、税理士がインボイスに反対する最も大きな理由。

・スライドではアニメーターを例に挙げたが、ここには課税事業者(アニメスタジオ)が経費精算を必要とする取引先全てに当てはまる。タクシー、飲食店、備品を購入する小売店など。

・年間売上1000万円以下の事業者(=免税事業者)は意外に多い。例えば、有名な小料理屋でも1人で切り盛りしている場合、該当する可能性は十分にある。そうした飲食店を会社として利用する場合、飲食店に入ったらまず「インボイス発行してますか?」と確認をとるという滑稽な状況が現実に起きる可能性がある

・今後、会社として経費精算する場合、インボイスでないと仕入税額控除できないので、経理担当者は必然的にインボイスを求めることになる。この先の対応は会社によるが、「インボイス発行できないタクシーや飲食店は経費精算不可」とする可能性もある

・このようにインボイスはフリーランスだけでなく、サラリーマンにも確実に悪影響を及ぼす。インボイスの本質は「立場の弱い人に損を押し付け合う制度」なので、物価も確実に上がる。ただでさえ円安や世界情勢の影響で物価が高騰しているのに、インボイスによって更に数%は引き上がる。そうなれば、フリーランスやサラリーマンどころか、国民全員の生活に打撃を与える

当日資料 P10
当日資料 P10

・この例は中央のアニメスタジオは免税事業者(年間売上1000万円以下)の場合を想定して記載したが、年間売上1000万円以下のアニメスタジオは一般的ではないので、右側はアニメスタジオ、中央はフリーのアニメーター、左側はアニメーターが代金を支払う相手(備品の購入先など)に置き換えて説明する

・アニメーター(中央)の立場で考えると、アニメスタジオ(右側)から課税事業者になるように依頼されれば、年間売上1000万円以下であったとしても課税事業者に登録せざるを得ない

・課税事業者に登録したアニメーター(中央)は自ら備品(文房具、電化製品など)を店(左側)から購入する際、仕入税額控除するためにはインボイスを発行できる店なのかを都度確認しなければならない

当日資料 P11
当日資料 P11

・アニメーター(中央)は免税事業者のままでいることは可能だが、現実的には免税事業者のままでは市場から排除されるため、課税事業者に登録せざるを得ない

・例えばアニメーターとしてのスキルは同じで、インボイスを発行できる人とできない人がいれば、アニメスタジオは前者を選ばざるを得ない。取引先とどんなに付き合いが長くて親交が深かったとしても、免税事業者のままでは排除されやすい状況に陥る

*この懸念について、制度活用(経過措置、簡易課税)によるリスク軽減は可能。詳細は後半の質疑応答を参照

・やや脱線するが、仕入税額控除では仕入に係る消費税が売上に係る消費税を上回った場合(輸出が多い、コロナ禍による極端な売上減など)に還付を受けられる。

*詳細は「消費税還付」というキーワードで各自ご確認ください 

・特に輸出企業であるトヨタが消費税をほとんど払っておらず、豊田税務署が赤字になったことは話題になった

*トヨタは輸出売上には0%の税率が適用される一方、仕入時の消費税は控除できるため、必然的に年間数千億円規模の還付金が発生する。詳細は全国商工新聞記事 参照

***

後半(質疑応答)

以下、約50分間かけて行われた後半の質疑応答の内容(経過措置・簡易課税などの制度をフル活用して 取引先と自らの損失を最小限に抑える方法、状況をギリギリまで見極めた上で登録できるタイムリミット、想定されるトラブル、等)を共有します。前半の講義と同様、全ての記載内容は アニメ業界以外でもそのまま通用します。

読者の理解を助けるため、筆者が文字起こしした質疑要旨に加えて、講師(佐々木税理士)が回答時に使用した追加の説明資料、インボイス問題を継続して追ってきた筆者の知見も適宜記載します。

*専門的な内容のため、続きは有料購読者のみに公開します。通常と異なり、一定期間経過後も無料購読者には公開しません。インボイス問題を今回初めて知った読者の場合、まずは前半の講義内容を確実に理解することをオススメします。その上で、具体的な対策を検討したい場合は続きにお進みください。

*有料登録(月額600円)すると、過去の配信分も含めて有料コンテンツが全て閲覧できます。無料読者と有料読者の提供価値の詳細についてはリンクを参照ください。

*直近 半年でインボイスに関するニュースレターは4本配信しており、今後も継続して取り組む予定です。その他の重点テーマ、特に反響が大きかった過去のコンテンツはリンクを参照ください

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