学級閉鎖を減らすために基準を変更した横浜市(1)
*今回の内容は横浜市に限らず他自治体にも波及する恐れがあり、情報の公共性が非常に高いと判断したため、全体の9割以上の内容を未登録者にも無料公開します。同じ問題意識を感じた方はツイートやシェアで紹介をお願いします。
こんにちは。犬飼淳です。
横浜市は 2022年1月下旬から2月上旬にかけて、市立学校の休校や学級閉鎖を避けるために判断基準を変更しました。今回のニュースレターではこの基準変更をめぐる問題について、関連資料や4月7日の市長記者会見の質疑をもとに整理していきます。
経緯
まず、これまでの経緯をおさらいします。
2022年年2月4日
山中竹春市長は記者クラブのみを対象に開いた会見で救急搬送が困難になっている事案の調査結果を発表。休校・休園によって子育て中の医療従事者の出勤が困難になったことを理由に挙げた病院は16%にとどまったにもかかわらず、横浜市や大手メディアはあたかも主要原因であるかのように喧伝。
2月4日 会見資料
同年2月8日
山中市長は記者クラブのみを対象に開いた会見で学級閉鎖や休校が原則行われないように1月下旬から2月上旬にかけて判断基準を段階的に変更したことを説明。
2月8日 会見資料
同年3月以降
学級閉鎖・休校は基準変更前の1割程度まで激減。
学級閉鎖数の推移(井上さくら市議が医療局に請求して入手)
しかし、市立学校の教職員・児童の陽性者数は高止まりしたまま。
横浜市内の陽性者数と市立学校陽性者数(井上さくら市議が医療局に請求して入手)
つまり、見かけ上の数字(学級閉鎖・休校)は改善したが、学校に通う教職員や児童が高い感染リスクに晒される事態が発生。この状況は4月以降も継続中。
*横浜市は 2回(2月4日、2月8日)の会見を記者クラブのみを対象に開いた上、説明資料を一般公開しないため、フリーランス記者である筆者が会見資料を入手するまでに2ヶ月もの時間を要した。(最終的には井上さくら市議を介して入手)
*横浜市 報道担当にはフリーランスにも会見の開催情報を連絡するよう繰り返し求めているが、市は正当な理由を示さないまま拒み続けている。詳細は、リンク先のスレッドを参照。
文字起こし
こうした状況を踏まえて、私は4月7日の横浜市長定例記者会見でこの問題を質問し、山中市長の意図を問い質しました。以下、その質疑を文字起こしします。
表記の注意事項
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発言者名は【】で囲んで記載する
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筆者が重要と判断した箇所は太字で記載する
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用語解説や背景知識が必要な場合は * で補足説明する
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現地の様子は適宜( )で補足説明する
【フリー 犬飼淳】フリーランスの犬飼です。よろしくお願いします。学校のコロナ対応に関連して、質問します。横浜市は今年の1月下旬から2月上旬にかけて、学級閉鎖や休校を極力避けるという方向性で判断基準を変更しました。その結果、2月の中旬以降は学級閉鎖や休校が一気に従来の1割程度に激減しております。しかし、肝心の子供や教職員の感染者数は高止まりしたまま。学校に通う子どもたちは高い感染リスクに晒され、非常に危険な状況を横浜市が自ら作り出してしまった面があると思っています。
(犬飼の質問中、司会の山下和宏 報道担当課長が山中市長に紙を手渡す)
*基準変更から2ヶ月が経過していたため、間接的な質問通告も兼ねて犬飼は会見 前夜に本件についてツイートしており、回答用の原稿が事前に用意されていたと見られる
【フリー 犬飼淳】市長は基準を変更した理由として、「救急搬送が困難な事案を分析した結果、学校や保育園の休校・休園によって、子育て中の医療従事者が出勤できないことが主な原因であると判明したから」と、我々フリーランスが呼んで頂けていない、記者クラブのみを対象にした会見で説明されたと、私も横浜市のウェブサイトに書かれているのを見て知ったんですけども。その判断の根拠となっている資料を先日ようやく確認したところ、市長のお話とは、かなり違う印象の内容が書かれていました。救急搬送を断った理由として、学校や保育園の休校・休園を挙げたのは全体の16%に過ぎない。選択肢の中で最も少ない回答数に属します。実際に回答が多かったのは、「コロナ病床の確保で一般病床が制限されたため」というのが54%でダントツの1位、次いで「クラスターなどによる院内感染者の増加」が35%で2位。つまり、学校や保育園とは全く別次元の理由が大半を占めている。それが、この救急搬送が困難な事例の調査データから読み取れる事実だと私は見ています。にもかかわらず、非常に小さな原因である休校や休園があたかも主要な原因であると山中市長は説明をされた。それはいったい何を根拠に説明されたんでしょうか?
【山中竹春 市長】まず、クラスター等が起こることに関しては当然対応しなければいけませんし、その他、要因に関して対応すべきだと思います。また、16%、2割弱という数字に関して、決して少ないものではないと思います。特にエッセンシャルワーカーの方が、医療者というのはエッセンシャルワーカーだと思うんですけども、その方々がですね、子供さんや学校全体で休校することによって、来られなくなるというお声も頂いておりましたし、その数字が2割弱という数字に出たと考えております。また、1つ目の質問なんですが、休校や学級閉鎖の基準を変更したことによってですね、学級閉鎖の数というのがかなり減らすことができました。当初の懸念はそうしたことをすることによって、むしろ、学級閉鎖がこれまでどおりであれば、学年全体で閉鎖していたところを、ある意味、虫食い状に閉鎖することによって、学級閉鎖の数が増えるのではないかということは懸念していたんですね。あるいは感染者数も増えるんではないかということを懸念しておりましたが、学級閉鎖の数についてもずっと下がったままですし、感染の数は高止まりはしていますが、こちらに関しては家庭内感染とか様々な理由が考えられますので、総じて社会機能の維持という観点から見ても今回の学級閉鎖の基準に関しては一定程度の役割を果たしているのではないかと考えております。
【フリー 犬飼淳】分かりました。一定程度の役割を果たしたと考えられていると。であればですね、今回の基準の変更によって、本来の目的であった病院の機能の維持にどの程度の効果があったのか普通は検証すると思うんですけど、そういった検証はされていますか?
【山中竹春 市長】(質問を理解できなかった様子で)病院の・・?
【フリー 犬飼淳】これ、もともと救急搬送が困難な事例が出ているところから始まった話だと思うので・・、
【山中竹春 市長】(犬飼の発言を遮って)ですから、学級閉鎖をかなり減らすことによって、それを理由とする医療者の休職というのが無くなったと普通は考えると思いますが。
【フリー 犬飼淳】それは・・、想像ですよね。学級閉鎖が減っているというのは数字で、私もデータとして貰っています。で、学級閉鎖が減ったことによって、親御さん、医療従事者が出勤できるようになって、医療搬送が困難な事例が減ったということを事実として認識しているんですか?
【山中竹春 市長】学級閉鎖を理由に休職されていた方が、学級閉鎖が減ったことによって、休職の数が減ったと考えるのは普通ではないでしょうか。
【フリー 犬飼淳】つまり、具体的に検証、確認はされていないと?
【山中竹春 市長】この件の検証は必要ないと思います。
【フリー 犬飼淳】必要ないと考えている。分かりました。ちょっと、この件に関連して、要望を伝えさせて下さい。今回の判断基準変更は、記者クラブの方のみを対象にした会見で伝えられたと思うんですけど、その説明に使われた資料は私が探した限りでは横浜市のウェブサイトでも公開されていませんでした。そのため、私は会見で使われた資料を入手するのに2ヶ月もかかってしまいました。そうした会見の開催情報を我々フリーランスにも連絡してほしいと要望し続けて、それは難しいという話があるのは分かるんですけども、せめて会見で説明された資料は、事後で構わないので横浜市のウェブサイトで一般公開して頂けませんか? それは、そんなに難しい話ではないと思うので、ご検討頂けないでしょうか?
【山中竹春 市長】そちらに関しては、検討するように致します。
【フリー 犬飼淳】ありがとうございます。終わります。
文字起こしは以上です。
読めば分かる通り、山中市長の回答はツッコミどころ満載です。他にも質問したい記者が控えていたため会見中は細かい指摘は省きましたが、特に気になった点を以下に列挙していきます。
目的と手段の混同
まず、山中市長は学級閉鎖数が減ったことをまるで成果のように語っていますが、これは本末転倒です。その矛盾は以下の一文に如実に現れています。
「休校や学級閉鎖の基準を変更したことによってですね、学級閉鎖の数というのがかなり減らすことができました。」
学級閉鎖や休校を避けるように基準を変更したのだから、学級閉鎖が減るのは当たり前です。
感染原因を学校から家庭へ責任転嫁
児童の感染者数が高止まりしている件については、家庭内感染が原因だと決めつけていますが、その根拠は一切示せていません。
検証の放棄
学級閉鎖・休校の判断基準を変えるという重大な意思決定の検証を「必要ない」と断言していますが、この説明にもかなり無理があります。そもそも基準変更の根拠となった救急搬送が困難な事例の調査で原因の上位を占めていたのは、潜在的な感染者数が増えれば さらに深刻化する恐れがあるものばかりです。「コロナ病床の確保で一般病床が制限されたため」(54%)、「クラスターなどによる院内感染者の増加」(35%)など。感染者が出ても学級閉鎖・休校がされないことによって教職員・児童・保護者の感染リスクが高まり、これら上位の原因がさらに深刻化するのではと考える方が普通ではないでしょうか。
本件を現時点で総括すると、横浜市が結論(=学校は極力閉めない)ありきで物事を進めたことは明白です。主張の裏付けに十分なデータを用意できなかったため、懐柔してきた記者クラブのみに詳細を伝え、意向通りの内容を報道させ、教職員・児童・保護者を高い感染リスクに晒し続けています。
今回の本編は以上になります。
同じ問題意識を感じた方は、ツイートやシェアで紹介をお願いします! リンク先を紹介するだけでなく、ご自分のコメントも交えて紹介して戴けると拡散しやすいので大変ありがたいです。
以降は、この問題に関連する参考情報を掲載します。
参考:関連資料
✳︎これらの資料を筆者は井上さくら市議を介して、4月上旬(会見から2ヶ月遅れ)に入手
✳︎モザイク加工している箇所は井上市議が説明を受けた際のメモ(モザイクをかけた意図は、一部に不正確な内容があり誤解を避けるため)
2月4日 会見資料
2月4日に山中市長が記者クラブのみを対象にした記者会見で説明した資料 全9枚。フリーランスである筆者はこの会見から排除されており、当日の説明を直接聞けていないが、資料から読み取れる内容は適宜 注釈(✳︎)で補足していく。
2月4日 会見資料1枚目
2月4日 会見資料2枚目
2月4日 会見資料3枚目
✳︎冒頭の経緯で紹介した資料と同一。救急搬送が困難になっている事案の調査結果。休校・休園によって子育て中の医療従事者の出勤が困難になったことを理由に挙げた病院は16%に過ぎないことが読み取れる。
2月4日 会見資料4枚目
✳︎会見日(2月4日)よりも前の1月28日から学年閉鎖や休校は原則行わない方針に変更されていたことが読み取れる。
2月4日 会見資料5枚目
✳︎1月28日から学年閉鎖や休校は原則行わない方針に変更されたことを受けて、1月28日〜2月3日にかけて学年閉鎖・休校が減少していることが読み取れる。
2月4日 会見資料6枚目
✳︎文字として明記はされていないが3項目の並べ方から判断して、コロナ下の新基準(中央)ではインフルエンザ下の基準(右側)に合わせるという考えが読み取れる。
2月4日 会見資料7枚目
2月4日 会見資料8枚目
2月4日 会見資料9枚目
✳︎資料からは「キット」が何を指すのか不明だが、会見に参加した大手メディアの報道から判断して、PCR検査キットではなく抗原検査キットだと考えられる
2月8日資料
2月8日に山中市長が記者クラブのみを対象にした記者会見で説明した資料 全2枚。フリーランスである筆者はこの会見から排除されており、当日の説明を直接聞けていないが、資料から読み取れる内容は適宜 注釈(✳︎)で補足していく。
2月8日 会見資料1枚目
✳︎1月27日までの従来基準(=ver.1)、1月28日から2月8日までの新基準(=ver2)、2月9日以降の新基準(=ver3)と段階的に判断基準を変更したことが読み取れる。
2月8日 会見資料2枚目
✳︎1月28日から学年閉鎖や休校は原則行わない方針(=ver2)に変更されたことを受けて、学年閉鎖・休校が減少していき、2月6日以降は遂にゼロになったことが読み取れる。
医療局 提供資料
2月11日に井上市議が本件を担当する医療局に要求した資料 全5枚。資料から読み取れる内容は適宜 注釈(✳︎)で補足していく。
医療局 提供資料 1枚目
✳︎救急搬送を断った理由について、7つの選択肢から上位3つの理由を選び、1〜3位を明記する形式。しかし、2月4日会見資料に順位に関する調査結果が見当たらず、詳細不明。筆者の想像だが、休校・休園を1位や2位に選ぶ回答が少なく、主要原因でないことがさらに浮き彫りになることを避けるため、順位はあえて記載しなかったのでは。
*(2022/4/11 追記)市民の開示請求によって上記の推測は正しかったと判明。順位による重み付けを反映すると、「休校・休園」は7つの選択肢の中で合計点数が最も低い。詳細は市民のツイート参照。
医療局 提供資料 2枚目
✳︎「保育園、学校が休校のため出勤できない」を選んだ病院は16%に過ぎないことが読み取れる。割合が最も高いのは「コロナ病床確保のため」と「一般救急が増のため」の54%であり、休校・休園とは別次元の問題が主要原因であることを明確に示している。
✳︎「2月4日 会見資料 3枚目」でまとめられた調査結果では、選択肢を4つに絞って記載している上、「院内感染者の増加(クラスターを含む)」が35%として記載されており、本資料(院内クラスター16%と職員の陽性者増27%を合計すると43%)と不整合が見られる
医療局 提供資料 3枚目
✳︎1月28日(ver2)、2月9日(ver3)の段階的な基準変更を経て、2月13日以降は学級閉鎖数は基準変更前の1割程度の水準に激減したことが読み取れる。
医療局 提供資料 4枚目
✳︎3枚目と酷似した資料だが、期間がやや長い。(1月10日〜21日、3月11日を含む)
医療局 提供資料 5枚目
✳︎軸が2つあり非常に分かりにくいグラフだが、薄い青と左側の縦軸は横浜市全体の陽性者数を示し、濃い青と右側の縦軸は教職員・児童の陽性者数を示していると思われる。学級閉鎖が激減した2月中旬以降も、教職員・生徒の陽性者数(=濃い青)は高止まりしていることが読み取れる。つまり、見かけ上の数字(学級閉鎖・休校)は改善したが、学校に通う教職員や児童が高い感染リスクに晒され続けている。
参考:大手メディアが報じた内容
2月4日と2月8日の記者クラブ(横浜市政記者会、横浜ラジオテレビ記者会)のみを対象にした記者会見に参加し、資料の説明も受けたはずの大手メディアが本件を報じた内容を以下に列挙します。
根拠となっている救急搬送困難事例の調査で「休校・休園」を理由に挙げた病院は16%にとどまることには一切言及せず、横浜市の主張に沿った内容を記載。
上位の回答(コロナ病床確保による一般病床の制限53%、院内感染者の増加35%)をなぜか完全無視して、あえて下位の回答(濃厚接触者の増加27%、休校・休園 16%)だけに言及。
動画の6分20秒〜9分10秒にかけて、山中市長の判断は「保護者の負担を下げるため」「オミクロンに対応するため」とあたかも英断かのように小西美穂 解説委員が説明し、スタジオの藤井貴彦アナウンサーも同調。ただ、記事本文には救急搬送困難事例の原因の数字を細かく記載しているため、読者が注意深く読めば違和感に自ら気付ける余地は残されている。
*これ以降のエリアでは会見質疑の個人的な振り返り、今後の方針などを限定公開します。