【独自】「民主主義」を謳うも「権威主義」に染まった歴史修正映画「ハマのドン」(2)
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この記事を書いた理由
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映画「ハマのドン」は表向きは「民主主義」の重要性を説いているが、実際は対極の「権威主義」に依存している。不都合な現実を一切映さないことによって虚構の筋書きを成立させる手法は、もはや「歴史修正主義」の域に達している
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しかし、これまで「権威主義」「歴史修正主義」を批判してきたはずのメディア・有識者が揃ってこの映画を称賛し、今もなお歴史修正に加担し続けている
この記事で理解できること(前半)
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歴史修正に加担したメディア・有識者の概要
この記事で理解できること(後半)
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うち1者の認識
本日(9月1日)は1923年に関東大震災が発生した日です。当時の朝鮮人虐殺を改竄する論調が近年強まっていることを踏まえ、今回のニュースレターでは別の題材をもとに歴史修正主義によって市民の安全や財産が危険に晒されることの重大さについて考えたいと思います。
取り上げるのは、2023年5月に公開された映画「ハマのドン」(テレビ朝日制作、松原文枝監督)。「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップがあまりにも大きく、ドキュメンタリー映画と呼べるものではありませんでした。率直に言って、「民主主義」を謳いつつ「権威主義」と「歴史修正主義」に染まった最低最悪のプロパガンダ映画です。しかも、映画公開の約2年前(2021年8月の横浜市長選挙前後)の出来事すらも堂々と歴史修正しており、歴史修正は数十年~百年以上前の出来事のみで起きるのではなく、テレビ局や著名人がその気になれば僅か数年前の出来事でも可能というショッキングな教訓を示しました。
©️2023 Jun Inukai
上記の説明やスライドの意味を十分に理解できない場合、お手数ですが以下の第1報(2023年5月8日配信)を先にお読み下さい。
*これ以降をお読み頂いている方は、映画「ハマのドン」が悪質な歴史修正映画であることを理解しているという前提で話を進めます
歴史修正に加担したメディア・有識者
奇妙なことに、現政権の「権威主義」や「歴史修正主義」を厳しく批判してきたはずのいわゆる有識者たちから、この映画を称賛するコメントが相次ぎました。
映画に基づいた松原文枝監督の書籍帯文では著名な政治学者までも絶賛。
さらに、これまで現政権の「権威主義」や「歴史修正主義」を厳しく批判してきたメディアも揃って肯定的に報じ、総崩れの様相を呈しました。
しんぶん赤旗(2023年5月2日) *「ひと」欄で松原文枝監督を紹介
*類似の報道・情報発信は膨大に存在するため、上記は2023年5月2日までに確認できた分のみを掲載
歴史修正加担の背景
結局、筆者の第1報から1年以上が経過した現在(2024年9月1日)も、「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップに言及した報道は一件も確認できません。
なぜこのような現象が起きるのか。
本来であれば本人が自ら責任を持って説明すべき話ですが、残念ながらそうした動きは皆無のため、筆者なりに考えてみました。まず、対象者が横浜市政の前提知識を持っているかどうかで2パターンに分かれるはずです。
<横浜市政の前提知識がゼロの場合>
このパターンの場合、松原文枝監督が仕組んだ偽りの筋書きに一般の観客と同様にあっさり騙されたということで悪意は無いのでしょう。しかし、たとえ前提知識ゼロでも気付ける違和感が映画内には幾つもありました。
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市長選挙に最大の焦点が当たっているのに、2人目の主役のはずの当選者(山中竹春氏)の存在が画面から消されている(画面登場は40秒程度、肉声はカジノ誘致を撤回する1場面のみ)。他の候補者(林文子氏、小此木八郎氏など)は普通に何度も登場するため違和感はさらに大きい
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地元有力者の一存で選挙の候補者にとどまらず当選者まで決定できる考え方自体が民主主義に反し、極めて権威主義的である
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クライマックスで大々的な演出とともに紹介されたカジノIR誘致総括の文言は、市民の理解不足に責任転嫁しただけであり、意思決定プロセスの不透明さなどの本質的問題に一切言及していない
こうした違和感を放置したまま映画を肯定・称賛するということは、率直に言って以下のような特徴を持つ人物であると推測できます。
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自ら違和感に気付けないほどメディアリテラシーが低い
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表向きは「民主主義」を掲げているが、実際は「権威主義」的な考え方に染まっている
総じて、有識者として扱うこと自体に疑問符がつく人物と言えます。
ただ、応援コメントを寄せたり取材したメディアはそもそも一般人ではなく、カジノ誘致や横浜市長選の経緯について最低限の知識は持っているはずですので、大半は次のパターンに当てはまるはずです。
<横浜市政の最低限の前提知識はある場合>
このパターンはさらに深刻です。前提知識の質や量に個人差はあるでしょうが、「映画の中の虚構」と「映画の外の現実」のギャップに多少なりとも気付いた上で映画を肯定的に宣伝して歴史修正に加担したわけですから、正真正銘の歴史修正主義者と判断せざるを得ません。
なぜこのような行動に出たのか。動機は人それぞれでしょうが、以下のツイートに見られるように、「政権批判」「権力批判」という大義名分を重要視した結果、多少の矛盾には目を瞑ってでも映画を肯定しているように思えます。
こうした考え方は、衆議院選挙(横浜市長選の2ヶ月後)で政権交代を成し遂げるため、山中竹春氏が問題のある候補者と事前に分かっていながらも「長い目で見れば山中一択である」と目を瞑った政治家(立憲民主党、共産党、社民党)や野党支持者の自己中心的かつ短絡的な振る舞いと全く同じです。
横浜市政を大きく切り替え、国政にも大きな影響を与える、大きな勝利です!
上記のように地方選挙と国政選挙の区別もつけられずに民主主義を履き違えた考えがまかり通った結果、与党側は不人気な菅義偉総理の退陣と総裁選フィーバーで勢いを盛り返した一方、野党側は人口377万人を誇る横浜市を中心に求心力が低下。その「長い目」とやらで見れば政権交代をむしろ遠のかせたわけですから、完全に逆効果でした。
さらには、以下のような揶揄を選挙時に投稿しておきながら、山中竹春氏が当選後に招いた横浜市政の惨状について自らの「ステートメント」とやらを発信した様子は確認できない無責任な輩も散見されます。ブーメランそのものです。
*上記の人物は横浜市長選の前後、山中竹春候補を問題視する声を嘲笑したり、田中康夫候補の支持者を小馬鹿にする投稿を繰り返しており、この「横浜市長選挙で運動しているひと」とは、山中氏が市長に相応しくないという懸念に基づいて情報発信していた者を指すと判断せざるを得ない
話を映画に戻すと、「市長選挙敗北によって菅総理を退陣に追い込んだ」という一面を特に重視しているように見える意見も複数確認できます。
菅義偉官房長官の圧力と最後まで戦い
2015年3月末に報ステから追放
だが松原氏は諦めなかった
菅氏が強引に進めた横浜のカジノを止めた市民の戦いを描くドキュメントは数々の賞に耀いた
そして、ついに映画化に漕ぎつけた
感動的映画です
私は日本のテレビは基本的に観ないので詳しくは知りませんが、古賀茂明氏が上記ツイートで指摘している通り、松原文枝監督は官房長官時代の菅義偉氏による圧力で報道現場を離れたと言われているそうです。他にも、映画を肯定している方々には同様に菅義偉氏を始めとする政権から圧力を受けたとされる人物の名前を確認できます。
人それぞれ事情は異なるでしょうが、そうした私怨に近い感情も絡んで「現職総理を敗北・退陣に追い込んだ」というストーリーに歓喜しているのであれば、自らが「権威主義」に染まっていることの表れではないかと感じます。どのような事情があるにせよ、もはや「歴史修正主義」の域に達している映画を無責任に称賛して良い理由にはならないと思います。
改めてまとめると、映画「ハマのドン」を通して歴史修正に加担したメディア・有識者は以下3つのいずれかと考えられます。
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メディアリテラシーが著しく低い者
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権威主義者
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歴史修正主義者
とは言え、これはあくまでも筆者の推測に過ぎません。対象者全員が無責任に沈黙を貫いていることを勘案しても、本人たちにも言い分はあるでしょう。
筆者は縁あって、歴史修正に加担したこれらのメディア・有識者のうち1者(デモクラシータイムス同人会)の認識を直接確認する機会に恵まれたため、後半ではその確認結果を詳細にお伝えします。
*デモクラシータイムス同人会:池田香代子氏、鈴木耕氏、田岡俊次氏、高瀬毅氏、升味佐江子氏、山岡淳一郎氏、山田厚史氏
後半の目次
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質問状送付に至った経緯
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回答入手までの経緯
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歴史修正にとどまらないデモクラシータイムス運営方針への懸念
*残念ながらさらに気が滅入る確認結果となったため、歴史修正主義に強い問題意識を持つ方を除いて購読はおすすめしません。