カタールW杯 人権問題の報道姿勢から見える、海外と日本のメディア・アスリートの決定的な違い

サッカー カタールW杯の海外と日本の報道姿勢を通して、メディアやアスリートの違いを浮き彫りにします
犬飼淳 2022.11.28
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サッカーのカタールW杯が11月20日に開幕し、観戦を楽しんでいる方も多いと思います。今回はそうした熱狂に水を差す内容になってしまいますが、この機会に国内と海外のメディアの報道姿勢の違いについて言及したいと思います。

大前提として、今回の開催国カタールは深刻な人権問題や不正疑惑を抱えています。

  • 移民労働環境が劣悪。スタジアム建設など大会のインフラ整備に従事した移民労働者に死亡者が出ている

  • LGBTQ差別が続いている。同性愛や同性愛を広めること自体が禁止されており、罰金や死刑判決の可能性があるため、現地観戦を諦めるLGBTQのサッカーファンが多い

  • 招致不正(FIFAへの贈収賄など)の疑惑がある

*イギリスのガーディアンはW杯招致決定後のカタールの移民労働者死者数が6500人以上と報道 

*LGBTQ差別や招致不正についてはBBCを始め海外メディアが繰り返し報道

サッカーが盛んな国の欧米メディアであっても、こうした開催国の問題に厳しく言及している一方、日本のW杯報道は「お祭りムード一色」で問題の存在に気づくことすらできません。

そこで今回のニュースレターでは、W杯開幕直前の海外メディアと国内メディアの報道を調査しました。具体的には、問題に言及した報道の割合、具体的な報道内容を比較することで、アスリートや芸能人の政治的発言に対するスタンスの決定的な違いも明らかにしていきます。

調査方法

<対象期間>

カタールW杯開幕前日までの1週間(2022年11月13日~19日)

*開幕後は必然的に試合結果の報道が多くなるため、問題意識があれば最も積極的に報道するであろう開幕直前を選定

<対象メディア>

海外(欧米、中東)、国内のメディアを計3社選定

BBC(イギリス)

*本来であれば従来よりW杯報道に熱が入る背景があるため欧米メディアの代表として選定。イングランドが昨年のEUROで準優勝したほど戦力が充実しているうえ、64年振りの出場を果たしたウェールズとグループステージ同組で「イギリス対決」にも注目が集まる

アルジャジーラ(カタール)

*中東メディアの代表として選定。カタール資本で設立され、現在も本社はカタールのドーハ

・NHK(日本)

*建前上は「公共放送」として「営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送」を掲げているため、国内メディアの代表として選定

<調査方法>

対象期間中の対象メディアによるカタールW杯関連報道(ウェブサイトで確認可能な分のみ)を全て確認し、見出しと記事内容をもとに以下2つに分類して、それぞれの比率を算出する

  • 人権(移民労働環境、LGBTQ差別)、招致不正、報道規制 等の問題への言及あり *カタール側の主張の代弁か否かは問わない

  • チーム・選手紹介、サポーターの声、現地紹介 等の大会を盛り上げる内容に終始 *ネガティブなテーマ(気候、ホテル、渋滞、アルコール販売)に触れても上記の問題に言及がない場合はこちらに含める

調査結果

ある程度は想像できた結果ではありますが、各メディアの報道姿勢には歴然とした差が現れました。

©️2022 Jun Inukai

©️2022 Jun Inukai

普段以上にW杯に熱狂するだけの背景があるイギリスのBBCですら、問題に言及する報道が52.5%と半分以上。今回は厳密な調査は省いた他の欧米メディア(CNN 等)もおおむね似た状況です。

カタール政府との関係が深いアルジャジーラがW杯を盛り上げる報道に終始するのは当然とも言えますが、それでも問題に言及する報道も14.3%とわずかながら存在します。(ただし、カタール政府側の主張を代弁する内容が大半)

そして、唯一 問題に言及する報道が0%だったのが、日本の「公共放送」であるはずのNHK。民法(日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビ 等)もほぼ同じ状況なので、NHKに限らず国内メディア全体が「お祭りムード一色」と言えます。

さらに、各メディアの報道内容の中身まで見ると、その差はさらに鮮明になります。海外メディアでは、現役選手(ガレス・ベイル、ブルーノ・フェルナンデス 等)、OB(ゲイリー・リネカー、テリー・ブッチャー 等)、芸能人(デュア・リパ 等)らが問題点について当然のように意思表示する姿に筆者自身が驚かされました。率直に言って、批判精神や視野の広さという点で「大人」と「子供」と呼んで差し支えないほどの差を日本との間に感じてしまったのです。その原因の一つはメディアの報道姿勢の違いも関係しているように思えます。たとえ4年に1度のサッカーW杯であっても問題点があれば指摘する海外メディアと、ひたすら「お祭りムード一色」を演出して国民の目を問題点から背けさせる国内メディア。

これから紹介する具体的な報道内容の一覧(BBC 全40件、アルジャジーラ 全14件、NHK 全17件)をご覧頂ければ、その意味を理解して頂けるはずです。

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続きは、13303文字あります。
  • BBCの場合
  • アルジャジーラの場合
  • NHKの場合
  • 参考:BBC記事
  • 参考:アルジャジーラ記事
  • 参考:NHK記事

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