【横浜市長選挙2021】山中竹春候補パワハラをフェイクニュースと断定した記事の論理展開を図解する

横浜市長選挙に向けたニュースレターの6回目。山中竹春候補のパワハラをフェイクニュースと断定した「ニュースサイトしらべぇ」記事内容の信憑性を4段階で区別した上で論理展開を図解し、断定できるだけの根拠が本当にあったのかを検証します。
犬飼淳
2021.08.14
誰でも

こんにちは。犬飼淳です。

8月8日に告示日を迎え、8人の候補者になる選挙戦が本格化してきた横浜市長選挙(8月22日投開票)について6回目のニュースレターをお送りします。

イソジン会見の弁明に着目した前回に続いて、今回も立憲民主党や共産党が支援する山中竹春候補の疑惑を取り上げます。

横浜市立大学時代に山中氏がパワハラを行い、ここ数年で15人以上が辞めたことを8月2日にSmartFLASHが報じました。「干す」という強い言葉を使った山中氏の送信メールも紹介され、横浜市民に大きな衝撃を与えました。

これに対して山中氏は「事実無根の報道について」と題した声明をオフィシャルウェブサイトに掲載し、パワハラ疑惑を否定しました。また、8月5日に「ニュースサイトしらべぇ」に掲載された「菅首相が負けられないため過熱する横浜市長選 山中竹春元教授がフェイクニュース被害」というタイトルのパワハラ報道はフェイクニュースだと断定する記事(以降、「しらべぇ記事」と記載)を声明の中で紹介しています。

このしらべぇ記事は、立憲民主党の複数の有名国会議員もツイートで紹介し、山中氏のパワハラ報道はフェイクニュースだという主張を広めることに繋がりました。

しかし、本当にパワハラがフェイクニュースであると断定できるだけの根拠がしらべぇ記事に書かれていたのでしょうか?

そこで今回のニュースレターでは、パワハラ報道をフェイクニュースだと断定したしらべぇ記事の掲載内容について、信憑性に応じて4段階で整理した上で論理展開を図解し、十分な根拠があるのかを検証します。

***

パワハラ報道をフェイクニュースと断定した、しらべぇ記事の内容

問題のしらべぇ記事の中で、パワハラについて触れた部分を以下に引用します。

*あとでこの内容は図解するので、引用部分は読み飛ばして頂いても大丈夫です。

■山中元教授を攻撃するフェイクニュースが拡散
選挙戦が過熱するあまり、卑劣なネガティブキャンペーンやフェイクニュース・ガセネタが飛び交っている。一番被害にあっているのが野党統一候補の山中竹春元教授だ。写真週刊誌「FLASH」(光文社)は今週号で「横浜市長選『野党統一候補』がパワハラメール…学内から告発『この数年で15人以上辞めている』」という記事を配信・掲載。山中氏がパワーハラスメント・アカデミックハラスメントを常習的に行っていて、それが原因で15人以上の職員・秘書・同僚が辞めたという衝撃的な内容だ。個人情報保護法が施行され、名誉毀損の賠償額がつり上がったために、週刊誌が飛ばし記事を載せることは少なくなった。訴訟リスクを回避するためである。FLASH記事を一読後、山中元教授が属したのは小さな研究室だから15名以上も辞めたというのには疑問を持った。15人以上辞めたというのは元同僚のA氏の発言によるものだけだし、記事の告発者は3人しか出て来ないし、自民党サイドの一部が地元で流している情報と同じだし…と疑問も。

■藤木氏らへも質問
だが、上記の理由で週刊誌が真っ赤なウソを書くことはないと思い、特派員協会で藤木会長に記事の感想をぶつけた。2日に開かれた日本共産党の小池晃書記局長の会見では記事をもとに、田中角栄首相の頃から政界を取材する大御所・堀田喬カメラマンも質問した。小池氏は「事実関係を山中陣営や立憲民主党に聞いている」と述べるにとどめた。しかし、筆者が事実関係を調べたところ、完全なフェイクニュースだと確信するに至った。

■大学ハラスメント委員会に告発事案は0件
まず、文部科学省の指示に従って、各大学はハラスメントに関するガイドラインを作成・実施し、ハラスメント委員会を設けている。山中元教授が務めた横浜市立大学も例外ではない。むしろ、公立大学だから、私立に比べてハラスメント対策はより厳しい。筆者の取材に大学側も「ハラスメント対策は厳正に行っている」と答えた。ところが、大学側・大学関係者にあたったところ、驚いたのだが、「ハラスメント委員会に山中元教授を告発したケースは1件もない」というのである。パワハラ常習者ならばハラスメント委員会に告発されるし、深刻なケースであれば山中氏に処分が下っている。

■告発者はハラスメント加害者との情報
告発され、ハラスメント委員会が「問題なし」と判断したのであれば、大学が握りつぶしたという言い分が成り立たないこともない。だが、告発自体がゼロなのである。これはハラスメントはなかったと言ってもいいのではないか?「ないこと」を証明することは悪魔の証明と言い、不可能であるが、大学ハラスメント委員会への告発は確認できないのである。さらに筆者の取材に応えた大学関係者は、「記事で山中氏を告発した同僚こそが問題児でハラスメント(加害者)で辞めた」という驚愕の事実を語った。これは推測だが、元同僚は私怨から山中氏の悪口を週刊誌や敵対者にリークし、記事にさせたのではないか? そう勘ぐられても不思議はあるまい。

■告発記事で賠償金550万円の事例も
同様に大学内の対立・私怨を週刊誌に売って記事にさせるも、報じたメディアが巨額の賠償金を命じられたケースもある。それは同志社大学のことだ。一審、二審で事実関係が確定されているため、実名で記す。同大学の渡辺武達教授(当時)が対立していた同僚で、「実名報道」批判で有名な元共同通信記者の浅野健一教授(当時)が学生にセクハラを行っているというガセネタを週刊文春にリーク。週刊文春は2005年11月24日号で報じた。浅野氏は、弁護人としてロス疑惑の三浦和義氏を無罪にしたり、最近ではカルロス=ゴーン元日産社長の弁護をした”やり手の”弘中淳一郎弁護士を立て、名誉毀損で文藝春秋社を提訴した。2008年2月27日、京都地方裁判所は「記事の一部は真実ではなく、原告の社会的評価を低下させた」として、文春に275万円の支払いを命じた。2009年5月15日、大阪高等裁判所は「真実と認めるに足りる証拠はない」とし、記事中のほぼすべての記述について真実性を否定。一審・京都地裁判決での賠償額275万円から倍の550万の支払いを同社に命じる判決を言い渡した。判決はこれで確定した。おそらく、山中氏も訴訟すれば浅野氏のように勝訴する可能性が高いと思われるが、判決は選挙よりはるか先であり、賢明な対応とは言えまい。

■選挙にはガセネタがつきもの
選挙には特定の候補を誹謗中傷するフェイクニュースやガセネタはつきものである。2006年の長野県知事選挙では再選を目指す田中康夫知事(当時)が公文書破棄を県職員に命じたという虚偽を信濃毎日新聞が連日報道し、田中氏は落選。そもそも命令はなかったし、公文書なるものも多数の職員が共有しているものであり破棄を命ずる理由もなかった。しかし、それが分かったのも田中氏が落選した後である。山中氏は公式サイトで反論しているものの、一般には見られていない。だから、繰り返しになるが言う。山中竹春氏がパワハラ・アカハラした事実はないし、それはフェイクニュースだ、と。
ニュースサイトしらべぇ

引用は以上になります。

筆者(及川健二氏)は記事のタイトルで「菅首相が負けられないため過熱する横浜市長選 山中竹春元教授がフェイクニュース被害」と断定している上、文中の冒頭で筆者が事実関係を調べたところ、完全なフェイクニュースだと確信するに至ったとまで断言しているのだから、当然ながら読者は根拠も書かれていると期待して、記事の続きを読み進めるはずです。

しかし、しらべぇ記事を真面目に読んだ方は分かる通り、実は客観的な事実に基づいた根拠は何も書かれてないのです。

しらベぇ記事に書かれているのは、「発言者が不確かな伝聞」「憶測」ばかり。「客観的な事実」もいくつか書かれているものの、パワハラ報道はフェイクニュースと結論付けるには論理展開に飛躍があり過ぎます。

***

信憑性の区別と論理展開の整理

まず、しらべぇ記事に書かれている内容の信憑性を明確に線引きするため、以下の基準を採用します。

  • 信憑性A 客観的な事実 (例)既にウラがとれている事実、周知の事実、など
  • 信憑性B 発言者が明確な伝聞 (例)「菅総理は会見で次のように述べました」、「西村大臣によると」、など
  • 信憑性C 発言者が不明確な伝聞 (例)「政府関係者が次のように述べました」、「ある専門家によると」、など
  • 信憑性D 憶測 (例)根拠に基づかない筆者の推測、など

結論(=パワハラ報道はフェイクニュースである)に繋がる内容を信憑性に応じて4段階に区別した上で、論理展開を整理すると、以下のスライドのようになります。

©︎2021 Jun Inukai
©︎2021 Jun Inukai

まず、信憑性A(客観的な事実)に分類できるのは、以下の4点のみ。結論「パワハラ報道はフェイクニュースである」を裏付ける根拠は皆無であることが分かります。

  • 山中氏が属したのは小さな研究室である *どのくら小さいのか具体的な人数の記載は無し
  • 横浜市立大学はハラスメントのガイドラインや委員会を整備している
  • 学内の私怨を週刊誌に売るケースはある (例)2005年、同志社大学の渡辺武達教授が対立していた浅野健一教授(元共同通信記者)のセクハラのガセネタを週刊文春にリークした。
  • 選挙に特定候補への誹謗中傷はつきもの (例)2006年、長野県知事選挙で再選を目指した田中康夫氏が公文書破棄を県職員に命じたという虚偽を信濃毎日新聞が連日報道し、田中氏は落選した

続いて、信憑性B(発言者が明確な伝聞)は該当する記述が無く、信憑性C(発言者が不明確な伝聞)については、以下2点があります。発言者はいずれも「大学側・大学関係者」と不明確です。

  • ハラスメント委員会に対する山中氏の告発は0件
  • 山中氏を告発した元同僚は問題児でハラスメント加害者


これらをもとにして、かなり論理的に飛躍のある憶測(=信憑性D)として、以下の内容が書かれています。

  • 職員・秘書・同僚が15名以上も辞めたのは疑問だ
  • もし山中氏がパワハラ常習者なら告発されたはず
  • 元同僚が私怨で山中氏の悪口を週刊誌にリークしたのでは

最終的には、これらの完全な憶測をもとにして、「山中氏のパワハラ報道はフェイクニュースである」と断定しているのです。つまり、しらべぇ記事は筆者(=及川健二氏)の憶測と論理展開の飛躍に依存しているのです。

***

論理展開の飛躍

論理展開の飛躍が大きすぎるので、特に飛躍している4点をマーキングすると以下のスライドのようになります。

©︎2021 Jun Inukai
©︎2021 Jun Inukai

①「山中氏が属したのは小さな研究室」という事実をもとに「職員・秘書・同僚が15名以上も辞めたのは疑問だ」と推測していますが、そもそも山中氏は2014年に横浜市大に入職してから退職する2021年まで、臨床統計学教室、次世代臨床研究センター、データサイエンス研究科など複数のセクションに在籍し、特命副学長や学長補佐まで務めています。大学で多くの関係者に影響力を持った人物であるため、被害者が15名以上いる可能性は十分あり得ます。 *山中氏の経歴は8月7日付のSmartFlash記事に基づく

②「横浜市立大学はハラスメントのガイドラインやハラスメント委員会を整備していた」という事実、「ハラスメント委員会に対する山中氏の告発は0件」という発言者が不明確な伝聞をもとにして、「もし本当に山中氏がパワハラ常習者なら告発されたはず」と推測していますが、ハラスメント被害者が告発しにくいのは常識であり、告発0件は何の根拠にもなりません。これは、読者の皆さんがこれまで経験してきたであろう数々のハラスメント(セクハラ、アカハラ、パワハラ、アルハラ、など)のうち、実際に告発できた数を思い出せば納得いただけるのではないでしょうか。ちなみに私自身は被害を告発したのは0件ですが、当然ながら被害にあった経験はあります。

③「山中氏を告発した元同僚こそが問題でハラスメント加害者」という発言者が不明確な伝聞をもとに「元同僚が私怨で山中氏の悪口を週刊誌にリークしたのではないか」と推測していますが、ハラスメント「加害者」のはずの元同僚が山中氏に私怨を抱く理由は一切触れられていないため意味不明です。

④「学内の私怨を週刊誌に売るケースはある」という2005年の同志社大学の事例と「選挙に特定候補への誹謗中傷はつきものである」という2006年の田中康夫氏の長野知事選挙の事例を持ち出していますが、これらが今回のパワハラ報道に当てはまる根拠は一切述べていません。この論理展開に従うと、「大学教授がパワハラを行った事例は数多くあった」「選挙時に特定候補の過去の問題行為が明るみになった」という事例こそ数多くあり、それらを根拠に「山中氏のパワハラ報道は事実であった」と言うことすらできてしまいます。

つまり、しらべぇ記事の筆者(及川健二氏)は憶測や論理展開の飛躍に依存して、「山中氏のパワハラ報道はフェイクニュースである」とハッタリをかましているに過ぎません。

タイトルに「山中竹春元教授がフェイクニュース被害」と書きながら、その根拠は一切ありません。

文中で「筆者が事実関係を調べたところ、完全なフェイクニュースだと確信するに至った」とまで断言しながら、その根拠は一切ありません。

***

参考:しらべぇ記事を拡散した国会議員

自公政権に大きな不信感を持ち、野党による政権交代を望む立場の私としては、国政選挙の直前にこうしたことを言うのは大変残念ですが、問題のしらべぇ記事を利用して「山中竹春候補のパワハラ報道はフェイクニュースである」と拡散してしまった立憲民主党の国会議員が複数います。本題と少し離れますが、参考として紹介します。

山崎誠 衆議院議員 神奈川5区(横浜市戸塚区・泉区・瀬谷区)

山井和則 衆議院議員 京都6区(宇治市、城陽市、八幡市、京田辺市、木津川市、久御山町、井手町、宇治田原町、笠置町、和束町、精華町、南山城村)

有田芳生 参議院議員 

小川淳也 衆議院議員 香川1区(高松市、小豆群、香川郡)

馬渕澄夫 衆議院議員 奈良1区(奈良市、生駒市)

特に小川淳也議員については、8月7日(本人が問題の記事をツイートした同日)に横浜市内の街頭演説会に参加し、山中竹春候補への応援演説まで行っています。私は現場で参加していたため、当日の様子は以下の連続ツイートで紹介します。

今回の横浜市長選挙は候補者が8名と乱立しており絶対的な有力候補も居ないため、得票率25%を超える候補者が現れず衆議院選挙と同日に再選挙を行う可能性があります。野党が政権交代を目指す上で、野党統一候補の山中竹春候補の横浜市長選挙の顛末が大きな足かせになることを危惧しています。

今回のニュースレターは以上になります。

2021年8月14日 犬飼淳

***

P.S.

このニュースレターに価値を感じた方は、ツイートやシェアで紹介をお願いします! ご自分の言葉で感想も添えて頂けると、これから読む人や私にとっても参考になるので嬉しいです。 *今回の内容には反論や違和感を覚えた方もいるかもしれませんが、そうした感想も率直に書いて頂ければ幸いです。

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