新型コロナ 5類引き下げは誰のためか

多くの有識者・著名人が唱える「コロナを2類から5類に引き下げれば、医療崩壊を防いで経済も回せる」という主張。賛成者・反対者 双方の主張の論理展開を分解して、真偽を検証します。
犬飼淳 2022.04.13
サポートメンバー限定

*今回の内容は情報の公共性が非常に高いと判断したため、本編は未登録者にも無料公開します。同じ問題意識を感じた方はSNSや口コミで紹介をお願いします。

こんにちは。犬飼淳です。

4月9日、あたかも岸田文雄総理が新型コロナウイルスを感染症法の2類から5類に引き下げると決断したような見出しの記事がダイヤモンドオンラインに掲載されました。

記事の中身を読むと総理は「今夏の参院選後」の見直しを「検討」したに過ぎず、見出しが不正確な気もしますが、5類引き下げをめぐる議論が再び注目を集めたことは確かです。

元を辿れば昨年頃から日本では「新型コロナは2類から5類に引き下げるべき」とテレビなどのメディアで有識者・著名人が主張してきました。「5類に引き下げることで、濃厚接触者特定・就業制限・入院勧告などの措置が不要になり、保健所・医療機関の負担を軽減でき、本当に医療が必要な人は治療を受けられ、無症状者・軽症者は出勤・登校できるから経済を回せる。良いことづくめ」と、医師や政治家に加えて、なぜかお笑い芸人までもが同じ主張を繰り返してきました。

一方、「現在の状況で5類に引き下げれば、医療費が国民負担となって受診控えが起きる上、感染者が市中に蔓延して更なる感染爆発を招いて、完全に医療崩壊する」と主張する専門家も複数いました。

一体どちらが正しいのでしょうか??

そこで今回のニュースレターでは、新型コロナウイルスを感染症法の2類から5類に引き下げると実際は何が起こるのか、本当に恩恵を受けるのは誰なのかを検証していきます。具体的には、賛成・反対 双方の主張の論理展開を分解して、根拠の確かさに基づいて判断していきます。

論理展開の検証

「新型コロナを2類から5類に引き下げる」を起点に、賛成者・反対者の双方が主張する5類引き下げのメリット・デメリット、それを支える根拠の因果関係を整理すると以下のような流れになります。起点は同じなのに、賛成者と反対者が辿り着いた最終的な結論は真っ向から対立しています。

©️2022 Jun Inukai

©️2022 Jun Inukai

4つのグループの内容を順に確認していきます。

事実に基づく根拠

①〜③は感染症法で規定されており、5類引き下げによって確実に起きる出来事です。ゆえに、「事実に基づく根拠」に分類しています。

希望的観測に基づく根拠

④〜⑥は、賛成者が唱えるメリットの根拠となっているものの、どれもが希望的観測に基づいています。

まず、「④多くの開業医による早期治療が可能になる」は訪問診療で積極的に診察できる開業医が大勢いるならば、確かに成立する話です。しかし、有効な治療薬もない中で、高いリスクを背負って治療にあたるほど余裕がある開業医はむしろ少数派と考えるのが自然でしょう。

「⑤ワクチンを接種すれば感染・重症化しにくい」「⑥オミクロンは重症化しにくい」は、5類引き下げの議論が盛んになった2021年夏の時点であれば、その後の展開次第では成立したかもしれません。しかし、2022年4月現在においては、この2点は完全な誤りであることは周知の通りです。繰り返される変異によってワクチンを接種後も感染・重症化する人は後を絶たず、オミクロン株による第6波は感染者・死者ともに過去最悪レベルに達しました。

つまり、④〜⑥は根拠として成立していません。

メリット(5類引き下げ賛成者の主張)

賛成者が主張するメリットは「⑫保健所・医療機関の負担を減らせる」が根幹を成しています。これによって、「⑬医療を受ける権利を国民に保障できる」ので、「国民の命を守り、経済も立て直せる」という結論に繋がっています。

従って、この主張の大前提である⑤⑥は完全な誤りと明らかになった上、④も成立する見込みが低い状況において、⑫→⑬の流れは完全に崩壊したと言えます。それどころか感染・重症化のリスクは高いままで濃厚接触者特定、就業制限、入院勧告はやめるのだから、さらなる感染爆発に繋がって、保健所・医療機関の負担を軽減するどころか完全にパンクさせる恐れすらあります。

そして、皮肉なことにそのような状況であっても「⑩無症状者・軽症者は出勤・登校できる」ので、無理やりにでも「⑪経済活動を回す」ために働かなければなりません。

念のために補足しておくと、「保健所や医療機関の負担を軽減する」という発想自体は正しいと私も思います。しかし、その解決策として出来ることは他にも数多くあります。保健所の人員を強化する、1ヶ所で集中的に治療できる野戦病院を整備する、紙やFAXに頼ったアナログ業務を改める、など。そうした日本以外の国では当たり前に行われていることは取り入れず、5類引き下げで全て解決するかのように主張すること自体が不可解だと言えます。

デメリット(5類引き下げ反対者の主張)

一方、反対者が主張するデメリットは、事実に基づく根拠(①〜③)に基づいているため、5類に引き下げれば確実に実現します。まず、「⑦国民負担となった医療費が家計を圧迫」し、「⑧富裕層以外は受診を控える恐れがある」上、濃厚接触者特定・就業制限・入院勧告が不可になるので、「⑨感染者が市中蔓延して感染爆発を招く」ことも現実になるでしょう。

こうした点を加味すると、先ほどのスライドは以下のように様変わりします。

©️2022 Jun Inukai

©️2022 Jun Inukai

ほとんどのメリットは消え、デメリットだけが残ります。

富裕層を除く一般国民の立場から見ると、医療費を払えなければ受診すらできず、高い感染リスクに晒されながら働かざるを得ないという地獄絵図が現実になるでしょう。

一方、政府の立場から見ると、医療費は負担せずに国民を使い倒す(使い捨てる)ことができます。また、企業の立場から見ても、経営者が社員の命より業績を優先する考え方であれば 5類引き下げは企業活動継続の免罪符となります。

つまり、5類引き下げによって恩恵を受けるのは政府や大企業です。その犠牲になるのは一般国民や最前線で治療にあたる医療従事者になるでしょう。

***

5類引き下げが一般国民にとってもメリットが大きくなる前提条件をあえて挙げるとすれば、有効な治療薬の登場ではないかと個人的には思います。そうなれば感染しても早期に治療薬さえ入手できれば感染拡大を防ぐことができ、保健所・医療機関の負担を軽減しつつ、経済も回すという本来の狙いを達成できる可能性があると思われます。医療費は国民負担ですが。

逆に言えば、そうした劇的な状況の変化(治療薬の登場、ウイルスの弱毒化、など)が起きない限り、5類引き下げは時期尚早。一般国民にはデメリットしかないと言えます。

***

今回の本編は以上になります。

冒頭に紹介した5類引き下げを匂わせる不自然な報道は観測気球目的の可能性が高く、この流れを食い止めるためにも問題意識を感じた方はSNSや口コミで紹介をお願いします! リンク先を紹介するだけでなく、ご自分のコメントも交えて紹介して戴けると拡散しやすいので大変ありがたいです。 

*これ以降のエリアでは、メディアなどで5類引き下げを主張した医師・芸能人・政治家など計7名の具体的な発言を実名で掲載し、①~⑬との対応も示しながら紹介していきます。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、3949文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

読者の方にはこんな内容を直接お届けしてます。

・政策や報道の問題点を検証
・基本週次の配信
・いつでも配信停止可
・読みやすいレターデザイン
誰でも
初の著書「インボイスは廃止一択」出版のお知らせ
サポートメンバー限定
【訴訟報告】ESAT-J不開示決定の処分取消(6)弁論終結
読者限定
永住許可取消を含む2024年版入管法改悪案が助長する外国人差別
読者限定
3人に1人が不利益を被る共同親権。「離婚禁止制度」を超えて「少子化促進...
サポートメンバー限定
【独自】能登半島地震 渋滞の定量データ(2)〜国交省が15ファイルをつ...
誰でも
【事務連絡】読者別の公開方針
読者限定
違法行為を犯してまでイジメ隠蔽した教育長が退職金満額400万円超を受け...
サポートメンバー限定
【独自】能登半島地震 渋滞の定量データ(1)〜内閣広報室と石川県の発信...