【文字起こし】本番行為を含むAV出演契約は無効でないのか(山添拓議員 参議院 法務委員会 2022年5月19日)
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こんにちは。犬飼淳です。
AV新法を巡って、賛否が真っ二つに分かれている問題について、昨日のニュースレターで詳しく解説しました。具体的には、賛成・反対の双方で主張が食い違っている7点について、最新の条文にもとづいて整理しました。
そして本日(5月19日)、その7点のうち②(性交撮影の合法化)と③(性交撮影を伴う売春の合法化)の問題を明らかにする上で今後重要な意味を持つであろう質疑を共産党・山添拓 議員が国会(参議院 法務委員会)で行いました。今回のニュースレターでは、全15分間の質疑を文字起こしします。
*質疑映像はYoutubeで視聴可能(リンク先の1時間37分44秒頃〜)
表記の注意事項
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発言者名は【】で囲んで記載する
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文字起こし
【山添拓 議員】成年年齢の引き下げに伴い、18~19歳の未成年者取消権が奪われ、アダルトビデオへの出演契約を取り消しできないことが、支援団体などから訴えられ、国会でも議論されてきました。若い女性がAVに出演する意識が無いままプロダクションと契約し、断れば「違約金」と脅され、出演を強要され、事実上断れない状況に追い込まれる。あるいはそれしか道が無いというほど生活に困窮し、AVと分かっていて応じる。しかし、撮影、公表、拡散によって、深刻な被害を受ける事態が後を絶ちません。AVというのはあくまでも演技のはずですけど、実際に性交させる本番行為、避妊なしのケースも当たり前のように存在します。売春防止法2条は「対価を受けて不特定の相手方と性交することは禁止」しています。まず、法務省に伺います。なぜ禁止しているのでしょうか。
【法務省 川原隆司 刑事局長】売春防止法2条は売春を、「対償を受け、または受ける約束で不特定の相手方と性交すること」と定義してまして、同3条は、「売春をし、又はその相手方となつてはならない」と規定してます。この第3条の規定は、一般に売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会善良の風俗を乱すものであることを鑑みて、売春の禁止を定めたものとされています。
*売春防止法の条文はe-GOV参照
【山添拓 議員】この売春防止法というのは、性売買に従事する女性の取り締まり、あるいは保護更生を目的としており、人権の理念が欠如したものだとして、見直しが必須だと指摘されてきています。本来は買春行為こそ問われるべきだろうとも思います。ただし、今お話のあった、お金を払って性交させることが尊厳を害する、女性の尊厳を傷つける。それは、その通りだろうと思います。売春防止法2条が禁止するのは、不特定の相手方との性交です。不特定とは、どういう意味か。最高裁判例に照らして、説明をお願いします。
【法務省 川原隆司 刑事局長】一般に、売春防止法2条における「不特定の相手方」とは、不特定の人間の中の任意の一人、すなわち売春をする者が性交の対価に主眼を置いて、相手方の特定性を重視することなく、不特定の者の中から任意に選定した相手方をいうと解されています。
【山添拓 議員】最高裁の1957年9月27日の判決に基づく解釈かと思いますが、現在もその解釈でよろしいということですね。
*1957年9月27日最高裁判決および「不特定」の判断基準については、みずほ中央法律事務所ウェブサイト参照
【法務省 川原隆司 刑事局長】現在も解釈は私が先ほど答弁した通りでございます。
【山添拓 議員】性交の対価に主眼を置いて、相手方の特定性を重視しないことを意味すると。それが判例です。この解釈に照らせば、売春契約を結んで契約の相手方が書面で明記されていたとしても、対価のほうに主眼があって特定性を重視していないという場合。今回はこの人。終わったら別の人、と。次々変わっていくような場合は、不特定ということになりますか。
【法務省 川原隆司 刑事局長】今、委員は具体的な事例として挙げられましたけど、委員ご指摘のような例が、この不特定の相手方に当たるかということになりますと、これは私も法務省としてお答えすることは差し控えたいと思います。ただ、もし委員ご指摘のような事例が、先ほど申しました一般的な解釈、これに該当するということになれば、まさにそれは不特定の相手方になるところでございます。
【山添拓 議員】念の為伺いますけども、契約を結べば、契約書があれば、特定されるということにはならないのですね? 先ほどの解釈によれば。
【法務省 川原隆司 刑事局長】不特定の相手方をどう解釈するかは先ほど申し上げた通りでございまして、それは具体的な事案におきまして、その事実関係に基づいて認定されることでございまして、契約書があるかないかということは、その事実関係の一つとして、その認定にあたってどうなるか、ということでございまして、私どものほうから、これが特定の・・、具体的に申し上げることは困難でございますが、いずれにしましても、この事実関係が先ほどの解釈に当たる場合は、これは不特定だということ。
【山添拓 議員】事実関係によるけども、契約書の有無によって結論が確定されるわけではないということですね。
【法務省 川原隆司 刑事局長】すいません。その契約書の有無というのは、具体的な個別の事情がどうなるかということになりまして、私どもとしてはお答えすることが困難だと思います。
【山添拓 議員】(苦笑いしながら)お答えになりたがらないんですけども、AVへの出演も女性にとって相手が誰であるかということは重要ではないはずです。1作目を撮影した後、2作目、3作目。別々の男優と撮影することによって囲い込んで、売上にも繋いでいく。本番行為を含むようなAVは対価を伴って不特定の相手方と性交し、これを撮影する。そういう意味で、売春防止法違反になるケースもあると思いますけど、いかがでしょう。
【法務省 川原隆司 刑事局長】委員のお尋ねは、かなり具体的な事例を設定したものでございますので、それが当たるか否かに関しては私どもとしてはお答えを差し控えたいと思います。
【山添拓 議員】(苦笑いしながら)そんなに具体的じゃないですよ。普通に考え得るAV撮影のケースだと思いますね。特定しているか、不特定かという問題なんですけども。当たるケースもあり得ますね?
【法務省 川原隆司 刑事局長】(困った様子で吹き出して笑いながら)う~ん。どういった場合が当たるかは、それぞれの事案の個別的な事情がございますので、私どもとしてはそれらの個別的な事情が先ほど申し上げた定義に当たるならば、当たるということがお答え。
【山添拓 議員】そういうことだと思います。職業安定法63条2号と労働者派遣法58条は公衆衛生または公衆道徳上 有害な業務に就かせる目的での職業紹介や労働者派遣を禁止し、刑罰の対象としています。警察庁に伺います。AV出演について、これらの違反を理由に摘発した事例の件数と特徴的な事例についてご紹介ください。
【警察庁 住友一仁 官房審議官】アダルトビデオへの出演強要に関しましては労働者派遣法58条として平成30年に3件3名、職業安定法63条2号違反として平成29年4月から12月までの間に1件1名。平成30年に1件5名、令和元年に2件5名。令和2年に1件1名の事例を把握しているところでございます。これらの事例の内容として、労働者派遣法違反について申し上げますと、アダルトビデオ女優の派遣管理等を業とするプロダクションの元従業員らがアダルトビデオ企画制作会社に対し、アダルトビデオを制作する際、出演女優として男優を相手に性交、性技させることを知りながら、雇用した労働者である女性を派遣し、アダルトビデオ女優として稼働させた事案を把握しております。また、職業安定法違反について申し上げますと、スカウトらがモデルを志望する女性に対し、アダルトビデオ出演は芸能界の登竜門であるなどと述べて説得し、不特定の男優を相手方として性交、性技を行うアダルトビデオ女優の業務に就かせる目的で、アダルトビデオ制作販売業者に女性を紹介して雇用させた事案を把握しているところでございます。
【山添拓 議員】資料をお配りしています。全国の検挙件数としては極めて少数だと思います。刑法の淫行勧誘、わいせつ物頒布、強要など他の罪名を含めても年に数件という状況です。警察庁は2017年以降、アダルトビデオ出演強要問題 専門官を各警察に置いています。取り締まりを強化するとしてきたわけですが、あまり強化されている状況ではないように思いますけど、いかがですか。
【警察庁 住友一仁 官房審議官】今、ご指摘いただきました通り、我々警察においても各都道府県警察でアダルトビデオ出演強要問題 専門官とした統括責任者を中核として各種法令を適用し、厳正な取り締まり、被害防止のための広報、啓発、相談体制の充実等を推進してきたところでございます。その結果について、我々の方で多い、少ないと申し上げるのは差し控えたいと思います。いずれにしても我々としてはこういった各都道府県警察における取り締まりが進められますよう警察庁として引き続き都道府県警察を指導して参りたいと思います。
【山添拓 議員】一方で多くの被害があるわけです。厚労省に伺います。職業安定法や労働者派遣法が有害業務を禁止し、罰則規定を設けているのはなぜでしょうか。特に性交させる目的で業務に就かせたり、派遣したりすることが禁止されているのはなぜでしょうか。
【厚労省 富田望 官房審議官】労働者派遣法、職業安定法におきましては、公衆衛生または公衆道徳上、有害な業務に就かせる目的で労働者派遣や職業紹介等行うことについて罰則を規定しております。この公衆道徳上、有害な業務というのは、これは社会共同生活上、守られるべき道徳を害する業務とされまして、その適用については個別の事案によるわけでございますけども、例えば芸能プロダクションやその代表者らが雇用する労働者である女優をアダルトビデオ制作会社に派遣した事案について、アダルトビデオの出演行為が労働者派遣法58条の公衆道徳上、有害な業務に該当するとした裁判例があるとしておりまして、そういった行為に該当した場合は罰せられる事案ということでございます。
【山添拓 議員】その判決は、「性交の場面を露骨に演じ、その場面が撮影されることを業務内容とするものであって、有害業務であることは疑いの余地はない」としています。また、その判決では「労働者派遣法は労働者一般を保護することを目的とするものであるから、この業務に就くことについて個々の労働者の希望ないし承諾があったとしても犯罪の成否になんら影響がない」とも述べております。業務として性交することについて、本人に同意があったとしても そのような業務は違法であって罪に問われるということだと考えますが、厚労省、それでよろしいでしょうか。
【厚労省 富田望 官房審議官】この規定の解釈でございますけども、繰り返しになりますけども、目的としましては、公衆衛生または公衆道徳上、有害な業務は健全な共同生活を維持する上から存在は望ましくないということでございまして、このような罰則規定を設けてございます。それについては業務自体を○○するものであって、それをどうするかについては変わらない・・、ということでございます。
(最後の一文は不明瞭で聞き取れず)
【山添拓 議員】少なくとも職安法や派遣法上、性交させ撮影する業務は刑罰の対象になっていると。個々の労働者の同意の有無にかかわらず、刑罰の対象になるといことであります。法務省に伺います。先ほど答弁にありました、売春防止法の解釈に照らせば、AV出演契約の契約書上、誰と性交するかが明記してあったとしても、不特定の相手方に当たり得ると。売春防止法で禁止される売春にあたる可能性が・・、事案に応じてという答弁でしたけども、売春にあたる可能性があるということだと思います。この場合は民法上も公序良俗違反で無効だと、そう言うべきだと思いますが、いかがでしょうか。
【法務省 金子修 民事局長】一般には公序良俗違反とされる行為の一類型として、社会通念上、性道徳や人倫に反する行為があるとされております。他方、委員ご指摘のアダルトビデオの出演内容も様々なものございますので、出演者が具体的に行う行為も様々あると考えられます。これが性道徳や人倫に反し、公序良俗に反するものとして無効になるかどうかは、個別のアダルトビデオについて個別の事情に考慮して最終的には裁判所にて判断されるものであり、一概にお答えするかどうかは困難だと考えています。
【山添拓 議員】売春防止法違反に当たる場合でも、必ずしも公序良俗違反で無効とはならないというご答弁ですか?
【法務省 金子修 民事局長】売春防止法2条に定める売春は、「対償を受け、または受ける約束で不特定の者と性交すること」とされておりますので、この売春を内容とする契約につきましては、一般的に性道徳や人倫に反するものとして、公序良俗に反するというものになるかと思います。
*売春防止法の条文はe-GOV参照
【山添拓 議員】同様に職安法63条2号や労働者派遣法58条に違反するAV出演契約は、これもやはり公序良俗違反で無効と言うべきだと思うが、いかがでしょうか。
【法務省 金子修 民事局長】これも答弁として同じになりますけども、あのー、そのー、えー、労働者派遣法あるいは職業安定法が禁じている、公衆衛生または公衆道徳上、有害な業務を内容とする契約が、公序良俗に反するかについて一概にお答えすることは困難でございますが、業務の具体的内容によっては公序良俗に反すると判断されることはあるものと考えております。
【山添拓 議員】ここは当然、公序良俗違反であろうと答弁頂きたいところですよね。有害業務だと認定している判決は、社会生活において守られるべき性道徳を著しく害するんだと。公衆道徳上、有害な業務だと。そのことは疑いの余地は無いと判決しているわけです。この被害にあった女性、お話を伺えば、始めは大丈夫だと言われると。で、その時は撮影に同意していても、いざ撮影に入ると自分が何をしているのか分からなくなる、と言います。そして、終わった後は眠れなくなる。公表されると取り返しつのつかない被害に、心身に傷を負うものであります。私は売春防止法、職安法、派遣法の解釈に照らせば、やはり対価を支払って性交させて、それを撮影する。いわゆる本番行為を含むAV出演契約は無効と言うべきだと思います。性的自由を侵すものであり、それを明確にすべきだと思うんです。現在、AV出演契約を規制する法案が超党派で議論されておりますが、今日の答弁を踏まえたものになるよう求めていきたいと思います。ありがとうございました。
(山添拓議員、着席。委員会室からは周辺の他議員を中心に拍手が沸き起こる)
文字起こしは以上です。
全体的に法務省 参考人(川原 刑事局長、金子 民事局長)の答弁の歯切れが悪く、不安を覚える場面が度々ありましたが、一通り重要な点は山添拓議員が指摘していたので、今後の議論に活かされることを個人的にも望みます。
2022年5月19日 犬飼淳
P.S.
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