【衆院選分析】野党4党の候補者一本化による勝敗への影響
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2021年10月31日、ついに衆議院選挙の投開票日を迎えました。
約9年間に及んだ安倍・菅政権による腐敗にコロナ禍の失政も重なり、今回の選挙で野党共闘による政権交代を夢見た人々は大勢いたことでしょう。
しかし、そのような結果にはなりませんでした。
単純に議席数の増減だけを見れば、与党(自民・公明)は-12と減らしたものの、野党共闘に参加した4党(立憲・共産・社民・れいわ)も同様に-13と減少。一方、維新は+30で大躍進という結果に終わりました。
<参考:2021年 衆議院選挙 政党別の議席数 増減>
与党 :-12(内訳:自民 -15、公明 +3)
野党共闘4党 :-13(内訳:立憲 -13、共産 -2、れいわ +2、社民 0)
他2党:+33(内訳:国民 +3、維新 +30)
その他:-4(内訳:NHK -1、諸派 -1、無所属 -2)
*欠員4名の状態で選挙を迎えたため、増減数は一致しない
*選挙結果はNHK特設サイトが見やすいです。
そして、野党共闘に参加した4党(立憲・共産・社民・れいわ)がトータルの議席数を減らした点だけに着目して、「野党共闘は失敗だった」「共産党と協力したために支持者が離れた」と主張する報道やツイートが選挙直後から目立つようになりました。
私が確認した中で最も早いものでは投開票の当日夜の選挙特番でその布石は見られました。
テレビ東京系列「池上彰の総選挙ライブ」で立憲・共産の幹部(福山哲郎氏、小池晃氏)と中継を繋いで「野党共闘は成功?失敗?」とテロップを表示した上で、視聴者に対して「共産党も参加する野党共闘に賛成か反対か」と質問。過半数を超える63%が反対という結果を示して、「共産党との野党共闘に反対する民意があったから野党共闘は失敗した」と視聴者をミスリードしようという明確な悪意が感じられました。しかも、不思議なことに池上彰氏も大江麻理子アナウンサーも「野党共闘に4党が参加する中、なぜ共産党の参加だけを問題視する設問にしたのか」は一切説明せずに質問を提示したので、共産党への偏見を助長する意図もあったのだと伺えます。
また、新聞報道においても今回の野党共闘は失敗だったとミスリードを誘う記事が相次ぎました。特に日経新聞は「データで見る」と見出しに謳った通り、数値データで詳細に検証したにもかかわらず、野党が候補者を一本化した効果は低かったと結論づけています。
日経新聞「データで見る野党共闘5野党、一本化の勝率28%」2021/11/1
毎日新聞 「「民主王国」愛知、野党共闘があだに 労組、共産との接近に警戒」2021/11/1
読売新聞「野党共闘は不発、立民・枝野氏に責任論も」2021/11/1
西日本新聞「野党共闘「一定の効果」止まり 政権交代に力足りず、共産との連携課題」2021/11/1
朝日新聞「野党誤算、振るわぬ共闘 217選挙区一本化、上積み小幅 衆院選」2021/11/2
本当でしょうか??
野党共闘は失敗だったのでしょうか??
4党(立憲・共産・社民・れいわ)がトータルの議席数を減らした原因は、共産党と協力したからでしょうか??
前置きが長くなりましたが、今回のニュースレターではこの疑問を多角的に検証したいと思います。具体的には、野党4党(立憲・共産・社民・れいわ)が候補者を一本化した小選挙区に着目して、前回(2017年)との勝敗の変化を比較。候補者一本化が小選挙区の戦いにどのような影響を与えたのかを示します。
前提条件(野党統一候補の定義)
・候補者一本化の定義は、野党4党(立憲・共産・社民・れいわ)の所属候補もしくは推薦や支持を受けた無所属候補の1名のみが小選挙区に出馬していること。
・無所属の野党統一候補は計4名(推薦を受けた新潟5区米山隆一氏、支持や支援を受けた茨城1区 福島伸享氏、埼玉8区 小野塚勝俊氏、徳島1区 仁木博文氏)と見なす。
・国民民主党は共通政策に合意していないため野党共闘に含めない。
・野党が候補者を一本化した小選挙区は「217」とする報道が多いが、本検証では上記の定義に従い、野党が候補者を一本化した小選挙区は「220」と見なす。数値が3つ多い理由は、明確な推薦を受けていない無所属候補3名(福島氏、小野塚氏、仁木氏)も本検証では野党統一候補と見なしたことが原因と考えられる。
前提条件(検証手法)
・小選挙区に限って検証する理由は、野党共闘の最重要施策である「小選挙区の候補者一本化」の効果に焦点を当てるため。
・比例を検証対象から外した理由は上記に加えて、希望の党(野党共闘に参加した立憲民主党と野党共闘に参加していない国民民主党に現在は分断)の扱いが難しく、2017年との比較が困難なため。
・2017年に野党4党が候補者を統一したか否かは考慮しない。希望の党(野党共闘に参加した立憲民主党と野党共闘に参加していない国民民主党に現在は分裂している上、2017年に希望の党から出馬・落選後はどちらにも属していない候補者が多い)の扱いが難しく、比較が困難なため。
・得票率や惜敗率は今回の検証では考慮しない。(単にマンパワー不足のため。今後、追加で検証する可能性はあり)
全289小選挙区の結果一覧
本検証の元データとなる全289小選挙区の結果の一覧をまず示します。今回の検証は全てこの一覧化したデータをもとに進めます。
各列の内容は左から順に説明します。
選挙区:全289小選挙区を北海道から沖縄の順に記載
2017年 結果:2021年時点で野党4党(立憲・共産・社民・れいわ)に所属もしくは推薦・支持を受ける候補者の選挙結果を記載する。該当者がいない場合は「不出馬」とする
*例1:2021年時点で引退している場合は最後の所属政党で判断する。例えば、2017年に愛知5区で勝利した立憲・赤松広隆氏は立憲所属のまま2021年に引退したため、2017年の同区の結果は「勝利」と見なす。
*例2:2017年に長野3区で勝利した希望・井出庸生氏は2021年時点で自民所属のため、2017年の同区の結果は共産党候補の結果を採用して「敗北(落選)」と見なす。
2021年 候補者一本化:野党4党が候補者を一本化できた場合は「●」、複数の候補者が出馬した場合は「×(複数出馬)」、該当者が出馬していない場合は「-(不出馬)」と記載する。
2021年 結果:野党統一候補の選挙結果を記載する。
2021年 統一候補:野党統一候補の氏名、所属政党を記載する。複数出馬した場合、該当者が1名もいない場合は「-」と記載する。
2021年 当選者:小選挙区で勝利した候補者の氏名、所属政党を記載する。
一覧を確認する際、候補者を一本化できた場合に2017年と比較して結果が改善しているかに注目してください。
©︎2021 Jun Inukai
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この一覧をざっと眺めると、候補者を一本化できた場合は前回は落選(赤)だった小選挙区が勝利(青)に変わってるケースが散見される一方、候補者を一本化できなかった場合はほとんど結果が改善しないことが感覚的に分かるかと思います。維新が躍進した大阪など一部地域で例外はありますが。
次は、具体的な数字で確認してみましょう。
候補者一本化による勝敗への影響
2021年の衆院選で野党4党が候補者を一本化した220小選挙区、一本化できなかった69小選挙区の2グループに分けて、2017年と2021年で野党4党の立場から見た勝敗がどのように変化したのかを以下のスライドで示します。
©︎2021 Jun Inukai
まず、2017年の結果(上段)をおさらいしておくと、候補者を一本化できなかった69小選挙区は落選が実に84.1%を占めており、もともと野党にとって不利な場所という前提があります。一方、候補者を一本化した220小選挙区は落選は55.9%でほぼ五分五分の戦いをしており、今回の候補者一本化は勝てる見込みの高い場所で集中的に行われたのだと推測できます。
2021年の結果(下段)に目を移すと、左側の候補者を一本化できた小選挙区では、勝利(青色)が5.4ptも向上していることが目を引きます。
一方、右側の候補者を一本化できなかった小選挙区も勝利(青色)は2.9pt向上していますが、一本化した場合の数値には及びません。また、最も象徴的なのは比例復活(黄色)が8.7ptも低下していることです。これは複数候補が乱立することで惜敗率が下がり、比例復活が難しくなったためと考えられます。
*惜敗率:小選挙区で敗れた場合、当選者の得票数に対する自らの得票数の割合。比例名簿で同一順位の場合は惜敗率が高い順に復活当選する仕組みのため、惜敗率が高いほど比例復活の可能性が高まる。
ただ、これだけでは各小選挙区において前回の選挙結果がどのように変化したのかまでは見えてきません。そこで、次はパターン別の数値を確認してみましょう。
2021年の候補者一本化の有無という2パターンに対して、2017年の野党4党の結果3パターン(勝利、比例復活、落選)を掛け合わせて、6パターンに分けて2017年と2021年の変化を以下のスライドで示します。
*先ほどのスライドは割合(%)でしたが、こちらは実数(小選挙区の数)である点にご注意ください。
*2017年に野党統一候補(2021年時点で4党に所属もしくは推薦・支持を受ける候補者)が不出馬だった3件(岩手2区、新潟5区、愛知7区)は省略します
©︎2021 Jun Inukai
「2021年 候補者一本化」 × 「2017年 勝利」の場合(上段 左)
前回は勝利した47小選挙区のうち、10は比例復活、8は落選に悪化しています。前回も勝利できたのだから候補者一本化した今回は全勝しても良いのではと思われるかもしれませんが、この中には特殊な事情を抱えている小選挙区も含まれており、末尾で補足したいと思います。
「2021年 候補者一本化」 × 「2017年 比例復活」の場合(上段 中央)
前回は比例復活した48小選挙区のうち、14が勝利に改善しています。それを上回る17が落選に悪化していると思われるかもしれませんが、下段の一本化できなかった場合(8小選挙区のうち5が落選に悪化)より優れているのは明らかではないでしょうか。
「2021年 候補者一本化」 × 「2017年 落選」の場合(上段 右)
このパターンは今回の野党共闘で最も注目を集めた小選挙区の塊です。前回は落選だった123小選挙区のうち、15で勝利、14で比例復活とひっくり返しました。しかも、前回は同じ相手にダブルスコアの大差で敗れたにもかかわらず、野党統一候補として臨んだ今回は勝利したケースが幾つもあり、大番狂わせといえる成果を挙げました。候補者や対戦カードに焦点を当てた補足は後ほど末尾で記載します。
「2021年 候補者一本化できず」 × 「2017年 落選」の場合(下段 右)
そして、このパターンも注目に値します。
前回は落選した58小選挙区のうち、不出馬(野党統一候補の定義に当てはまる候補者が出馬してない)7は除外して考えるとして、結果が改善したのはわずか1小選挙区で、しかも比例復活のみ。候補者を一本化した場合は一気に勝利へとひっくり返した小選挙区が15もあったのに、一本化できなかったこちらのパターンではゼロ。候補者一本化の威力は歴然です。
候補者を一本化することで、同一の小選挙区の結果がどのように変化したのか、さらに具体的に確認して見ましょう。
2021年の候補者一本化の有無という2パターンに対して、2017年と2021年の結果(勝利、比例復活、敗北)の変化を表形式で整理し、影響(改善、現状維持、悪化)を円グラフで示したのが以下のスライドです。
*検証をシンプルにするために不出馬は除外(2017年結果は3件、2021年結果は7件が該当)
©︎2021 Jun Inukai
左側の表に対して斜め方向に引かれた点線は現状維持を意味しており、2017年と2021年の結果が同じため改善も悪化もしていないと解釈しています。
つまり、表の右上(2017年は勝利だったのに2021年は比例復活や落選になった、等)は結果が悪化しており、表の左下(2017年は落選や比例復活だったのに2021年は勝利した、等)は結果が改善していると捉えることができます。
この判断に基づいて改善・現状維持・悪化を整理した円グラフを見ると、候補者を一本化した小選挙区(上段)では、現状維持を64%に抑えており、前回(落選が55.9%)の結果を着実に塗り替えていることが分かります。しかも、改善(20%)が悪化(16%)を4pt上回っており、野党の力を強めながら勢力図を塗り替えているという点が非常に重要です。
一方、候補者を一本化できなかった小選挙区(下段)では、そもそも前回は落選が84.1%と惨敗している上に現状維持が87%を占めています。つまり、野党4党が負けまくっている小選挙区であるにもかかわらず、そうした劣勢を全く挽回できていません。さらに最悪なことに、悪化(8%)が改善(5%)を3pt上回っており、すでに負けまくっている状況に追い討ちをかけられるようにさらに負けが増えています。
いかがでしょうか??
ここまで計3枚のスライドで示した内容を見れば、「野党共闘は失敗だった」「共産党と協力したために支持者が離れた」と主張する報道は実態と大きくかけ離れていることがご理解頂けるのではないでしょうか。
比例票は本検証の対象外としているので言及できませんが、小選挙区における候補者一本化は勢力図を塗り替える上で絶大な効果があったことは明らかでしょう。
政党別の野党統一候補の結果
しかし、今回の検証で選挙結果を細かく確認していく中で、候補者一本化についても多くの課題があると感じられました。その問題意識を皆さんと共有するために、野党統一候補の勝敗を所属政党別に整理し直したグラフを以下のスライドで示します。
©︎2021 Jun Inukai
数値化すると政党ごとのコントラストが想像以上に鮮明で、個人的には今回の検証で最も衝撃を受けました。当然ながら知っていた方も多いとは思いますが、要は一言でいえば立憲の一人勝ちです。
*無所属は対象者が4名とサンプル数が少ないので、いったん除外して考えます。
ここまでの検証で候補者一本化によって小選挙区の結果が改善したと述べましたが、その恩恵を平均値以上に受けているのは立憲民主党のみです。
他3党(共産、社民、れいわ)は、全体平均の勝利の比率(26.8%)、比例復活の比率(18.6%)に遠く及びません。
唯一の野党共闘の小選挙区として山口4区(安倍元総理の地盤)を与えられた れいわ新選組に至っては、「勝てる見込みがない場所を押し付けられただけ」という趣旨の発言を山本太郎代表が公の場で繰り返しており(実際、その通りなのでしょうが・・)、4党の公平性は大きな課題だと考えられます。
特に、47名もの野党統一候補が小選挙区から出馬しながら勝率がわずか2.1%(勝利は沖縄1区 赤嶺政賢氏 1名のみ)の共産党については、今回の検証を通して大変気になった点があります。
その懸念を皆さんと共有するために、冒頭に示した全289小選挙区の一覧表において、共産党が野党統一候補として出馬した47小選挙区を抽出した結果を以下に示します。
©︎2021 Jun Inukai
©︎2021 Jun Inukai
何か気づくことはありませんか??
一番右側の当選者の列に注目してみてください。
名字で判断できる通り有名議員の子息である2世議員や3世議員の名前が次々に出てきますし、候補者自身が現役の閣僚クラスというケース(梶山弘志氏、茂木敏充氏、小泉進次郎氏、西村康稔氏、二階俊博氏、石破茂氏、岸信夫氏、等)も多いです。
つまり、一族で何代も世襲を繰り返して強固な地盤を築いていたり、本人が閣僚クラスで高い知名度を誇っており、野党候補が勝利するのは非常に困難な小選挙区ばかりです。
一方、冒頭に示した一覧を見れば分かる通り、共産党の4倍近い162名が野党統一候補として出馬した立憲民主党の小選挙区では、ここまで閣僚級の名前が続くことはありません。一部の小選挙区(東京8区 石原伸晃、神奈川13区 甘利明)で閣僚クラスを倒したことが大きな話題になりましたが、逆に言えばその2ヶ所以外では、そもそも閣僚クラスとの対決自体が共産党と比べるとかなり少ないです。
あくまでも私個人の想像ですが、勝てる見込みの低い小選挙区に大勢の共産党候補者が追いやられているのでは??と勘ぐってしまいます。
6名が野党統一候補として出馬した社民党も確認しておきましょう。
©︎2021 Jun Inukai
候補者は6名しかいないのに、対戦相手には閣僚クラスが2名(河野太郎、武田良太)もおり、やはり厳しい小選挙区を与えられたという印象を受けます。
候補者一本化が大きな効果があることは明らかなので、野党4党(立憲・共産・社民・れいわ)がより公平な形で選挙区を調整していくことが大きな課題であると改めて感じます。
参考:野党共闘は失敗だったと主張するツイート
参考として、野党共闘は失敗だったという主張にどのようなものがあったのかを紹介しておきます。
大阪の人は新自由主義が好きなんかね。小泉改革で痛い目に合わされたのを忘れたんかねえ
未登録者への公開内容は以上になります。
かなりの労力をかけて取り組んだ今回の検証を全体に公開した意図としては、「野党共闘は失敗だった」という誤った認識が広まることを少しでも食い止めたいからです。
私の気力と体力の問題で今回は惜敗率や得票率に言及できていないのは心残りですが、私の検証結果にある程度は納得できたという方、価値を感じたという方は、ツイートやシェアで紹介をお願いします! リンク先を紹介するだけでなく、ご自分のコメントも交えて紹介して戴けると拡散しやすいので大変ありがたいです。
これ以降の有料購読者限定のエリアでは、先ほどは簡単な説明で済ませた6パターン別(2021年の候補者一本化の有無2パターン × 2017年の結果3パターン)の内容について、一覧表から該当箇所を抽出しながら、小選挙区や候補者にも触れながら詳しく見ていきます。
ここまでで重要な結論や問題意識の大半は書いており、ボリュームとしても既に全体の7割以上は公開していますが、さらに詳しい情報を知りたい方は有料購読者に登録の上、続きをお読み下さい。