【独自】公文書が存在しない国立大学法人法改正案の検討プロセス(1)
このニュースレターはフリー記者の犬飼が「大手メディアが報じない読み応えのある検証記事」を月に4本以上(目安)配信します。皆さんの生活に影響する政策や報道の複雑な問題点を、正しく理解できるように分かりやすく解説しています。
サポートメンバー登録によって運営されており、利害関係に縛られず取材・検証を日々行っており、総理大臣記者会見にも出席しております。サポートメンバー登録(月額600円〜、いつでも解約可)いただくと、以下の特典を得られます。
-
80本超の有料記事を過去配信も含めて全て購読できる
-
記者会見での質問内容をリクエストできる
-
今後扱ってほしいテーマをスレッドで要望できる
サポートメンバーのおかげで私は継続しての運営が可能になり、より多くの報じられることのない事実を検証することができます。応援いただける方はぜひご登録をお願いいたします。
*ニュースレターの重点テーマ、特に反響が大きかった過去のコンテンツはリンクを参照ください
この記事を書いた理由
-
国立大学法人法改正案は日本の大学教育を崩壊させるほど問題だらけの上、従来の議論から大きく逸脱した法案内容の検討・意思決定プロセスが不明である
-
立法事実を示す公文書が存在しないことが2023年12月上旬に参議院で発覚して大問題になったが、文科省は最後まで公文書を公開しないまま12月12日に法案は強行採決されてしまった
この記事でわかること
-
運営方針会議の必置対象が拡大した経緯の一端
-
当面の対象である5法人(東北大学、東京大学、東海国立大学機構、京都大学、大阪大学)選定根拠の合理性
-
盛山文科大臣が立法事実を示す公文書について「速やかに作成する」と答弁してから約2週間後の進捗
臨時国会の閉会直前に与党が強行に成立させた国立大学法人法(以降、「国大法」と表記する場合あり)改正案は日本の大学教育を崩壊させるほどの問題点を抱えています。
*前提知識が無い場合、問題の全体像を整理した以下ニュースレターを先に参照下さい
この国大法改正案は従来案と比較して以下2点の重大な変更を含んでいますが、突然の変更の意思決定プロセスは今も不明です。
-
運営方針会議の必置対象が「国際卓越研究大学」(現時点の認定候補は東北大学1校)から「5法人(東北大学、東京大学、東海国立大学機構、京都大学、大阪大学)」に拡大 *運営方針会議は大学の自治侵害に繋がるため、正当な理由なく対象を拡大することは大問題
-
文科大臣の委員任命への関与が「法人の申出に基づき任命」から「承認が必要」に変更 *日本学術会議の任命拒否と同じ構図になるため、政権に不都合な人材の任命拒否が懸念される
*「運営方針会議」は「合議体」と表記する場合があるが、意味は基本的に同じ
2023年12月上旬の参議院にて、運営方針会議の必置対象の拡大を決定したのは同年5月24日の所管部門(文科省 高等教育局 国立大学法人支援課)の打ち合わせと判明したものの、文科省は当日の公文書を「作成していない」と主張。改正案の立法事実を示す公文書が無いことを意味するため、大問題になりました。
文部科学省の認識に呆れています。
理事懇が開けません。
その後、同年12月12日に委員長職権で強行開催された参議院 文教科学委員会でも当日の公文書は示されず、盛山正仁文科大臣は「速やかに作成する」と答弁するにとどまりました。
また、運営方針会議の当面の必置対象とされた5法人がどのように選ばれたのかも不明。2023年9月7日の総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会(以降「CSTI」)にて所管部門の井上睦子課長は以下のように説明しましたが、これは実態と大きく乖離しています。
「学生の収容定員の数、また、経常費、そして、教職員の数と、こうした経営の規模を表す要素を踏まえまして、この三つを考えて極めて大きいところ、今のところ5法人が特にやはり突出して大きいという状況になっております」
というのも、この基準(学生数、経常費、教職員数)で定量的に比較すると、突出して大きくない大学が紛れ込んでいるからです。つまり、「政府が恣意的に必置対象を選定できるのでは?」という懸念がすでに現実になっているのです。
これらの不明点を明らかにするため、筆者は(12月上旬に公文書不存在が発覚するより前の)11月20日(文科省の受付は11月22日)に以下2件を開示請求していました。
・2022年2月1日以降、国立大学法人法の一部を改正する法律案が2023年10月31日に閣議決定されるまでの検討・意思決定のプロセスを示す一切の文書又は電磁的記録。特に、合議体を必置とする国立大学法人の対象が「国際卓越研究大学」から「一定水準の規模を有する法人」に変更した経緯、文科大臣の委員任命への関与が「法人の申出に基づき任命」から「承認が必要」に変更した経緯を含む。
・総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会(2023年9月7日)で文部科学省 井上睦子 国立大学法人支援課長が合議体の当面の設置対象として5法人(東北大学、東京大学、東海国立大学機構、京都大学、大阪大学)を選んだ理由を「3つの観点(学生数、経常費、教職員数)で比較した結果、突出して大きい」と説明した根拠を示す文書又は電磁的記録。
1件目(検討・意思決定プロセス)について補足すると、2022年2月1日付のCSTIの議論では内容は従来案のままだったため、変更はそれ以降と判断して期限を区切りました。また、必置対象拡大と文科大臣の関与強化は特に重要なため、対象に含めると明記。
2件目(5法人の選定根拠)は補足不要かと思いますが、「突出して大きい」という説明に合理的な根拠があるのかを確認することを目的に開示請求しました。
結果、12月22日付で2件とも開示決定し、まず1件目(検討・意思決定プロセス)は以下5点の開示が決定。
2023年12月22日 開示決定通知書
*立法事実の核心となる会議(同年5月24日 文科省 高等教育局)の資料は開示決定通知書に記載なし。開示請求では存否を開示請求日(今回は文科省が受け付けた11月22日)で判断するため、12月上旬に参議院で不存在とされた同文書の記載が無いのは開示請求制度の運用としては正しい。
改正案の検討に関する会議、説明、意見交換について、現時点で判明している出来事と今回の開示請求結果の対応関係を時系列で整理すると、以下スライドのようになります。
©️2023 Jun Inukai
立法事実の核心は開示されなかったとはいえ、今回の開示文書の記述内容の変化を時系列で整理すると、文科省の検討過程や思惑が透けて見える結果となりました。
また、2件目(5法人の選定根拠)についても文書1点の開示が決定し、選定根拠に合理性があったのかは明白になりました。
今回のニュースレターではこれら開示文書6点(計9枚)から読み取れる事実を整理することで、国大法の立法事実は極めて曖昧であり、だからこそ与党・文科省はその曖昧さを隠すことに注力していた実態を白日の下に晒していきます。
本編の目次
-
運営方針会議の必置対象が拡大した経緯
-
当面の対象である5法人の選定根拠の合理性
-
「速やかに作成する」はずの公文書の進捗状況
*今回は完全独自の取材に基づいており、続きはサポートメンバー限定で公開します。一定期間経過後も無料読者には公開されません。
*サポートメンバー登録(月額600円~、解約はいつでも可)すると、すべての記事をいち早く読むことができます。さらに、過去の配信分も含めて有料コンテンツが全て閲覧できます。
*ニュースレターの重点テーマ、特に反響が大きかった過去のコンテンツはリンクを参照ください