【都知事選2024】蓮舫氏「2位じゃダメ」発言 15年越しの真実

蓮舫氏が「2位じゃダメなんですか」と発言した次世代スパコン事業仕分けの行政刷新会議(2009年11月13日)。全72分間の議論を徹底的に検証し、「報道が作り上げた虚像」と「現実」のギャップを明らかにします。
犬飼淳 2024.06.09
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*1ヶ月後(7月7日)に投開票の都知事選に関わるため、前半(概要)は誰でも読めるようにに公開します

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この記事を書いた理由

  • 都知事選に立候補を表明した蓮舫氏をめぐって、過去の「2位じゃダメなんですか」発言を持ち出して揶揄する情報発信が散見される

  • しかし、同発言に対して多くの国民が抱くイメージは、テレビの切り取りによって歪められた虚像である

この記事で理解できること(前半)

  • 同発言をめぐる「報道が作り上げた虚像」と「現実」のギャップの概要

この記事で理解できること(後半)

  • 同発言があった行政刷新会議(2009年11月13日)の質疑全32件の概要(質問・回答の要約、現地の様子)

  • 同会議の議論の流れ(「評価者の指摘」に対する「府省の主張」)

  • 同会議で世界1位の必要性に焦点が当たった質疑の詳細(府省は世界1位を目指す必要性をどのように説明したか

  • 未だに「虚像」を拡散するテレビ・新聞の報道内容

  • 蓮舫氏に対する「真っ当な批判」の例

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5月27日、蓮舫氏が東京都知事選挙(6月20日告示、7月7日投開票)への出馬を表明。その直後から、「2位じゃダメなんでしょうか?」という発言と共に蓮舫氏を紹介するテレビ・新聞の報道が相次ぎました。

すでに発言から15年近くが経過し、若い方はそもそも当時のことを知らないでしょうし、もしくは忘れている方も多いと思うのでまずは経緯をおさらいします。この発言は、民主党政権下の行政刷新会議(事業仕分け)で2009年11月13日9時30分~10時42分に開催された、次世代スパコン事業を対象とした第3WG(以降「当該会議」と記載する場合あり)で出たものです。

*事業仕分け:2009年に政権交代を果たした民主党政権の目玉政策の一つで、予算の無駄を無くすために事業の要否を評価者(国会議員および民間有識者)がシビアに判定する取り組み。各事業について1~2時間の制限時間の中で、担当府省からの説明、評価者との質疑応答、判定(廃止、予算計上見送り、予算要求の縮減、予算要求通り等)までがスピーディーに一気に行われたこともあり、大きな注目を集めた

下記資料に記載された通り、蓮舫議員は第3WG(文科省・農林水産省・防衛省などが分類)の評価者(いわゆる「仕分け人」)を務めていました。

行政刷新会議 評価者名簿 P1「国会議員」(2009年11月9日決定)

行政刷新会議 評価者名簿 P1「国会議員」(2009年11月9日決定)

次世代スパコン事業については、説明を担当した文科省と独立行政法人 理化学研究所(以降、2つの組織をまとめて「府省」と記載する場合あり)はスピードが世界1位になる重要性を訴えて翌年度(2010年度)予算として267億円(前年度比77億円増)を要求。

*事業仕分けの時点で545億円の国費を投入済み

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」配布資料P3

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」配布資料P3

府省側は「次世代スパコンは研究開発の基盤」「経済効果は約3.4兆円」等の謳い文句も用いて本事業の必要性を主張したものの、わずか72分間の当該会議終了時に下された判定は、事実上の凍結(=予算計上見送りに限りなく近い縮減)。この会議の中盤に蓮舫氏の「2位じゃダメなんでしょうか?」発言も飛び出しています。

その後、多くの方がご存じの通りテレビを始めとする大手メディアは、おおむね以下の筋書きに沿った映像をサブリミナルのように繰り返し放送したわけです。今回の都知事選出馬をきっかけに流れている過去の映像もおおむねこの筋書きに沿ったものです。

科学に疎い蓮舫議員が、

1位を獲るべき重要性を理解できず、

「2位ではダメなのか?」と府省を高圧的に質問した結果、

次世代スパコン事業を事実上の凍結とした。

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「報道が作り上げた虚像」と「現実」のギャップ

しかし、驚くべきことにこれは「報道が作り上げた虚像」であって、「現実」とは大きなギャップがあります。5W1Hでいうと、Who、Why、Howに大きなギャップがあります。両者のギャップを以下スライドに整理しました。

©️2024 Jun Inukai

©️2024 Jun Inukai

この通り、ギャップどころか真逆と言っていいほど、「虚像」と「現実」がかけ離れているのです。

しかし、全72分間の映像を通して観たことが無い方、もしくは全21頁の議事録を読んだことが無い方は、これまで「虚像」の方を信じていたはずなので、簡単には受け入れられないでしょう。そこで、5つの観点に分けて「虚像」と「現実」をさらに詳しく以下スライドに整理しました。

©️2024 Jun Inukai

©️2024 Jun Inukai

5つの観点について、本文で改めて説明します。

*これ以降に登場する「No」以降の数字は、質疑32件を時系列で採番した数字(No1~32)と対応。詳細は、後半で紹介するスライド「全質疑」(計7枚)に掲載

<事業見直しを主導したのは誰か>

一般的には、「科学に疎い蓮舫議員」であったという虚像が拡散されていますが、現実は真逆と言って良いほど異なります。

正しくは、「スパコンの利用者2名を含む参加者全員の総意」だったのです。

まず、当該会議の冒頭に予算担当部局である財務省が読み上げた、本事業予算の論点が1枚にまとめられた資料をご覧ください。

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」配布資料P5 論点等説明シート

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」配布資料P5 論点等説明シート

箇条書きの1~5点目まで不安要素(詳細は次項「事業見直しの理由」で紹介)が次々と挙げられ、最後の6点目で「プロジェクトを凍結し、戦略を練り直すべき」と結論付けています。誰がどう見ても、本事業の継続には全面的に反対しており、擁護する内容は一言も確認できません。

その後に始まった質疑においても、財務省は民間有識者に対して「基本的な枠組みが変更されたため、本事業は立ち止まって見直すべきでは」(No16)と自ら質問して期待通りの回答(立ち止まって見直すべき)を引き出すなど、終始一貫して本事業に否定的な姿勢でした。

また、当該会議の終了時に「事実上の凍結」と判定されたわけですが、その際に評価者(国会議員および民間有識者)が残したコメントをご覧ください。

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」評価結果P1

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」評価結果P1

ご覧の通り、全てのコメントが本事業の経緯や妥当性に疑問を呈しており、大幅な見直しを求めています。

必然的に、評価者12名の判定は以下の通り厳しいものになりました。

  • 廃止 1名

  • 予算計上見送り 6名

  • 予算要求の縮減 5名(半額3名、その他2名)

評価シートのフォーマットを確認すると、「予算要求通り」「実施は各自治体/民間の判断に任せる」という選択肢もありますが、それらは誰も選ばなかったということです。

行政刷新会議 評価シートのイメージ(2009年11月10日決定) *選択肢から判断して当該会議で採用したと見られるイメージ①のみ抜粋

行政刷新会議 評価シートのイメージ(2009年11月10日決定) *選択肢から判断して当該会議で採用したと見られるイメージ①のみ抜粋

全員が本事業継続に否定的なわけですから、最終的な結論は「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」(=事実上の凍結)となったわけです。

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」評価結果P2

2009年11月13日 行政刷新会議 第3WG 事業番号3-17「理化学研究所①次世代スーパーコンピューティング技術の推進」評価結果P2

さらに、この評価者にはスパコンの利用者である民間有識者も2名含まれていました。

  • 金田康正 東京大学大学院教授 *円周率の桁数計算で世界記録を次々と更新した実績あり

  • 松井孝典 東京大学名誉教授

*役職は当時

こうした民間有識者も本事業に否定的な結論を下したのです。というか、専門的な知見を持っているからこそ府省の説明の矛盾を見抜き、当該会議全体を通して最も厳しい意見を繰り返したのです。

行政刷新会議 評価者名簿 P4「民間有識者 第3WG」(2009年11月9日決定) *全22名のうち誰が当該会議に出席したかは不明。発言から出席を確認できるのは<b>金田氏、伊永氏、原田氏、松井氏、南氏、吉田氏の6名</b>

行政刷新会議 評価者名簿 P4「民間有識者 第3WG」(2009年11月9日決定) *全22名のうち誰が当該会議に出席したかは不明。発言から出席を確認できるのは金田氏、伊永氏、原田氏、松井氏、南氏、吉田氏の6名

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<事業見直しの理由>

一般的には、「蓮舫議員が1位を獲るべき重要性を理解できなかったため」という虚像が拡散されていますが、これも現実は真逆と言って良いほど異なります。

正しくは、「数々の不安要素を府省が説明で解消できず、見直しが妥当な状況だったため」です。

以下、不安要素の一例を列挙します。

  • 当初は独立行政法人の理化学研究所に民間のベンダー3社(富士通・NEC・日立)を加えた共同プロジェクトだったが、ベンダー2社(NEC・日立)が撤退。NECとは損害賠償を準備するほど関係が悪化し、産業界との関係再構築、ニーズ把握からやり直す必要がある状況だった *後にNECとの係争は現実化し、和解は2年以上後の2011年12月

  • ベクトル型に強みを持つベンダー2社(NEC・日立)の撤退と関連して、ハードが複合型(ベクトル型+スカラ型)からスカラ型へ抜本的に変更。ソフトを同時開発する意義に疑問符が付いた *スカラ型とベクトル型の違いは内閣府ウェブサイト参照

  • 仮に10ペタ(≒スピード世界1位)の性能を実現できても、アメリカ等の開発状況を加味すると他国にすぐ抜かれる可能性が高いため、日本が1位を維持できる期間は僅かである *ペタ:10の15乗(=1000兆)を表す接頭辞 *実際、2011年に日本のスパコン「京」は世界1位のスピードとなる10.5ペタを実現するも、1年後には抜かれている

  • それでも1位を獲るべき理由を約6回質問されたにもかかわらず、府省は最後まで「国民に夢を与える」等の抽象的な回答しかできなかった

これだけの不安要素が山積みでありながら、府省は「とにかく1位を獲りたい」「なぜならば、世界一は国民に夢を当てる」という曖昧な主張しかできなかったため、見直しが妥当な状況となったのです。

***

<「2位ではダメ」発言の発端>

一般的には、「蓮舫議員が「2位ではダメなのか」に固執した」という虚像が拡散されていますが、これも現実とは大きなギャップあります。

正しくは、「1位(=2位ではダメ)に固執したのは府省(文科省・理化学研究所)」です。

具体的には、蓮舫議員が「2位ではダメか」を問うた質問は計3回(No13、22、25)ありますが、それらの全ては直前の質問者が「1位を目指す理由(=2位ではダメなのか)」を質問しても府省が全く回答できないため、蓮舫氏が言葉を噛み砕いたり視点を変えて更問いしただけなのです。

ちなみに、1位になる必要性を最初に質問したのは泉健太議員(No12)でした。

***

<「2位ではダメ」発言の意味>

一般的には、「「1位になる必要性は無い」という事業見直しの宣告」という虚像が拡散されていますが、これも現実は真逆と言って良いほど異なります。

正しくは、「「スピードでは1位になれなくても、利用者の使い勝手も含めて競争すれば事業の価値を見出せるのでは」という事業継続への助け舟」でした。

この助け舟を蓮舫議員は3回以上(No20、25、29~30)も出しましたが、府省は1位を獲ることが目的化した回答を繰り返したため、事業見直しに至ったわけです。

ちなみに、事業仕分けの約2年後(2011年)に文科省・理化学研究所が完成させたスパコン「京」は、この助け舟と概ね同じ方向性で修正されており、蓮舫氏の助言は実に的確であったと言えます。

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<評価者の態度>

一般的には、「蓮舫議員が特に高圧的だった」という虚像が拡散されていますが、これも現実とは大きなギャップがあります。

正しくは、「蓮舫議員に高圧的な言動は皆無の一方、他の評価者には高圧的言動が見られた」です。

後ほど紹介する映像を観れば分かる通り、府省は質問を無視したかのような一方的な言い分の主張が目立ったため致し方ない面もありましたが、一部の評価者は府省に対して厳しい言動をとりました。以下、例を列挙します。

  • 泉健太議員が文科省への質問中に「(説明に)責任が感じられない」等と苦言(No8) 

  • 金田康正 東京大学大学院教授が事業発足時の目的を質問して文科省に回答させた後、「全く違います」「歴史的経緯を理解していない」と全否定した後、正確を逆にレクチャー(No10) 

  • 松井孝典 東京大学名誉教授が文科省への質問中に「説明が矛盾だらけ」「そんな馬鹿なことない」(No21)等と苦言

  • 中村卓進行役は府省の説明中に「前置きが長い」(No9)、「一般論ではなく具体的に」(No12)と注意したり、「そこから先は結構」(No26)、「話が噛み合っていない」(No27)と説明自体を打ち切る

どれも府省の態度を踏まえれば十分に理解できる範囲ではありますが、特に金田康正教授のように相手に説明させた後で全否定し、公衆の面前で正解を逆にレクチャーするという行為(=相手に恥をかかせる行為)は、見方によってはハラスメントと捉えられかねないものでしょう。

一方、全72分の映像を観れば明らかな通り、蓮舫議員は上記のように相手を責めたり、発言内容を否定したり、恥をかかせる言動は皆無です。しかし、あたかも蓮舫議員だけが高圧的だったかのように切り取り編集した映像をテレビは流し続けたわけです。それは、蓮舫議員がハッキリと意見を言う女性であることと決して無関係ではないでしょう。ちなみに、当該会議の発言者は蓮舫議員を除いて、全て男性。発言が無かった参加者も含めれば他にも2~3名の女性がいたことが映像で確認できますが、それでも全体に占める女性の割合は1割前後。圧倒的な少数派です。

また、時間制限があるため必要な行為ではありますが、質問と無関係な回答を繰り返す府省に対して中村卓進行役は「そこから先は結構」等と度々回答を打ち切らせていました。これは一瞬の出来事なので本来はテレビで最も切り取りやすい場面ですが、こうした場面がテレビ報道に使われることはありませんでした。同進行役が政治家ではなく役人であったことも関係するのでしょうが。

*中村卓氏は、内閣府 行政刷新会議事務局の立場で第3WGの進行役を務めた人物。現在、草加市副市長

***

ここまで説明した「報道が作り上げた虚像」と「現実」のギャップが全て事実であることは、以下の当該会議ノーカット映像(全72分)をご覧頂ければ一目瞭然です。せっかく本件にご興味を持ったわけですから、ぜひご自分の目で映像をお確かめください。

とはいえ72分の時間を捻出できない方や、映像を見る時間はあっても多少の専門知識を要するため議論についていけない方もいると思います。そうした方のために、後半では議論の流れを視覚的に整理したスライド(計11枚)を用意し、読者の理解を助けたいと思います。また、背景(テレビ・新聞の報道内容等)についても補足します。

後半の目次

  • 質疑全32件の概要

  • 議論の流れ ~評価者の指摘に対して府省は何と主張したのか~

  • 世界1位の必要性に焦点が当たった質疑 抜粋

  • 未だに「虚像」を拡散するテレビ・新聞の報道内容

  • 参考:蓮舫氏に対する真っ当な個人的批判

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